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NO.1 奄美剣星 著 幽霊 『神宮少佐奇譚』
トパーズを削り出して天に向けた格好の三階建てアールデコ風建物。そこが「彼」の城だった。
「ようこそ『研究所』へ。貴女が何しにここに来たかは分かっているし、リストは手元に届いている。ああ、私か。陸軍参謀本部の神宮少佐だ」
「お若いのですね。その若さで所長。もっともこの分野ばかりは年功序列も出自も関係なく、異能の『血筋』でしか勤まらない」
若い高級将校は葉巻をくわえると机の上に軽く腰掛はにかむ。
「ご令嬢、『憑き物』にお悩みとのことだが大した問題ではない」
「え? 私は生まれたころからこれで悩んでいた。どんな祈祷師でも『払う』ことはできなかった」
「払う? そんなことに意味はない」
「意味がないですって!」
令嬢は紅潮して勢い詰め寄る。少佐は平手を上げようとした女性の手をつかみ抱き寄せると唇を奪った。大きな窓から月明かり。長い口づけ。髪につけた赤いリボン、青いドレス。そればかりが床に残る。
「ふうん、生霊ねえ。願いはかなえてやったよ」
神宮少佐はベルを鳴らして珈琲を部下に命じた。珈琲を運んできた部下の風見少尉と執務を夜の二時までこなし宿舎へ帰る。
(了)




