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自作小説倶楽部 第3冊/2011年下半期(第13-18集)  作者: 自作小説倶楽部
第17集(2011年11月)/テーマ「秋刀魚」&「波」
29/42

NO.2 パールくん著 『秋刀魚』

金曜の夜だから。


二人でみたい映画を選んだ。


こんなに遅い時間だから、家での鑑賞なんだけど、香子はこっちのほうが好きだ。


「ねえ、明日お休みなんだからさあ、2本くらい見たっていいのに」


香子の甘えた声に、篤は苦笑する。


「かおちゃんはいいけど、俺はそんなに見られないよ」


雰囲気をだすために部屋の照明も少し落とし、準備万端だ。


ビール片手に。


「かんぱーい」


「乾杯」


「あつしってさ、ジョッキ凍るほど冷やすよね。そのほうが美味しい?」


「うん、絶対こっちのほうが美味いよ」


へえと頷きながら、香子は缶のままのビールをチビチビ飲んだ。


映画は、医療モノで、ドラマにもなっていたが、それ以前に二人で小説を読んでいる。


話の筋はわかっているし、自分の頭のなかで創り上げた映像イメージが既にある。


篤とは、そのイメージが非常に近い。


きっと、感性が近いのかな、とか、以心伝心かしら、などと心の中でのろける。


この役は、誰々がいいとか、なんでこの役が女になってるんだー!とか、お互いに好きな事を言いながらの鑑賞は、すごく幸せ。


映画も中盤に入った頃


「ちょっと腹減ってこない?秋刀魚でも食う?」


「えー、なんで秋刀魚」


「だって、仕方ないだろ、実家から送ってきたんだから」


篤の実家は釧路で、それこそ尾びれを持ってたてると、ピンとたつくらいの新鮮な秋刀魚が送られてくる。


「じゃあ、焼いてきてぇ。待ってる」


「はいよ、ちょっと待っててな」


待ってる間に、香子はチューハイを手にして、映画を一時停止にした。


一時停止って、何分くらいで動き出すのかな。普通に停止したほうがいいのかな。


説明にかいてあると思うけど、読むの面倒いから、篤に聞こう。


と考えているうちに、篤が戻ってきた。


「ほっくほくだよー。大根おろしもつけたぜ」


「おお、いいね。私も食べよ」


「一緒に食べよう」


篤がにっこり笑う。


そして、再生ボタンを押す。見ながら食い。



「やー、美味かった。今年のはでかいな」


頭と真ん中の骨と尻尾だけ残して、篤は綺麗に秋刀魚を食べた。


「私の、しょっぱかった・・・」


「ありゃ、まじ?」


「でも、骨までぜーんぶ食べたもんねっ」


「ウソ?硬くて食えんだろ?かおちゃん、何食べてるの?」


「秋刀魚だよ。缶詰の・・・さんまの開き!」


「・・・・・・・」


「え?何?聞こえないよ」


香子は携帯を耳にぎゅっと押しつけた。


映画のボリュームを落とす。


「だからさ、俺んとこの秋刀魚、食わせたい」


「私だって、食べたいよ、篤の焼いた秋刀魚。でも、明後日は仕事だもん、行けないし」


「でも、食わせたい。金曜の夜に、ビールと缶詰のさんまで、PCの前に座ってるお前のこと考えたら、すげー切なくなった」


「ん・・・」


私は泣いてるのだろうか。鼻の奥がツンとする。


こうやって、遠距離でも携帯で話しながら、一緒に映画をダウンロードして同時に見てたら


デートしてる気分に浸れた。


でも、やっぱり寂しいよ。


同じ物を食べたい。


ふれ合いたい。


「俺、明日朝イチで行くわ。待ってろよ!いまから準備するから、今夜はデート終わりな」


「え・・」


「映画は、明日の午後。続き見ような」


「うん!」


香子はズズっと鼻をすすりながら、笑った。


携帯を切ると、熱くなっていた。


明日、篤が来る・・・


部屋を片付けなきゃ。


ていうか、コンロ!秋刀魚を焼くグリルを掃除しないと!


香子は仕事の疲れも、酔いも忘れ、深夜の大掃除を楽しんだ。





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