邪神と契約した聖女 ~裏切られ殺された聖女は邪神と契約して世界に厄災を招く~
「偽聖女を許すな!」
「その偽物をさっさと処刑しろ!」
煩いなぁ、私は広場に詰めかける群衆を見下ろして溜息を一つ吐いた。偽物の聖女として罪を着せられ処刑される。これが、こんなのが自分の憧れていた異世界転生の終わりかと……。
前世では普通の大学生……いや違うな、異世界転生物の小説にハマって、自分も異世界転生してみたい、現代知識で無双したいなんて考えて、使えそうな知識を片っ端から学んでたのは普通じゃないよね。
そんな変な大学生だった私は、ある日私の事を待ち構えていた頭のおかしい野郎に身体をめった刺しにされて殺害された。そして死んだ私を待っていたのは光の女神を名乗る、私より年下に見える女の子だった。
『お願い、私の管理する世界を救って欲しいの! 強い魂を持つ貴方なら、あの世界を支配しようとする大魔王を倒せる筈!』
貴方は選ばれた存在と言い、私に大魔王を倒して欲しいと懇願するその光の女神、シャルフィーナにちょっとカマをかけてみれば、あの駄女神はあっさり引っかかってあの変質者を操って私を殺して、無理矢理異世界転生させようとしている事をゲロった。私はそのネタで駄女神を強請って、異世界転生の際に自分の蓄えた知識を活かせるような『創造魔法』と、前世の知識をいつでも呼び出せる『異識大全』の魔法をゲットして異世界転生した。
ただの農民の娘に生まれた私セルフィナは、成長して自分で色々できるような年になると、転生前に得た知識を武器に原始的な農法だったこの世界の農法改革を起こして、両親や村の人達に褒められご満悦になっていた。これこれ、これがやりたくて私はずっと知識を蓄え続けたんだと拳を握り締めたね。
駄女神から授かったチート魔法、『創造魔法』これは近しい物を用意すれば、前世でもあったモノを作ったりできる優れものだ。
そしてそれに必要な物を探したりするのに役立つのが、前世の知識や読んだ事のある本を表示する事が出来るタブレット状のアイテムを呼び出す魔法『異識大全』。
この二つがあればチートやりたい放題じゃん、色んな物を再現したいと意気込んでいたが、現実はそれを許さなかった。私は聖女候補に選ばれてしまった。厳しい修行の日々の始まりだ。
やがて六歳になって洗礼の儀を受けた時、私に聖女候補に現れる聖痕が現れ、私は両親と離れ、リグティオン神聖帝国の帝都にある中央神殿で聖女候補として修行する事になった。
周りは全員貴族出身のお嬢様達な上に、私の容姿がよくなくて私は孤立する事になった。私の髪って漆黒で瞳は鮮血の様に紅い真紅で、この世界では縁起のよくないツートップらしい。おいこら駄女神、キャラ設定ちゃんとやれとあの時は罵倒してやったね。
最初は苛められたけど、そんなのすぐに気にもならなくなったし、連中もする余裕がなくなった。当代聖女たるアナスタシア様による地獄の訓練が始まったからだ。
親しくなってから知ったけど、この人私の前に駄女神が送り込んだ転生者らしい、御年は百二十歳を超えてるのに六十代か七十代くらいに見えるこの人、お師匠様は最初に送り込まれた転生者である勇者が大魔王を封印した後詰として送り込まれて、大陸中に跋扈していた魔族達、中でも大魔王の後釜を狙う連中をブチのめして周り、彼らや魔物の力を弱める破邪の大結界を張り巡らせたとんでもない人だ。
大魔王の封印はお師匠様を力を以てしても維持できず、自分の寿命がそう長くないって分かってたお師匠様は次代の聖女に、勇者の末裔と共にもうじき復活する大魔王を討伐する役目を託すために全力で扱き振るいをかけ、その容赦ない苛烈な訓練にお嬢様達は全員脱落し、しぶとく残ってた教皇の娘も意見の食い違いからお師匠様に見限られ、最後まで残った私が次期聖女となった。
次期聖女と決まってからもお師匠様からは扱かれ、私は一緒に魔物の討伐や結界の維持を学ぶ為に大陸中を巡った。厳しい人だったけど、私が前世の知識を活かしてあの世界の美味しい物を再現したら、嬉しそうに食べて、「お前は凄いね。アタシも駄女神から寿命や結界魔法の力じゃなく、こういうのを貰うべきだったね」なんて笑って頭を撫でてくれた。駄女神というのはお師匠様も思ってたのか、何やらかしたんだあの駄女神。
