第22話 機密物資奪還作戦
皆さん、こんにちは。蒼き星です。
2週目の一番手を取らせていただきます。
これからもよろしくお願いします。
午後9時。
夜の暗闇が支配している鈴音学園の校門にメイド服を着用した吹雪がやってきていた。無論、この時間帯に遊びに来たわけではない。
「由莉さんも迂闊だな。忘れ物をするなんて」
そう、由莉の代わりに忘れ物を取りに来たのだ。本人があまりにパニクっているため、その恋人である悠也に頼まれる形でコスプレ中の吹雪が出てきたのだ。
「よぉ、吹雪じゃないか」
同じ学園の生徒である杏子が後ろから近寄ってきた。
「杏子さん、いったいどうしたの?」
「商売道具を机に忘れちまってな。それを取りに来たんだ。お前こそそんな格好でどうしたんだ?」
「クラスメイトの代わりに忘れ物を取りにきたんだよ」
「なるほど。じゃ、さっさと物を取りに行こうぜ」
2人は校門を登って敷地内に降りると下駄箱に向かい、そこから教室へと歩いていく。階段に差し掛かったところで用務員の江波信彦と鉢合わせになった。
「江波さん、こんばんは」
「お前ら、こんな時間に何をしているんだ?」
「忘れ物を取りに来ただけだ。用が終わったら、すぐ帰る」
「確か2-Aと2-Dだったな。ちょうど見回りの途中だから一緒に行ってやるよ」
「ありがとうございます」
吹雪が笑顔でお礼を言うと、恥ずかしいのか江波は顔を掻く。
「まずは、2-Aだ。さっさと行くぞ」
照れ隠しをするように江波が先頭を行き、2-Aの鍵を開ける。
「ほら、開いたぞ」
「わりぃな」
杏子が中に入り、床の板を1枚外し、右腕をその中に突っ込む。
「そんなカラクリがこの学園にあったんだね」
「いや、俺は聞いてないぞ。というより、なぜあんな所に収納スペースがある?」
「おー、あったあった」
杏子が床下スペースから取り出したのは、1丁の銃だった。
「杏子さん、それなんて言うの?」
「デザートイーグルって言うんだ。普通の奴は、撃つだけで死ぬらしいぜ」
「おい、待て!! なぜそんな物騒な銃がこんな所にある!? ここは、日本だぞ!!」
「聞くだけ野暮だぜ」
「そうですよ、江波さん」
「次は、吹雪の教室だ。よろしく頼むぜ」
杏子は江波の肩を叩く。江波は頭を抱えたい思いだったが、生徒を早く帰らせるために2-Dへと向かうことにした。
「待て。誰かいるぞ」
2-Dの前に着くと、杏子が2人に制止をかける。吹雪は簡易的な透視魔法を発動し、教室の様子を確認する。
「誰かが私の席にいるみたいだね。何をしてるんだろう?」
「鍵は開いてるみたいだな。私が先に入る」
杏子は右手でハンドガンを構え、左手をドアに添えて一気に開ける。
「動くな!!」
杏子が開けると同時に構えた銃の先にいたのは、杏子と同じクラスの幸咲僕だった。
「やあ、杏子ちゃん。こんな時間に会うなんて奇遇だね」
「お前、こんなところで何をしてる?」
「グラビア写真集を読んでいたんだよ。せっかく吹雪ちゃんの水着姿も多く載ってるわけだし、本人の席で読んでみようと思ってね」
「そうなんだ。ありがとう、僕君」
「いや、そこは突っ込むところだろ!!」
「どういたしまして。特に、この上下がリングで繋がった黒ビキニ、ぜひ直接見たいね」
「そして、なにお前も普通に受け答えをしている!?」
「そういうのは、また水泳とかがある時の楽しみにしててね」
「もうツッコミきれねぇ」
杏子のツッコミを上回る速度で僕と吹雪がひたすらボケに回り、杏子はもはや限界だった。
「どうでもいいが、もう家に帰れ。清水も忘れ物を取りに来たんじゃなかったのか?」
「そういえばそうだったね」
吹雪は、由莉の机に近づいてブックカバーに包まれた1冊の本を取り出した。
「それが、由莉の忘れ物か?」
「たぶん、そうだと思うよ。詳しいことは話したがらなかったけどね」
吹雪はあらかじめ用意したビニール袋に収納し、廊下に出たら、天井からバケツをひっくり返したような水が降ってきて水浸しになった。水浸しになったメイド服は吹雪のメリハリがある体に張り付き、そのラインを際立たせている。
「なぜこんなところに罠をしかけられている?」
「扉の間に黒板消しを挟むノリでイタズラしたんだと思うぜ」
「江波さん、もう用は終わったので鍵は閉めてもらっていいですよ」
「お前、そのままで大丈夫か? 風邪引くぞ」
「大丈夫ですよ。生まれつきそういうのには強いので」
清水吹雪は、生命を司る水の精霊と人間のハーフだ。それ故、幼少から病気に感染することはあっても発症にまで至ることはそうそうない。
「実に眼福だねぇ。もっとよく見せてよ」
杏子は僕を拳骨で気絶させ、肩に担ぐ。
「江波さん、お世話になりました」
「忘れ物には気をつけろよ。後、そいつは起きるまでこっちで見といてやるから事務室に連れてこい」
「吹雪、今日はここでお別れだな」
「杏子さん、事務室までぐらいなら付き合うよ」
「別に構わねぇよ。それ、早く届けてやりな」
「分かった。じゃあね、杏子さん」
「またな、吹雪」
吹雪は、2人と別れ、一足先に帰路に着いた。