生駒
十年目。山に斬撃を飛ばせるようになった。
二十年目。山を真っ二つにできるようになった。
五十年目。山を三つにできた。
八十年目。山を五つにできた。
そして百年目。鬼は言った。
「お前の百年を見せてみろ」
「はい!」
俺はいつものように刀を振り下ろした。
「……よし卒業だ」
「はい!」
「刀をくれてやる。それを持って転生しろ」
「はい! って、転生?」
「そうだ」
え? なんの事?
クエスチョンマークを並べる俺に鬼娘さんが応えてくれた。
「肉体を与えて人間の世界に帰してあげるのよ」
「そ、そうなんですか……」
「あまりうれしくなさそうね」
そりゃそうだ。だって死んでから百年だぜ? ある意味百年経ってどのくらい科学が進んでいるのかとかそうゆうのは気になるけど。
「あれ? 俺様はなんで修行をつけてやるのか言ってなかったけか?」
「言ってなかったわよ……内緒にしてるのかと思って私も言わなかったんだけど」
おい。百年いい忘れてたのかよ。
「まぁ別にいいか。これは転生試験だ」
「試験?」
「お前がこれから転生する世界は元いた場所じゃない。魔法と剣の世界。いわゆるファンタジーな世界だ」
「ファ、ファンタジー!?」
「おうよ! 辻斬り野郎になるもよし! 殺人鬼になるもよし! 魔王になるもよし!」
「なんで怖いのばっかなの!?」
まったく人をなんだと思っているのか……。そうゆう世界なら冒険したり騎士になったりしたほうがかっこいいじゃないか。
「ほれ。これが鞘だ」
百年間刀身をむき出しにしていた相棒の無銘刀に鞘があったのか。そうだ。名前をつけなくては。
「決まったか?」
「はい。名前は……」
『生駒』
もう何十年も前に名前はつけていた。
「じゃあ鞘に生駒って名前を彫ってあげるわ」
鬼娘さんが銘を刻んでくれた。そして鞘に初めて刀を納める。なんだか生駒完全体って感じだ。鞘があるなら抜刀術とかも出来るようになりたいな。
「じゃあこれでさよならね。私は少し寂しいわ」
「え? もうお別れなんですか!?」
「ああ。もう転生の準備は完了している。早くお前の魂をあっちの世界の肉体にいれてやらないと魔物に食われて死ぬぞ」
「そんな場所に肉体用意したの!?」
「まぁお前ならまた地獄に来るだろ? そのときに色々話を聞かせてくれよ」
「私も楽しみにしているわね」
「地獄に堕ちるの前提!?」
最後に二人の名前を教えてもらおうとした。だが断られた。鬼の名前を聞いてしまうと一生地獄で過ごしていかないといけないというルールがあるとの事だ。恩人の名前がわからないまま地獄を去るのが心残りだった。
「じゃあな」
「またね」
「えっ、あ……お世話になりました! さようなら!!」
俺の意識はここで途切れた。
「すごかったわね。あの斬撃」
「ああ。たいしたもんだ」
彼は山を五つに分ける斬撃を放った後に渾身の横一閃を放った。その剣圧は山を消滅させた。鬼である二人は山があった場所に座りこみ祝杯をあげた。
「今度こそあいつの人生がいいものになるといいな」
「えぇ。そうね」
最後にあいつまた絶対地獄にくるぜと笑いながら杯を交わす二人の鬼の姿がそこにはあった。