破邪の大結界維持の為に精力的に活動していたお師匠様だったけど、その最中に無理がたたって病に倒れてしまった。それから一気に病状は悪化し、お師匠様は殆ど立ち上がる事も出来なくなる程衰えやせ細っていった。
「お師匠様……私まだお師匠様から教わりたい事沢山あるのっ、い、一緒に美味しい物も食べたいっ、だから、だから……」
「アタシもアンタと一緒に生きていたいよ……でも、もう無理なようだ。百三十年近くも生きたんだ、やりがいもあって楽しめた人生だったよ。その中でもアンタと過ごした日々は最高に楽しかったよ。セルフィナ……後の事は頼んだよ」
そう言い残したお師匠様は、聖女としての役割をずっと果たし続けた彼女は、私や親しい司教さん達の見守る中静かに永遠の眠りに就いた。
お師匠様の葬儀を終え私は聖女の座を継いだが、教皇派閥はお師匠様という後ろ盾を失った私を露骨に冷遇し、神殿内で繰り返される権力闘争に嫌気が差した私は、お師匠様がやり残していた大結界の維持強化作業、そして辺境で魔物や魔族の襲撃に苦しむ人々を助ける為に、同行を申し出た僅かな供と共に旅に出た。
その旅の中で出会ったのが、大魔王を封印した勇者の末裔、聖剣エクスカリバーの使い手であるアーヴィングだった。
同じように魔物や魔族達から人々を守りながら修行の旅を続けていた彼と私は意気投合し、共に旅をして結界の影響力が薄く本来の力を振るえる魔物や魔族を討伐しながら、各地の結界の要を回り補強してしていった。
そんな旅を一年以上続けた頃、大魔王復活の兆しがあると私達は帝都に召還され、神聖帝国主導の元結成された人類連合軍による大魔王討伐に参加する事になった。
大魔王の封印地点、そこは溢れ出した魔力によって破邪の大結界は無効化され、大魔王の復活に呼応して集結していた魔族や魔物達との激戦が繰り広げられる中、人類連合軍から選抜された精鋭達が復活した大魔王へと戦いを挑んだ。
神聖帝国皇太子にして剣聖と称えられるミシェイル皇子。 教皇の娘にして神聖魔法の使い手である大司祭フェスティア。 魔塔主の娘で大魔法使いのシレーネル。 エルフ族女王の娘で種族でも至宝である聖弓の使い手ブリギッテ ドワーフ族の英雄である豪傑ガンダードルヴ。 かつて大魔王を倒し封印した勇者の末裔アーヴィング。 そして当代聖女である私セルフィナの七人は、復活した大魔王ザールヴォイドに対峙した。
その結果は散々たるものだった、お師匠様が大陸全土に施した破邪の大結界は悪しき者達の力を著しく弱める為、そんな弱っている者達を倒して英雄と称えられていい気になった者達は己の研鑽を怠っていたのだ。そんな生半可な力が、この世界にかつて存在した邪神の残滓を取り込んだとされる大魔王に通用する筈なく、一人また一人とあっさり倒れていく。
唯一私と共に修行を続けていた相棒である勇者アーヴィングは大魔王に抗ってみせるが、彼も戦いの果てに立ち上がる事が出来なくなった。
「ごめん相棒、これ借りるね」
「セルフィナ、君は何を言って……っ!? な、何で君が聖剣を……僕の一族しか使えない筈じゃ……」
残された一人となった私は、倒れている相棒の側に落ちていた聖剣を手にした。驚愕に目を見開く相棒だったが、駄女神が作ったこの聖剣は、転生者なら使えるというのをお師匠様から聞いていたのだ。かつてお師匠様も気絶した勇者の孫から拝借して、大魔王配下の強大な魔族を討ち倒したらしい。
聖剣を手にした私は抑えていた全力を解放し、それを全て大魔王へとぶつけていく。何度も打ちのめされ、叩きつけられても私は立ち上がり、死闘の果てに大魔王を討伐した。
『クハッ、クハハハハッ、まさかこの俺が小娘一人に倒されるとはなぁ……封印されている間に鈍り過ぎたか』
「かもね、アンタが復活直後じゃなかったら、十中八九こっちが負けてた……準備運動はしっかりしとくべきだったね」
『クハハハッ、言ってくれるなぁ……だが一つ忠告しておこう。その強すぎる力は、いずれお前の身を亡ぼすだろうとな』
