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自作小説倶楽部 第3冊/2011年下半期(第13-18集)  作者: 自作小説倶楽部
第14集(2011年8月)/テーマ「海」&「サーカス」
9/42

NO.4  しゅーひ 著 海 『夏の海にて』

 夏の日差しがアスファルトを容赦なく焼いている。海岸沿いの緩やかな坂道を自転車をこぐ俺の体は汗でいっぱいだ。

『あちぃ・・・』

朝から何度も口から漏れる言葉だか、言わずにはいられない。車もあまり通らないこの道に陽炎が立ち上り、むせ返すような暑さに拍車をかける。

 坂道をママチャリで登るのはそろそろ卒業したいのでお袋にバイクの免許について打診をしたところ、『高校卒業まではダメ』と言われた。今、乗らないでいつ乗るんだと抗議したが、『もし、黙って免許なんか取ったら今後夕飯は無いと思いなさい』という母親の絶対権力を行使されたので俺はしかたなくママチャリをこぐ毎日を送っている。小学生の妹であるカオリが、新しい自転車が欲しいと一緒になってわめいていたっけ。

 通学路と反対方向であるこの坂道を登りきると、少し高台になった場所から海が一望できる。観光名所でもなんでもなく、まさに地元の海というもので味気もそっけもないが俺はここの景色が好きだ。

特に日差しを反射した水面が一面にきらめいている夏のこの時期が良いと思う。

 景色がいいのにあまり人が来ないのは、裏にある石の塔が連立している場所のせいだと思う。つまり、墓地があるのだ。ウチを含めて近所の人たちの先祖代々からの墓がある。俺としては我が家の墓地なのでなんとも思わないのだが、他人からしたら気分のいいものでは無いだろう。

 ~あら?今日も来たの?~

 気がつくと、隣に綺麗なお姉さんが立っている。白のワンピースに白い肌であり暑さを感じさせない爽やかさがある。そして、少しばかり透けている。

『やぁ、リョウコさん』

 リョウコさんは俺を見て、クスっと可愛らしい笑顔をみせた。

 ~また、後でね~

 と、言って光の中に消えていった。そう、リョウコさんはこの墓地に住む幽霊であり、ご近所のご先祖様の一人である。

~よぉ!坊主、元気でやってるか?~

 ねじり鉢巻をして、いつも酒をもっているジロウさんだ。この人も気さくに声を掛けてくれる一人だ。そしてやっぱり幽霊だ。

 言っておくが、俺には霊感は全く無い。でもなぜかここの墓地にいる人たちだけとは話ができる。最初は、それはもうびっくりしたものだ。しかし、ここにいる人たちは皆、気さくに声をかけてくるので怖さという感覚がなくなってしまった。

 幽霊で気さくっていうのも良くわからないんだがね。この墓地にずっといるという事は、俗にいう自縛霊というヤツで成仏できてないんだと思われるのだが、なぜか妙に明るい人たちばかりなのだ。

 そんなわけで、俺もここに来た時は色々な人と話して海をみている事が多い。

 暑い中、墓地まで自転車をこいでくるのはここの人たちと話す楽しみがあるのかもしれない。入れ替わり、立ち代りくる誰かのご先祖の幽霊さん達と夕方まで話すことがよくある。

 これって高校生としてどうかと思わんでもないんだけどな。でも、俺って何時からこの人たちと話せるようになったんだろう。そこらあたりがちょっとあやふやで記憶がしっかりしていない。気がついたら話せるようになっていたんだ。

 これも、ご先祖孝行という事で自分を納得させている。日が傾いてきたので、そろそろ戻るとしようか。

『ただ今、母さん。今年は旦那は置いてきたわ。リナと二人でやっかいになるわね』

『おかえり、カオリ。暑い中ご苦労さんだね。今年はゆっくりしていけるのかい?リナ!大きくなったね~あれ?いくつになったんだっけ?』

『母さん、もう小学3年生よ』

『あら、そうかい。やだね~おばあちゃんになるわけだ』

 毎年、この時期は実家に帰るようにしている。今年は旦那が仕事で休みが取れなかったので娘と二人での帰省だ。

『母さん、先にリナと一緒に行ってくるわ』

 リナの手を引いて、海岸沿いの揺るかな坂道を登っていく。

『ねぇママ、この道はお墓に行く道だよね?』

 リナがニコニコしながら聞いてきた。毎年の事なのでもう道を覚えたようだ。

『そうよ。おうちのお墓があるのよ』

『だれが入ってるの?』

『リナのおじいちゃんのお父さんのその又上のお父さんがいるのよ』

『お父さんだけ?』

『ううん、リナからしたら叔父さん。ママのお兄さんもいるわ』

 私が小学生の時、兄はこの道で無免許でバイクに乗り単独事故を起こした。滑って横転し、壁に激突してそのまま帰らぬ人となった。まだ17歳だった。暑いこの時期が兄の命日である。お墓参りをすませて海を眺めた。日差しが水面に反射している。

『キラキラして綺麗ね。リナ』

『うん。お兄ちゃんも嬉しそうだよ』

 リナはそういってこちらに笑顔を見せた。何の事だかわからなかったがあえて聞かない事にした。

『さぁ、早く帰ってアイスをたべようか』

 リナの手を引いて緩やかな坂道を下っていった。どこかで若い男の子の笑い声が聞こえたような気がした。

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