第1話 わたしのはじめてのともだち
一話で構成しました
なんという酷い展開ですがそれでも読んでいただけると幸いです。
執筆 村雨丸
晴天。
春の季節を示す桜がそよ風にさらわれ、笑顔の新入生とそれを祝う両親を出迎えてくれる。
でも、私の隣に、親はいない。
私は桜の舞い散る道を一人で歩いていた。
時々、不審そうな視線や可哀そうな視線をもらうけど、そんなのは慣れっこ。
私は、いつだって一人だから。
正直に言うと、寂しいと思う時もあるし、孤独だと感じるときだってある。
でも、もう、慣れたから。
「あっ……す、すみません」
下を向いて歩いていたら、誰かとぶつかってしまったようだ。
急いで謝罪をし、前を向く。
「……?」
灰色が目の前にあった。
髪だと気付くのに時間がかかった。
相手は気にしてないと言うか気づいてないようだ。
多分この時からだと思う。
私に、何か引っかかるようなものを感じるようになった。
それは、本当に小さな引っかかりだ。
他の人ならすぐに忘れてしまうような、ほんの些細なもの。
だけど、私は忘れられなかった。
鈴音学園。
私が入った高校だ。
だけど、高校だ。
入学式が終わり、私は自分の教室に案内された。確か1年B組だったはずだ。
私は1年B組の教室に行くであろう生徒の群れについていった。
「――――――」
目まいが、起きる。
軽くない。視界が反転し、世界が回ったように見える。
ああ、起きてほしくは無かった。
私は、突然目まいに襲われてそのまま意識を失う事がたまにある。
しかし、時と場所がある意味悪すぎる。
私は抗った。けど、それは無意味だった。
私の意識は暗転していく。
光が消え、最後の扉が閉ざされる刹那、私には声が聞こえた。
「――――――大丈夫!?」
私は、周りの友達と遊んでいた。その頃はまだ笑顔を知っていた。
砂場でお山を作り、トンネルを繋げて皆で喜んだ。
そして、皆が一人一人、消えてゆく。
私は、一人となってしまう。
友情なんて、所詮は仮初にすぎないのだ。
けれど、やっぱり寂しくて、悲しくて、孤独で、私は――――――
「――――――?」
そこで意識は覚醒した。
目には無機質で白い天井が見える。
体を持ち上げ、周りを見渡すと自分は白いベッドに布団を掛けられ寝かされていたようだ。保健室だと判断できる。
当然周りには、誰もいない。
当たり前だ。
入学式を終えて初めて入る部屋が保健室だなんているだろうか?
私は近くの壁に立てかけられている時計を確認する。
時間通りだと四時間目、入学式の後の教室での自己紹介などその他もろもろに関する事がちょうど終わったようだ。
「…………」
とりあえず、ベッドから出る。
その後、セーラー服が乱れてないか、髪型はおかしくないか、何も残してないかをチェックし、立ち上がる。
「うっ……」
駄目だった。
また目まいだ。今回は軽い分だけマシな方だが。
すぐに収まったので、私はもう一度前を向く。
「大丈夫ですか?」
それが、彼女たちとの出会いだった。
灰色の髪を持つ緑眼の彼女は鳳凪ユエと名乗った。1年E組の女の子だ。言ったら失礼だから心の中にとどめておくけど、正直高校生とは思えない。
物腰が丁寧で、他の人から言わせれば〝親しみやすい〟だと思う。
話を聞くに私が倒れたのを偶然目撃したらしく、急いで駆けつけて保健室に運んでくれたそうだ。
「正直、びっくりしました。お体は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。……わざわざありがとうございました」
「それなら良かったです」
ホッ、と彼女は息をついた。同時、
「あー居た居た!ユエ!」「ユエ!」
「あ、菜奈にクレスさん」
なんというか。
こんなのはライトノベルの世界だけだと思っていた。
兄と、べったりな妹って。
しかも兄の方は刀を腰に差してる。
わけが分からなかった。
「ユエ、あれほど妹の面倒をしっかり見とけと言っただろ。職員室で呼び出されて取り繕うのにどれほど大変だったか……」
「良いじゃんお兄ちゃんはお兄ちゃんだしぃ~」
「とりあえず、離れろ」
「やーだよっ」
「あのなあ……」
「二人とも、他人の前でそのような事をするのはお止め下さい」
教師と生徒はユエに言われ、ハッと我に振り返って私を見た。
私は、どんな表情だったのだろうか。恐らく、良い表情はしていない。いつもの無表情かな。
「……………………」
「……………………」
お兄ちゃんと呼ばれた教師とこの学校の制服を来た妹と呼ばれる二人は押し黙った。
兄の方は諦めた表情となり、妹の方は顔が引きつっている。
現状を理解する。
白衣を着ているこの教師は、学校の制服を着た妹の兄と言う存在で、妹から見れば教師は兄と言う存在で――――――
いけない、よく分からない現状の為に無限ループが起きようとしている。
纏めてしまえば教師が兄、生徒が妹、ユエは中立?