「ご忠告どうも……そんな事になったらとんずらこいて、アンタの手下とかが生息してる辺境にでも逃げて、のんびり一人で暮らす事にするわ」
崩壊していく大魔王を前に聖剣を取り落とす私。持てる全ての力を出し切った、もう立っている事も出来ない。大魔王の姿が消え去った後、私は地面に倒れ込んで意識を手放した。
私が次に目を覚ましたのは、決戦から数日後の帝都の神殿だった。ようやく動けるようになった私は、帝国と神殿主導で、残る魔物や魔族の勢力圏へと侵攻しそれらを全て殲滅する大陸浄化の聖戦が計画されている事を知る。
計画を主導している皇太子やフェスティア達の元へと怒鳴り込み、そんな事をしてる暇があるわけないだろう、今は大魔王復活の余波で生じた魔物災害の被害者の救済や、荒れ果てた国土を立て直すのが先だと詰め寄る。しかし彼らは私の主張をことごとく退け、貴様如きが寝言を抜かすな、下賤な農民の分際で私に意見をするなと吐き捨てた。
その際に側近の一人が、大魔王を倒した六英雄たる皇太子殿下達に対して不敬であるぞと言い放った。は? 六英雄? アンタら速攻で倒れて伸びてたじゃんとボソリと言ってやれば、英雄サマ達は露骨に動揺し、首を傾げた側近達を慌てて追い出す。
「ど、どういう事だシレーネル。記憶の改竄は確実にやった筈ではないのか!?」
「そ、その筈ですっ、何度も確認して、魔法もしっかりかけたはずなのにどうして……」
「はー、そういう事ですか。アンタら私が気絶してた事を良い事に、大魔王討伐を自分達の手柄にしたと……英雄の名が聞いて呆れますね殿下」
人払いをした後に皇子に問い詰められた、大魔法使いと称されるシレーネルは涙目になりながら、何度も記憶改竄の魔法をかけたのにと口にする。ゴメンそれ多分効いてない、転生者補正か、はたまたこの大魔法使い(笑)と私にレベル差があり過ぎたんだろう。誰も目撃者が居ない事、そして倒した本人である私が気絶していた事をいい事に、コイツらは私を除いた六人で手柄を横取りしたのだ。
「私がこれを公表したらどうなりますかねぇ……殿下の名は地に落ち、皇位継承権剥奪も有り得ますね」
「お、お前一人が喚いたところで、既に事実としてこれは広まっているんだ。足掻こうと無駄だぞ」
「……? アハハハッ、おめでたいですね殿下。私が強さを証明すればいいんですよ。なんならこの場でアンタら全員ブチのめしてもいいんですよ」
全身から魔力を解放し威圧すれば、英雄サマ達は面白い様にビビって後退る。剣聖の名が泣きますわよと私は殿下に笑いかける。
「実はあの戦いを記録した魔法球があるんですよね。それを第二皇子殿下に提出したって良いんです……まぁ私は英雄の地位になんて興味ないんで、条件次第で皆さんに手柄は譲りますよ……すぐにこの馬鹿げた聖戦とやらの計画を中止し破棄しろ。明後日まで待つから、さっさと命令する事ですね」
第二皇子殿下の名を出せば露骨に顔を顰める皇太子。対立候補にそんなスキャンダルのネタが渡れば彼の身に待つのは破滅だ。
魔法球がある、これはブラフだ。だが本気になった私の力を浴びせられたアイツらにまともな判断なんて出来ない筈だ。私は明後日までに計画を中止しろ、さもなくばこの件を公表してお前らの名声を地の底に叩き落としてやると告げて皇宮を後にした。
皇宮から戻った翌日の晩、私は相手が動きを見せない事を訝しみながら考え込んでいた。
さてさて、あの馬鹿どもはどう動くか、それと手柄を横取りした行動や聖戦計画に相棒も関わってるのかな、もしそうなら幻滅だよと心中で呟いた私は、側仕えが淹れてくれた紅茶を飲む。
私は圧倒的な力の差がある事で油断していた。紅茶を飲んだ直後、私は血を吐いて地面に倒れ込む。毒だ、それも相当強力な毒が淹れられていたんだ。長年側仕えをしてくれた彼女へと視線を向けると、彼女は泣きながら震えている。
「ご、ごめんなさい聖女様……りょ、両親や弟達がひ、人質にと、取られたんです……!」
どこまでクソなんだ、あの馬鹿ども、全身に広がる痺れと身を焼くような苦しみに震える中、部屋へと神殿騎士達が雪崩れ込んできて、その後に教皇と皇太子が入ってくる。
