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第11話 いつもと同じ

どうも、心葉です。

初めてミステリーに挑戦してみました。

結果としては、訳分からんことになってるかもしれませんが、そこは生暖かい目で見守っていただけたらいいなーと思ってます。


「リュウ、おはよう」

いつもと同じようにチャイムが鳴るギリギリに着くように家を出た俺は、これまたいつもと同じように深琴につかまった。

小学校のころからずっと基本的に登校は深琴と一緒、何の変わり映えもしない。

よく付き合ってるだなんだの噂されていたが、実際は幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない。


「ねえ、また髪の毛ぼさぼさだよ?せめて寝癖くらい直してきなよ」

これもいつもと同じ。

世話を焼いているのは一種の母性本能からくるものなのか、よく俺の身だしなみを気にしている。

「いいんだよ別に。寝癖ひとつで何かが変わるでもない」

「そんなんだと女の子にもてないよ?」

「別に構わないよ。というかそもそも見た目だけで好きだの嫌いだの語るのはおかしいと思う。今の世の中整形で顔なんか変わるんだし、見た目だけで決まるんならこの社会の半数を超える人はきっと結婚できないだろうね」

持論を吐き出す俺をジトッとした目線で見つめてくる。


「そりゃ、見た目だけってわけじゃないけど、どんなに性格がいい人だって見た目が悪かったらもてないでしょ?」

「だからさっきも構わないって言っただろ?もてる必要はないんだ。ただ、自分が好きな人に出会ったときその人に自分のことを好きになって貰えたら充分なんだよ」

「じゃあ、今のままじゃその好きな人に好きになってもらえないかもしれないよ?」

「それについても問題ない。今はいないから」

対抗してきていた深琴が口を閉ざす。

この言論合戦は俺に軍配が上がった。


どんよりとした空の下、学校に着くとぽつぽつと雨が降ってきた。

まずい、傘忘れたな。この天気なら少なくとも折りたたみ傘くらいは持ってきておくんだった。

仕方ない、下校までにやむことを祈るか。

ジメジメと鬱陶しい終盤の梅雨、さらに今日が最終日の期末テストが生徒たちの神経を蝕みイライラとさせる。


「おはよう、みずちゃん」

人見知りな深琴が3か月かけてようやくそこそこ仲良くなった佐倉実月とあいさつを交わす。

「おはよう、深琴ちゃん、それに龍斗君もおはよう」

「ん?ああ、おはよう」

積極的に挨拶をしたいわけではないので、基本的にはそのまま廊下際の席に着くのが日常的な行動なのだが、された挨拶はきちんと返しておく。


キーンコーンカーンコーン


1時間目の予鈴が鳴ると同時に、試験監督の先生が入ってきた。

みんな一斉にガシャガシャと席に着く。

最終日の1時間目は数学Ⅰ、きっと苦手な生徒は今頃寝る準備万端だろう。

逆に得意な俺としてはここで点を取っておきたいところだ。

今までのテストはパッとしなかったのも含めると、ここは95オーバーを取っておかないとベスト10入りは難しいだろう。


皮肉なことに今日の女神は俺の敵になったようだった。


「火事だ!!」

試験時間が半分を過ぎたころ、誰かが叫んだ。

あたりが騒然とする。

どこでという情報が抜けていたのでまず窓の外の体育館を見てみるがなんともない。

逆に廊下を挟んだ向こう側のもう一棟の校舎を見ると一階のあたりが燃えていた。

小火レベルではなく火事といっても差し支えないくらいの火の勢いだった。

「みなさん!落ち着いて避難してください。燃えているのは物置だそうですので近づかないようにして体育館に向かってください」


いつの間にか土砂降りになっていたことで退避場所が避難訓練と違う体育館になっていたことに感心しつつ移動する。

全校生徒が集まったことを確認した直後ぐらいに、通報した消防車が到着。消火活動に取り掛かった。

火の手が上がっていたのは1階一番奥の倉庫となっている部屋だった。

隣の美術室まで燃え、火事の規模が大きくはなっていたが1時間足らずで鎮火された。


「ねえ、火事、びっくりしたね」

あの後、現場の調査やらなんやらで大勢の警官、消防官などが入ってきたため生徒は即下校。

当然帰り道も行きと同じように横には深琴がいる。

「ああ、びっくりはしたが落ち着いてみると大したことはなかったな。多分このくらいの火事ならよくて今日の夕刊の地方欄の端っこに載る位だろ」

周囲の生徒たちも俺たちと同じようにさっきあったばかりの火事の話を話題にしているのは一目瞭然。

中には笑顔の者もいるし、不満そうな顔の者もいる。

前者はミーハーか今日のテストが嫌な者、後者はこの先もう一度テストがあると予測している者といったところだろうか。