「………………あの、」
灰髪の少女ユエが恐る恐る声を掛けてくれた。
気づいていなかった。
この現状を理解しようとするためにずっと自分も沈黙していた。
起こした本人たちからして沈黙とは一番辛いだろうに。
何よりも私がそのことを一番知っているのに。
「ああ、ごめんなさい。何がどうなってるのか分かりませんでしたので……」
私の回答に、
「「「……………………」」」
三人が押し黙った。
初めに口を開いたのは、教師の兄だった。
「…………仕方無い。この際説明しよう。俺は科学及び地学担当の七瀬クレス、16歳だ」
「私は七瀬菜奈、同じく年齢は16。いわゆる二卵性双生児よ。お兄様で、妹」
兄、のタイミングで教師を差し、妹、のタイミングで自分を差す。
話が見えそうで見えない。
同じ年齢なのにどうして教師をやってるの?
「そこは突っ込むな。色々とあるんだよ」
大人でも無いのに大人の事情ってやつですね。
ますますわけが分からないけど、それも大人の事情と言うことで一時保留の判断を私が私に下す。
「この事は黙っとけよ。こちとらいろいろ偽装はしてあるんだ。…………いいな?」
「クレスさん」
教師、クレスは腰の刀に手を掛けようとして、ユエがそれを遮った。
私は、一応言わない事を約束しておいた。
その後、また少し話をすると彼女たちは1年E組らしい。
……教室が微妙に離れてるから普通合う事も無いはずなんだけど。
「菜奈が『お兄ちゃん探しに行く!』とか言い出したので、それを引き止めに」
「おい」
「えへへ」
えへへ、で済ませる兄も中々面倒みているんだなと感想を抱いたり。
さて、そろそろ寮に行かなくてはならない時間だ。
私が立ち上がるのを見てそれに3人も気が付いたらしい。
帰ろうとした、その時だ。
バリン!
唐突に鳴り響く破砕音。音に振り返ると窓ガラスが割れていた。
私が見たときに判断できたがこの窓ガラスは強化ガラスのはずだ。それを一撃で粉砕できるなんて――――――
「っ!?」
何か見てはいけないようななものを見てしまった気がする。
それは、邪念のような、怨念のような塊だ。そうとしか説明が出来ない。
いきなり手を引っ張られた。
「こっちに来て!」
妹の菜奈が強烈な力で私の腕を引っ張り、無理やり保健室の外に放り出す。
バタンと扉が閉まり、扉が開かなくなる。
何が起きたんだ?
