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自作小説倶楽部 第3冊/2011年下半期(第13-18集)  作者: 自作小説倶楽部
第16集(2011年10月)/テーマ「ハロウィン」&「喫茶店」
22/42

NO.3 パールくん著 喫茶店 『デートの前菜』

亮子はこれから初デートに行く。


先週の社員旅行で温泉旅館に泊まり、別の会社の男性たちと知り合った。


同僚の男たちは、どうもパッとしなかったから、彼らをほったらかして、ホイホイ別の会社の部屋へ遊びにいった。


そして、そのなかのひとりとデートの約束をした。




ちょっと早めに街についてしまったので、デパートの化粧品売場で買い物がてら化粧を直してもらおうと思った。


気合が入っているなと、自分でも自覚できる。


可愛らしい薄い色のツイードのジャケットに柔らかい膝までのスカートは、バッチリ勝負服だ。


勧められたパープルのアイラインは、最初は抵抗があったものの、艶がでて意外と肌にあっていた。


アイメイクをあれこれ選んで、プロの業で顔を作っている間じゅう、他の客が妙に気になった。


化粧品売り場に男客。


店員たちとも親しげだし、メークアップアーティストとかいう人種だろうか。


服装も派手で、亮子のまわりにいるような、お固い勤め人とは、まとう空気が違うようだった。




本屋で立ち読みをし、いつもより高いヒールに、足が悲鳴をあげるころ、ようやく待ち合わせの喫茶店へ向かった。




喫茶店はビルの2階で、外階段を登りきるとテラスになっている。入り口はその奥。


階段へ近づくと、人が駆け降りてきた。目の前に立ちふさがると、


「あんた、警察?刑事でしょ?」


化粧品売場にいた男だった。


「俺を尾行してるんだな!」


襲いかからんとする勢いに、亮子は目を白黒させて驚きながらも、非常に気味が悪かったので無視した。


(ヘンな人だ、怖い)


男の横をすり抜けると、振り返らないように、階段を駆け上がった。


店内に飛び込んでから、大きなガラスのドア越しに外をうかがうが、追いかけては来ていない。


心臓がバクバクし、膝がガクガクする。


呼吸を整えながら、店内へ目をむける。


窓側の席に座り、こっちを見て笑顔で手のひらを向けたのがデートの彼だ。


まずは、彼のいる席につく。


何か会話を交わしているが、亮子の頭の中ではさっきのヘンな男のことばかり考えてしまう。


何だったんだろう?薬とかやってる人なのかな。ラリってるとか。


それとも、マジで犯罪者だろうか。


もしかしたら、本屋でもすれ違ったのかしら。だから、疑われたのかな。


同じ場所にいたから。


ていうか、こんな華奢で可憐な乙女にむかって、刑事?ってどういうことよ。


こんなに可愛い刑事がどこにいるってのよ。


気持ち悪さから、腹立たしさに変わってきたのは、少し落ち着いた証拠だ。


コーヒーを飲みながら、やっと目の前の彼を観察する。


チェックのネルシャツに短髪。


バスケをしているという体は細身であり、好青年の部類だ。


「さっきね、ここに来るときに変な人に声かけられたのよ。」


「へえ、ナンパされたの?」


「ううん。あんた警察だろって。俺を尾行してるんだろって。」


「なんだそれ。やっぱ、新手のナンパなんじゃないかな。」


あんな異常なナンパなんてあるわけないだろ、とつっこみたい。


「うーん、もっと真剣に変質者っぽかったんだけどな。」


「いろんな人がいるからね。」


会話が膨らまない。


結局、その日はお茶だけだった。


その後も亮子から連絡はとっていない。


何度か携帯に着信はあったが、つい、返事を先延ばしにしているうちに、そのまま忘れてしまった。


そして、そのまま。


おそらく、すれ違っても彼だとわからないんじゃないだろうか。


デートの前の出来事が印象的すぎて、メインのイベントがすっかり色あせてしまった。




あれから季節が何度か変わるまで、亮子が街を歩くときはいつも


あの、警察に追われているかもしれない男のことを思ってしまう。


―― まだ捕まってませんか?


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