ちなみにいうと俺はどちらでもない。

いうなれば、考えているといったところだろう。

火事というものは何もなければ起きることはない。

つまり、あの時倉庫では何かが起きたということだ。


可能性は3通り。


一つ目は事故。

しかし、あの時間大方の教師はどこかのクラスに試験監督として行っていたし、それ以外の教師も採点で忙しくわざわざ倉庫まで行くようなものはいないだろう。

生徒は言うまでもなく論外だ。テストの真っ最中なのだから。


二つ目は放火。

となると、誰があの火事を起こしたのか。あり得る可能性は第3者だが、うちの学校の門には警備員が立っているので第3者が入り込むのは難しい。


三つ目は自然発火。

しかし、今日は朝から雨が降っている。

今も、深琴の持ってきた折りたたみ傘に入れてもらいながら帰っているくらいだし、今朝降り始めてから1度も止んではいない。

かんかんに晴れた日なら物置のことだ、山ほどある薬品のうちたとえばアルコールとかにたまたまレンズで光が集められて発火する可能性は無きにしも非ずだが、こんな日に自然発火が起きることは考えにくい。


ここまで考えて手詰まりとなった。

まあ、情報量が圧倒的に少ないから仕方がない。



「ねえ、リュウ?」

ふと名前を呼ばれたことで思考の淵から帰還する。

その目の前には深琴の顔があった。

「ん?なんだ?」

「いや、リュウ、ちょっとボーっとしてたから」

「ああ、悪い。ちょっと考え事しててな」

そういうと深琴は苦笑した。

「どうせ、火事のことでも考えてるんでしょ?今日はついてないよね。夜中にも地震があったし、てんてこ舞いだよ」

ふと耳に引っかかる単語が出てきた。

「地震?」


「夜中3時くらいに揺れた大きいの。もしかして寝てた?」

本人はそんな気ないのだろうが、図星の俺には非難のように見えるその視線が痛い。

午前3時、完全に爆睡中の時間帯だ。

しかも大きな揺れだといっている。

よくそんな揺れの中起きなかったな、俺。

「ああ、思いっきり寝てたと思う。朝起きても家具が倒れてたりしてなかったし、机の上はもとから散らかってるから地震くらいじゃ変わらないし、今言われるまで知らなかった……ってもしかして」


自分で言っていてふと一つの可能性に気づいた。

「あ、でも無理か」

しかしすぐに無理だと悟る。

一瞬、地震でこぼれた薬品に引火した可能性を想定したが、火種がないので結局無理だし、地震からの時間も経ちすぎているので却下。


結局話は振り出しに。


「リュウは、そういう話本当に好きだね」

「まあ、それもあるけど、簡単そうで分からないことがあるとイライラするからな」

知識が足りないためわからないことは仕方がない。

第一イライラする対象がない。

だが、忘れたためにわからなかったり、物事の見方が違ってわからないとかなると完全に自業自得のため自分に腹が立つのだ。

今日の火事でも何か情報が足りないか、視点が違うのだろう。

前者なら仕方がないが、後者なら嫌だ。




翌朝は、昨日のどしゃ降りが嘘のように晴れていた。

昨日火事があったというのに、今日は平常授業、一部の生徒にとってはとてもショッキングな事実だ。

もちろん、俺にとってはどうとでもない事実なのだが。

いや、むしろ喜ばしい事実だ。


「佐倉実月」

朝一番に佐倉実月を見つけ呼びかける。

休み時間になるといつも彼氏の佐藤渉と一緒にいるから話しかけづらいのだ。

「なになに?」

幸いなことに邪険にされず、話に食いついてきた。

「ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」

「いいよ。大方針谷君だから昨日の火事のことかな?でもそれだったら残念だけど情報通な私でもまだ知らないんだよね~」

ズバリ聞きたいことを先回りして答えられる。

だが、ここで諦めるようなことなら最初から首は突っ込まない。

「残念、それもあるけど他にも。最近、あの倉庫よく出入りする人とか知らないか?」

「ん~、それなら科学の先生がよく出入りしてたのと、あとは掃除の人くらいだと思うよ。ちなみに科学の先生が入ってた理由は新しい薬品がなんか届いたみたい」

さすがは一晩でクラスメイトの大半の情報を手にしただけのことはある。

この程度の情報、造作もないことだろう。

「あ、そういえば倉庫で思い出したんだけど、一昨日野球部の子が倉庫の裏あたりでキャッチボールしてて、倉庫の窓割っちゃってたみたいだよ。まあ、地震のおかげで誰が割ったか騒ぎにはならなかったみたいだけど」

ふと、聞たずねた以外の話をついでに話してくれた。

「そう。ありがとう」

「いえいえ。その代わり、今度何か情報があったら教えてね」

「ああ」

朝の予鈴が鳴り響き自分の席へと着く。


それにしても、やっぱり何かの薬品なのか?

