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自作小説倶楽部 第3冊/2011年下半期(第13-18集)  作者: 自作小説倶楽部
第13集(2011年7月)/テーマ「浴衣」&「幽霊」
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NO.6  雨宿 著 幽霊 『夏休みの二日前』



いつもどおり目覚まし時計が鳴る少し前に目が覚めた。のそりと身を起こし体をひきずるようにして階段を降り、洗面所に向かった。

「……ん?」

不意に微かな違和感に気づき、歯を磨く手を止める。この時間。いつもならリビングに新聞を広げる父親の姿があり、朝食の支度する母親の音が聞こえるはずだった。今朝に限ってはその両方が無かった。しかし。それだけといえばそれだけのこと。口をすすいだ水とともに違和感は身内から吐き出された。

「なんだ、これ……?」

冷蔵庫を開けると、何も入っていなかった。食べ物はおろか、醤油やバターといったものさえ入っていなかった。それから一度冷蔵庫を閉じて、ひと呼吸おいてから開けてみた。冷蔵庫の中身は空のままだった。

妙な不安に駆られて、ダイニングテーブルに置かれたリモコンをテレビに向けた。だがテレビの電源は点かない。すぐに本体のスイッチも操作した。真っ黒な画面には薄っすらと不安げな自分の顔が写っているだけだった。

「……停電?」

そう考えれば、冷蔵庫の中身がないことも、両親がいないことも納得できる気がした。事実、照明や電子レンジなど他の電化製品も使えなくなっていたのもこの考えを助長させた。

「ってか、今日って……何曜だっけ」

何となく安心したせいか、別のことを考える余裕ができた。壁の時計に目を向ければ、もうすぐ8時を回ろうとしていた。何曜日かは分からなかった。

すぐに部屋に戻り、携帯の画面見て溜息をついた。電源が切れていた。充電器フラグを差し込んでみたが、やはり停電しているらしく電源が入る様子はない。

「たぶん。今日は日曜」

呟きながら何となく首を振ると壁にかけてあった高校の制服が目に入った。制服のポケットに日付表示ができる腕時計が入っていたのを思い出し、取り出す。

『 2017 / 7 / 22 Fri 8:07 』

デジタル時計の画面はそんな数字を表示していた。

「平日か」

 急いで制服に着がえた。ワイシャツのボタンを閉めて、最後に腕時計を右手に巻き、家を出た。

愛用の自転車でいつもの道を走り抜けた。

途中、ちょっとした段差に気づかず派手に転倒した。好運なことに、かすり傷1つなかった。

 なんとかHRが始まる直前にざわつく教室へ滑りこむことができた。

「え?」

 教室の中に知っている顔が1つもなかった。教室を間違えた。慌てて教室を出てクラスの表札を確認する。

『2-C』

 その記号は間違いなく自分のクラスのものだった。もう一度教室に入り、教壇の近くから見わたした。そこにあったのはやはり知らない顔ばかりで。それどころか……誰もこちらを見ていなかった。輪郭のつかめない衝撃によろめきながら、何かの冗談だと自分に言い聞かせ、半笑いを浮かべて、手近に座っていた男子生徒の肩を掴んだ。  が、感触がなかった。まるで目の前の男子生徒が幻か何かであるように伸ばした手は何の感触もないまま男子生徒の肩をすり抜けていた。

 冷たい何かが、血液の代わりに全身を駆け巡り、頭の中が白濁した。次に何かを考える前に、教室から駆け出していた。

 途中何人かの教師とすれ違った。しかし、誰1人として視線を向けてくる者はいなかった。気づけば保健室の前に立っていた。悪い夢だと思った。だから、漠然とベットのあるところへ向かったのかもしれない。ドアを開けた。

「遅かったじゃない」

 その声に弾かれるようにして顔を上げると、淡い緑色のワンピースの上に白衣を羽織った女が長い足を組んで座り、こちらをまっすぐ見ていた。呆然と立ち尽くしていると、薄く紅が塗られた女の唇が動いた。

「ドア。閉めてくれないかしら?」

言われたとおり、ドアを閉めて保健室の中に入った。

「さて、と。現状は正しく認識しているかしら?」

「……お前は誰だ?」

 女はふうと溜息を1つつき、悲しむような慈しむような複雑な表情をした。

「質問に質問を返すのは理解に対する冒涜よ。もっとも理解したくない気持ちも分からないでもないけれど」

「一体何を言っている?」

「教えてあげるわ。何もかも。……君は6年前に死んだの」

「え。死……?僕が?」

  女は頷いた。

「そう。今のあなたは幽霊。私は今から君を祓う」

女は白衣のポケットから波を打つように刀身が曲がりくねった短剣を取り出し突きつけてきた。

「何か言い残すことはあるかしら?」

「……僕はどんな死に方をしたんだ?」

「最低の死に方だったわ。顔見知り程度の女の子を助けて死んだ」

「そうか」

何かを思い出そうと目を閉じた。一瞬、誰かの泣き声が聞こえたような気がした。しかし、ズブリ、と。体の中に温かい何かが入ってくるのを感じた。女が持っていたナイフが胸に突き立てられていた。痛みはなかった。

「さよなら」

 女は泣いていた。涙の意味を考える前に、意識は明るい何かに呑まれて消えた。

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