「我が覇道に力を貸せ」
まるで二人の目を潰さんとばかりに眩く輝いたパンティは、徐々にその光を弱めていった。
その光につい目を瞑っていたデュアンは、はっとして叫んだ。
「しょ、召喚は!?美少女クノイチはどうなったのだ!?」
「デュ、デュアン様、落ち着いてくださいっ」
「ええい、落ち着いていられるものかっ!折角、禁を犯して行った儀式だ、失敗など許されるものかっ」
強い語調とは裏腹に、デュアンは冷静な様子で魔素回線を開き、城内の部下からの報告を受け取った。
すると、ある二名の部下からこのような報告があった。
「デュアン様、城内にて不審な少女を確保しましたが……如何致しますか」
「デュアン様、城内にて奇っ怪な服装の少女……幼女?を確保……保護?しましたが……如何致しますか」
するとデュアンはみるみる表情を明るくして、
「ああ、二名とも連れてこい。早急にだ。ーー手荒な真似はするなよ、大切な美少女クノイチだ」
そう言われ、二人の部下は返事をし、回線は途切れた。
数分後、自室に戻っていたデュアンのもとへ、部下たちが少女と幼女を連れてきた。
「ちょっと、何するんですか!離してください!っていうかここどこなんですか!?」
「……あなた、慌てすぎよ。暴れすぎてパンツ見えそう」
「え?う、嘘っ、ちょ、見ました!?見たんですね!?」
と、急にデュアンの方を見ながら叫んだのは、恐らく部下の話にあった「少女」の方だろう。長い茶髪をツーサイドアップにしてある。白いワイシャツの上に紺のブレザー、下は暗い緑のプリーツスカート。これは恐らく書物にあった「セーフク」という服装なのだろう、とデュアンは推察した。
「ちょっと、無視しないでください!見たんでしょっ」
そしてデュアンはもう一人の、幼女の方を見た。腰まで届くかというほどの長い黒髪、そしてフリルのついた真っ黒な衣装。両手で抱えているのは何かよくわからない生物の縫いぐるみだ。それは典型的なゴシックロリータファッションであったが、デュアンはその用語を知らなかったため、やはり部下と同じく「奇っ怪な服装だ」という感想を抱いた。
「あ、あのー……私、ここにいますよ……無視しないで……」
デュアンは部下に合図を送って下がらせると、少女と幼女に向かって言った。
「ようこそ、魔界・グランディアへ。我が親愛なる使い魔よ」
「……はい?」
「……使い魔、ね」
「そうだ、使い魔だ。どうやらそちらの幼女……?は呑み込みが早いようで、なによりだ」
「え、あの、ちょっと」
「なんだ」
かなり困惑した様子で、少女は言った。
「魔界とか、使い魔とか、なんなん……なんなんですかぁ!?」
「急に大きな声を出さないで。ひじきが驚くでしょう」
「ひじきってなに!?」
「この子の名前よ」
そう言って幼女は抱えていた縫いぐるみを少女の眼前に突きつけた。そして、「コンニチハ」と少し低い声で言いながらひじきの首を直角に思い切り曲げた。それはデュアンから見てもかなり不気味な光景であったため、間近で見せられた少女が「ひっ……」と小さく悲鳴を上げたのは仕方のないことともいえる。
「ち、違う、そんなことじゃなくって!」
「そんなこととはなに。ひじきは私の大切なお友達よ」
「あーもう!じゃあ、その、ひじきのことは置いておいてっ」
そんな彼女たちを眺めながらデュアンが、
「……なんだ、アレは。本当にクノイチなのか……?」と呟いていると、側に控えていたアーリュが耳元でささやいた。
「デュアン様、彼女たちには私の方から説明を」
「ああアーリュ、すまない。頼んだ」
アーリュは少女たちの前に立ち、説明を始めた。
「そのことに関しては、私から説明させていただきます」
「えっと……はい」
「質問があれば、いつでも仰ってください」
「は、はい」
「まず、魔界というのはここ、グランディアの異名です」
アーリュは、世界には魔界と天界、異界が存在すること、そして恐らく少女たちが元いた場所であろう「ジャポネ」がその異界にあたること、そしてデュアンが行った召喚の儀式について簡単に説明した。そしてその結果現れたのが少女たちであることも。
話を終えると、ぽかんと口を開けている少女と、得心のいった顔の幼女がまるで対照的だった。
きっと少女の方はアホの子なのだろうな、と断定すると、デュアンは立ち上がり、言った。
「自己紹介がまだだったな。ーー我が名はデュアン・ハルバート。お前たちの主だ」
「主……って、え?よくわからないんですけど……」
「主。まあ、召喚なんてされてしまったら仕方のないことかもしれないけれど。それなりの待遇は期待しても?」
「構わん。可能な限りでお前たちの望みは実現してやろう。その代わり」
「その代わり?」
デュアンは両腕を広げ、力強く叫ぶようにして言った。
「我が覇道に力を貸せ。お前たちの力で、世界を掌握するのだ」
やはり少女はぽかんとしていて、幼女は難しそうな顔をしていた。
デュアンは、期待と不安のないまぜになったような感覚を得ていた。