薬品、火事の原因になるものとしてはやはりエタノールあたりか。




事件の真相はその日の4時間目にあった科学で見つけた。

授業が終わるまであと5分を切り、ちょうど授業が切り目にたどり着いた。

「あ、それと明後日の科学で炎色反応の実験をする予定だったんだが、使用するはずだった薬品が倉庫の家事で燃えてしまったので、実験は中止となるから明後日も教室で授業は変わらんから気をつけろよ」

教室のあちらこちらから残念そうな空気が漂う。

ん?炎色反応……

ふと頭の片隅に実験の内容が引っ掛かった。

そして、パズルのピースがつながった。


火事の謎が解けた俺は、晴れ晴れとした表情で帰路に着く。

まだ放課後になって間もないが、昨日の家事の片づけはまだ終わっていなかったらしく部活は全面禁止となったため隣にはいつものように深琴がいる。

ふと、俺の顔を見た深琴が訪ねてきた。

「ねえ、もしかしてリュウ火事の謎解けたの?」

「ああ。というか、なんでわかった?」

「そりゃ、長年一緒にいると表情でわかるよ」

恐れ入りました。

こういう時、話したくてたまらないのでわかってくれるとウキウキ口調で話す。


「さて」

名探偵の決まり文句から始める。

「まず、今回の謎は犯人と思わしき人がいないことだ。まあ、学校を燃やしたいという時点でいないはずなんだがな」

「まあ、たしかにね。万引き程度なら生徒が考えそうだけどさすがに放火まではね」

「だとしたら事故の可能性が高いのだが、事故には何かしらの原因が必要となる。だが、火事が起きたのはテスト真っ最中、もちろん生徒は動けないし教師も採点中だ。倉庫に行く必要はない」

ちらっと深琴の様子をうかがう。

一つうなずいたのを見ると、再び話に戻る。

「だとしたら、どうして火事が起きたのか。これが一つ目の謎。つぎに考えるのは、何が燃えたのか。まあ、それは大方薬品だと思われる。あの倉庫には実験で使う薬品とかがたくさん置いてあったからそのどれかだろ。だったらどの薬品が燃えたのか、これが二つ目の謎」

「なるほど、薬品はいろいろな化学変化が起きるからね」

「ただ、そこでもう一つ疑問が出る。なぜ起きたのが昨日なのか。晴れて乾燥している日でなく、ジメジメとした雨の日だったのか。もし真夏とかなら、吸盤とかで屈折して光がエタノールにあたったら燃えそうだが、雨の日なら日光がないからありえない」

ここまで、謎の部分をすべてあげてきた。

そのすべてを解決できるヒントは一昨日の地震、割れた窓ガラス、炎色反応の実験だった。

「今朝、聞いた話によると一昨日に倉庫の窓ガラスが割られていたらしいんだ。さらに科学の先生によって最近新しい薬品が購入されていた。そして、今日の科学の時間、次回は炎色反応の実験をやるつもりだったといっていた。そのうえ、一昨日には地震があった、それも大きめのやつが。このことから予測できることがある」

俺が言ったことを思い出そうと深琴は上を向いていた。

そして、思い出したかポンッと手を打った。

「いいよ、続けて」

「じゃあ、手っ取り早く言うけど、原因は地震で薬品の棚からナトリウムが入った瓶が落ちて割れたこと。そして、昨日降った雨が窓ガラスの割れた部分から振り込みナトリウムにあたり、燃え上がったというところだろう」

おそらく、ナトリウムは炎色反応実験で使用するものだったのだろう。

それが切れていたので、買い足したのが新しい薬品として認識されていた。

「おまけを言うと、ナトリウムの保管の仕方のなかに灯油につけるという手段がある。もし、うちの学校の保管の仕方がそれならきっと瓶が割れたときその灯油もこぼれていたはずだ」


パチパチパチパチ


説明を聞き終わった深琴から拍手を送られる。

「さすがリュウだね」

「それほどでもない。よく考えると、どうでもいい内容だし、これくらいなら警察も現場検証で気づいてるはずだ」


日常の一部にしか過ぎないこんな事件よりもっと非日常の先にある事件を解き明かしたい。

それが現実でなくとも、面白ければいいのだ。

所詮謎とはそういうものだと思う。


ただ、何の謎もない、代わり映えしない帰路もそれはそれでいい。

いつもと同じ道、いつもと同じ格好、いつもと同じペース、いつもと同じ隣。

いかがだったでしょうか?

こんなのミステリーじゃねー!!と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そこは大目に見ていただけるとありがたいです。


それから、キャラを使用させていただいた桜みずきさん、ありがとうございました。

というわけで次はカイ・R・銃王にバトンタッチです。

がんばってください!

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