表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第3冊/2011年下半期(第13-18集)  作者: 自作小説倶楽部
第13集(2011年7月)/テーマ「浴衣」&「幽霊」
2/42

NO.3 BENクー 著 僕が幽霊を怖がらなくなった訳

小題「浴衣/幽霊」


≪僕が幽霊を怖がらなくなった訳≫


僕が9才、弟が7才になった夏休みのこと。僕たちは、初めて二人だけで母の田舎に行った。新幹線で博多まで行き、列車を乗り継つぎ、田舎の駅に迎えに来ていた祖父母に会うまで約12時間の旅だった。祖父母の家に着いた僕は、夕食後に熱を出して寝込んでしまった。

おそらく、出発の数日前から、「お金は肌身離さず持っていること。車内では騒がないこと。弟から目を離さないこと。乗り換えや分からない場合は駅員さんに尋ねること」などなど、母から何かと諸注意を受けていたため、祖父母に会ったとたん緊張の糸が切れ、夕食後にその影響が出たからだろう。


熱にうなされる僕に祖母は、『知恵熱ごたっとだけん、頭ば冷やして寝とったらすぐ良うなったい!(知恵熱みたいなものだから、頭を冷やして寝てればすぐに良くなる!)』と、氷まくらを用意して寝かせた。

その時祖父は、『着いてすぐ熱出すっとが普通ばってん、ちゃんと晩飯ば食うちか出したつは卒ん無か…(着いてすぐに熱を出すのが普通なのに、晩飯を食べてから熱を出す辺りは抜け目ない…)』と言ったらしいが、僕にはその言葉を聞いた記憶はない。

その時僕の記憶にあったのは、寝ていた窓の外に着物を着た女の子の姿が見えていたことだった。女の子は、鮮やかな黄色い帯に白地に花を散らした浴衣姿で僕を見ていた。

…一体どこの子だろう?

朦朧としながら僕は、あきらかに祖父宅の庭に立っているその子を不思議な気持ちで見ていた。どこかで見たような気もしたのだが、もちろんその時は何も思い出せなかった。

翌朝、僕の熱はものの見事に下がった。祖母の言うとおり知恵熱だったようである。僕の隣りの布団では、弟が口をあけたままアホ面丸出しで寝ていた。まさか10年後に国立大に入るとはとても思えない顔をしていた。

喉の渇きを覚えた僕は、台所で朝食の支度をしている祖母に『お婆ちゃん、水ちょうだい』と言って、受け取った500ml入りミネラルウォーターを一気に飲み干した。そして、昨夜見た女の子のことを祖母に話した。すると祖母は、ちょっと不思議そうな顔をしたがすぐに合点が着いたようで、僕を祖父母の部屋に連れて行き、箪笥の引出しを開けると、『タケちゃんが見たつは、こっじゃなかね?(タケちゃんが見たのは、これじゃない?)』と言って、中から昨夜の女の子が着ていた浴衣と帯を出して見せた。

『これこれ。何これ?』

僕は、不思議な思いに駈られて祖母にこう尋ねた。

『これは、あんたのお母さんが子供の時に着とった浴衣たい。ほら、ここに写真もあっと…』

祖母はそう言うと、箪笥の上にある小さい抽斗からアルバムを取り出して僕に見せた。そこには、昨夜見た女の子が写っていた。

『もしかして、俺が見たのは子供の頃のお母さん?』

一層不思議に思った僕は祖母にこう尋ねた。

『多分そうたいね。あの子はあたたちだけウチに来させたつば心配しよったったい。だけん、心配になって気持ちだけでんここに来よったっだろ。なん不思議なこっじゃなか。あたが頑張ったけん、熱ば引かして帰ったったい…(多分そうだね。あの子は兄弟二人だけで田舎に帰したことを心配したんだね。だから、心配になった思いが子供の頃の姿になってここに来たんだよ。何も不思議なことじゃないよ。あんたが頑張ってここに帰ってきて熱出したから、それを治して帰って行ったんだよ…)』

祖母はこう言うと、アルバムの母の姿を見直した。そして、僕にこうも言った。

『タケちゃん、幽霊って恐ろしかもんじゃなかとよ。昨日あたが見たごつ、生きとっても幽霊になってくっとだけん。ほんなこつ恐ろしかつは人間の方だけん。だけん、もし暗かとことか墓場とか行ってもなんもこわかこつはなかと…(タケちゃん、幽霊って恐ろしいものじゃないんだよ。昨日あんたが見たように、生きてても幽霊になってここに来るのだから。本当に恐ろしいのは人間の方だからね。だから、もし暗い所とか墓場に行ったとしても何も怖がることはないんだよ…)』

この時を境に、僕は幽霊を怖がらなくなった。そして、浴衣の女性を綺麗だなと思うようになった。


-おしまい-




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