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自作小説倶楽部 第3冊/2011年下半期(第13-18集)  作者: 自作小説倶楽部
第14集(2011年8月)/テーマ「海」&「サーカス」
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NO.1 奄美剣星 著 サーカス 『神宮少佐奇譚』

トパーズを削り出して天に向けた格好の三階建てアールデコ風建物。そこが「彼」の城だった。


「失礼します、首相秘書の桜澤です」


「陸軍参謀本部の神宮少佐です。ようこそ『研究所』へ。貴女が何しにここに来たかは分かっているし、リストは手元に届いている」


「そうでしょうか?」


桜澤はうつ向いた。泣いているようにもみえる。若い高級将校はソファを指さして若い女性秘書に座るよう勧め、葉巻をくわえると机の上に軽く腰掛けてはにかみかけたときだった。


桜澤の長い髪が、しゅるると伸びて神宮にまとわりつき、軍服を切り刻んでゆく。そして上半身が裸となったところで、座っている自分の長椅子に引っ張り込む。


途端、女の服も散り散りとなって霧散。全裸となって仰向けにさせられた神宮の上にまたがった。神宮は横目でソファの下をのぞいてみる。


(まるでサーカスの空中ブランコだ)


なんとソファは、両端がロープでつながれていて、あたかもブランコのようになっているではないか。桜澤が体躯を前後に蠕動ぜんどうさせるたびに、宙づりの長椅子もまた振り子運動をするのだ。


桜澤が、はだけた乳房の突端を上半身の服を裂かれてしまった神宮の胸板に羽毛でくすぐるかのように蠢動させる。


神宮は桜澤の髪を撫でた。撫でながら左人差し指で、中指にはめた指輪のダイヤモンドの宝石を台座から横にずらし、中に蓄えた聖水を垂らしたのだった。


あっ、あああっ。


女は無念そうな表情となり神宮の唇に自らの唇を重ねたところで消えていった。



ソファはなおもまだ宙空に浮かんでいた。入口側の壁から窓際に向かって蜘蛛が飛んでロープになる。その上を童女が玉乗りしながらやってきて、胸板のあたりで立ち止まり神宮を見下ろす。


「彼女の生霊、だんだん手に負えなくなってきたわね。いい加減、セックスしてやったら?」


長い黄金の髪、赤いリボン、エメラルドの瞳。


「『天使』君。来訪の際は一報してからと忠告したはずだが」


「やっぱり、貴男は私を愛しているのね?」


問いかけは無視する。神宮少佐が、「天使」と呼ぶところの笑みを浮かべた招かれざる客も期待している様子はない。


『天使』といわれた童女が嘲笑した。華奢な両腕を伸ばして中空に羽ばたかせると白鷲のような翼となり、マントのように翻して日輪のような後光が暗い部屋を真っ白にしてから消えゆく。



眩しげに双眼を細めた神宮は立ち上がるとデスクの灰皿に葉巻をねじるように火を消しベルを鳴らした。


いつもよりも声が弱弱しい。


「風見君、珈琲を。それから消毒薬を多めに、解熱剤も持ってきてくれ」


ほどなく士官学校出たての少尉が珈琲を運んできた。



(了)




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