「大魔王が倒れた今、もはや貴様は用済みだ……ここで偽聖女として死んでもらう」
「私と皇太子妃になるフェスティアの未来の為に、お前に生きていてもらっては困るんだ」
「こんの……クソ外道どもがぁぁっ!」
勝ち誇ったように見下ろしてくる二人を前に、私は怒りの叫びと共に魔力を弾けさせる。私に手をかけようとしていた騎士達が吹き飛ばされ、毒を強引に浄化した私は魔力を纏いながらクソ教皇とバカ皇子の元へと近づいていく。その時だ、誰かが騎士達の影から飛び込んできて、二人に意識を向けていた私はそれに反応する事が出来なかった。
「がはっ……? あ、相棒……?」
「君が、君が悪いんだセルフィナ……君が聖剣を使ったりしなければ、こうはならなかった。聖剣が他の者にも使えるなどという事が広まれば、僕の一族はその矜持を失ってしまうんだ!」
私の腹部を貫いたのは聖剣だった。呆然と声を漏らす私に対し、君が悪いんだと絞り出すような声で言い放つ相棒。
彼もやはり他の連中と同じく手柄を横取りし、自らの一族の名誉を守るために、私を亡き者にしようと彼らに加担したのだ。
その場で倒れ込んだ私は魔力封じの拘束具を着けられ投獄され、その間に私は偽物の聖女で、本物の聖女は別にいる事、聖女の地位を守る為に新たに見出された聖女候補を殺害しようとした事が伝聞され、人々はそれを信じてしまった。
お師匠様と付き合いが長く、私の事を信頼し可愛がってくれた皇帝陛下は重い病で臥せっておられ、前世の知識を使った農業改革を帝国で行おうとした時に協力してくれた、私の理解者である第二皇子殿下も魔物被害の大きかった地域への救済活動の為に地方に赴かれている。この状況を取り仕切る皇太子を誰も止める事が出来ない。
数日後には私は処刑台へと連行された。第二皇子殿下が戻って来る前にケリをつける気なんだな。
磔にされ晒し者にされた私へと人々は口々に罵声を浴びせ石を投げつけてくる。首に着けられた拘束具のせいで大きな声も出せないな。まぁ今更叫んでも誰も信じないか。
「貴様の家族も罪人として処刑した。仲良く地獄に落ちるがいい」
「ハ、ハハハッ……そこまでやりますかぁ……この恨みは死んでも忘れないわ、必ず復讐しに来ますからね……大魔王を倒した聖女がアークリッチになったりしたら、貴方達六英雄サマに止められますかねぇ?」
「くっ……最後まで生意気な口を叩きおって……コイツを今すぐ処刑しろ! 灰一つ残さず焼き尽くせ!」
偽聖女の汚名を着せられ、満足な力を出せぬまま、ごうごうと音を立てながら噴き上がり燃え上がる紅蓮の炎が私の体を焼き尽くしていく。
周囲の者達が見ている中、身体が燃え上がり、肉を焼く匂いと苛烈な痛みの中私は確かに死んだ。それでも私だけに向けられている嘲笑や罵声しかと焼き付けてやったよ。
『はーい、セルフィナちゃんお疲れさまっ、貴方のお陰であの忌々しい邪神の後継は倒れたわ!』
「は……? な、なんで、アンタが……」
『んふふ、そりゃあ勿論貴方に与えてた力を回収する為よ。邪魔者が居なくなり真に私の世界となったあの世界を導く者……新しい聖女に貴方の知識や力を授ける為にね』
お疲れ様とのんきな声で告げられた事で目を開けた私。そこは転生する際にも見た神界だった。鎖で四肢を縛られた私の前にはあの駄女神イルファーナが立っていた。
そして彼女は語る。あの世界を含めた無数の世界には、創造神から遣わされた光の神と闇の神が存在し、世界の支配権を巡って競い合っていたそうだ。
あの世界の邪神は倒れ駄女神が主になる筈だったが、とある魔族が邪神の力の残滓を取り込み、大魔王ザールヴォイドとなった結果、支配権は確定していなかったらしい。自分が挑む事はリスクが大きいと考えた彼女は、私達転生者を使って大魔王を倒したのだ。
「は……? わ、私の、知識……?」
『だってそれがないと、創造魔法や異識大全は有効活用できないでしょ? だから貴方の知識を全部頂くのよ』
「ふ、ふざけんなっ、こ、これはっ、私の、私だけの物よ! アンタなんかに渡したりしないっ!」