そう思った時、またしても、このタイミングで、目まいが、起きてしまった。
しかし、私は感じる。この目まいは持病のような物による目まいでは無い。
なんというか、表現するなら何かに適応しているような――――――
「ううっ……!?」
強烈な頭痛に襲われ、思わずしゃがみこんで目を瞑り頭を抱えた。
されど頭痛はやまず、激しさを増すばかり。頭が本当に割れてしまいそうだ。
その痛みが頂点に達した時、頭の中で何かが弾けた。
それから生まれる銀の閃光は、私の意識を包み込む。
次に目を開けると、私には世界が見えた。
当たり前の事だが、当たり前ではない。
世界の秘密に、私は触れたのだ。
当たり前と言えば、当たり前なのかもしれない。
だって、周りの人がそういう人で、そういう奴が出てきたら、少しは影響されるに違いない。
だけど、そんな事はどうでもいい。私には、やる事が一つ、あるのだ。
何故だかは分からないけど、そうしなきゃ行けない気がする。
世界の秘密に触れた、代償かもしれない。
「……ファンタジー系の小説も手を出しておいて良かったと思う事が本当にあるなんて思わなかった」
私の心の声は今日で一番長いセリフを残し、菜奈の掛けた扉の固定魔術を惜しみなく粉砕し中に入る。
「チ……キ、ショウ…………!」
「ううっ……」
「嫌ぁぁぁッ……」
中は、悲惨だった。
目の前に見えるこの地に怨念を残し成仏しきれなかった邪霊が文字通り床から3人を食っている。
クレスやユエ、菜奈が抵抗しようにも脳内に直接流し込まれる悪夢と絶望のコンボに抗えない。
物理攻撃が効かず、魔術で一撃を与える前に食われたのだ。
私の事を多少でも気にかけたばかりに隙を取られ、3人ごと食われてしまったのだ。
悪夢と絶望が3人の行動を無意識に阻害し、発狂へと徐々に追い詰めていく。
「…………哀れな悪霊ね」
私に気づいたのか、悪霊のおぞましい形相をこちらに向け、認識した瞬間に足元が闇に堕ちる。
何も問題は無い。私は使い方を最初から知っているのだ。
誰からも私を見ない力。
銀の光、幻術の力を。
「……成仏してください」
私が幻術で回避をし、一つの術を発動する。
腕を軽く振ると、天井に現れた奇妙な針が悪霊に刺り、悪霊の絶叫が音も無く響き渡る。
その声はあたかも死にたくない人の死を否定するような声だ。
「……死を受け入れ、六道輪廻を迎えなさい」
3人が立ち上がったのは、その後少しした後だ。
神々によって散りばめられた星が輝く夜。
「ほぇー綺麗にしてるねぇ」
「……本がいっぱいです!」
「綺麗なのは分かったから俺から離れろ」
三者三様の答えに私は微笑んでしまう。
私の部屋には三人のお客さんが来ていました。
七瀬クレス、七瀬菜奈、そして鳳凪ユエだ。
帰りに、私の部屋に行きたいと言われたので整理も終わってるし特に差支えが無いので応じたのだ。
あの後、私達はお互いを話し合った。
彼らは魔術を扱えること、この世にはそう言った裏の業界も存在する事、そして――――――ユエが、人工生命体、ホムンクルスとも呼ばれる存在である事。
かといって私は話す事が何も無くて、結局なぜ自分が幻術を使えるようになったのかぐらいしか話せてない。
まあ今は分からないことだらけ。いずれ解明し、解き明かしてみたい。この世界の原理を。
だけど、まだそれをするには早いかな。
「時雨さん。どの本がオススメですか?」
「私としてはこれです。主人公がバイクで旅をする話なんですけど、とても読みやすく、オチもちゃんとあるので面白いですよ」
「いぇーいお兄ちゃん!」
「人のベッドでくっつくな!」
私が、成長して初めて『友達』が出来た。
その友達はブラコンに学生教師に人工生命体ととっても不思議な人たちばっかりだ。
そんなのも、楽しいと思う。
いかがだったでしょうか?
よくも悪くも感想は心の中にしまっていただけると幸いです
今回キャラをお借りしました黒一文字様にはお詫びを
使い方間違ってたらごめんなさい
では次の方、おそらく零岬様ですね
よろしくお願いします