駄女神、いやクソ女神を睨みつけて力の限り叫ぶ私、コイツにとっては私もお師匠様も、多分最初の勇者様も便利な駒でしかなかったんだ。
許せない、絶対にコイツを許したりしない。私は憎しみを込めて睨みつけるが、今の私に出来るのはそれだけだ。私の殺気を受けても涼しい顔をしたクソ女神は、私から知識を抜き取ろうと手を伸ばす。
——悔しいかい……? 全てに裏切られ、使い捨ての捨て駒として扱われて……——
「悔しいに……決まってるわよ。このクソ女神も、あの馬鹿どもも、相棒と呼んだあの男も絶対に許さないわ!」
『え……? な、何、何なのこの声!?』
頭に突然響いてきた声に、私は声を震わせて叫ぶ。その声はクソ女神にも聞こえていたらしく動揺し周囲を見回す。
——ならば僕と契約しよう。君が我が巫女となってくれるのなら、僕はこの世界に顕現する事が出来るようになる――
『っ!? ま、待ってセルフィナ! その声を聞いちゃダメっ!』
契約しようと持ち掛けてくる声に、露骨に焦り出すクソ女神。なるほど、それはコイツにとってそれ程止めて欲しい事なのかと私は口の端を吊り上げる。
「それ、私に何かメリットあるのかな?」
——あるとも、僕やその眷属達は、そこの女神が管轄する世界を侵略したいんだ。僕と契約すれば君は僕の巫女として蘇り、我が軍勢の先頭に立ってあの世界を踏み躙る権利を君にあげるよ――
「なにそれ最高じゃない……いいわ、受けてあげる。契約でもなんでもしましょう。私はこのクソ女神を、私を裏切った連中を絶対に許さないわ」
『ダメっ、ダメよセルフィナ! お、お願いだからそいつの話を聞いちゃダメっ!』
もう遅いってのこのクソ女神、私が嘲るように笑う中、私の側へと闇が渦巻きその余波で私を拘束していた鎖が砕けていく。
地に降り立った私の側に現れたのは、闇色の法衣に身を包む十歳くらいの黒髪に金色の瞳を持つ少年だ。
『ハ、ハハハハッ! ありがとう我が巫女よ。これで契約は成立し、僕はこの世界に介入する権利を得れた。僕の名はレゼンヴォーザ、異界の邪神たる存在だ』
『な、なんて事してくれたのセルフィナっ、あ、貴方のせいで他所の世界の邪神があの世界へのパスを繋いじゃった!』
『全て君が悪いんだろう? 転生者を使い捨ての駒にして反感を買うからだ。身から出た錆という奴だね』
レゼンヴォーザと名乗った邪神に対し頭を抱えて叫ぶクソ女神。私が契約した事によって、異世界の邪神たる彼があの世界の邪神となり、滅びた邪神や大魔王に代わって、クソ女神と相対し世界を侵略する権利を得れたようなのだ。
『さぁ行こうか我が巫女よ。この世界を僕の眷属達の安住の地とする為の戦いを始めよう』
「ええ、始めましょう我が神よ。世界をひっくり返すような大戦争を起こそう」
私は差し出された手を握って妖艶に笑う。全てに裏切られ用済みとして捨てられかけた私セルフィナは、異世界の邪神と契約した巫女となった。
そして私達は引き起こすのだ。今の人間世界を崩壊させる大戦争を、私を裏切った連中全てに復讐してやると私は笑みを深くし、クソ女神が喚く中、邪神と共に神界から消え去った。
邪神と契約した元聖女セルフィナ。彼女は中央大陸から海を隔てて離れた、神から見放された大地と称される大陸に降り立ち、邪神が呼び寄せた魔王率いる魔族や魔物達と共にその荒れ果てた大陸を開墾し基盤を築いていく。
女神から奪われなかった『創造魔法』や『異識大全』は魔族達に豊かな生活をもたらす礎となり、見放された大地と称されていたそこは世界でも屈指の豊かな大地となっていく。
そしてそこで力を蓄えた彼女達は、人間国家へと宣戦を布告し、自分を裏切った者達へと復讐する為に動き出すのだった。
その復讐劇は大陸中を蹂躙する厄災を引き起こす事になる……。
癒しの力を持つ大公女シリーズと同時期に構想を練っていた作品です。
神様達の国盗りゲームに巻き込まれた転生者であるセルフィナ。
彼女との契約によって新たな邪神レゼンヴォーザが世界への侵略の権利を得て、あの世界に厄災を引き起こしていきます。
長編ではセルフィナのチート魔法を使った現代技術の再現や、師であるアナスタシアとの交流なんかをもっと描いていきたいですね。




