第8章:新たな秩序 学園設立と安息の日々
「本日、大陸全土を休業とする。身分も種族も関係ない。食いたい奴は集まれ。……俺の奢りだ」
【文化:ワタル商会・第一回『世界大感謝祭』】
テラ・ポルタから新農地、そして海岸線に至るまでの広大な領土が、一夜にして世界最大の宴会場へと変貌した。
100万人の大宴会 空中鉄道がフル稼働し、王都の住民、周辺諸国の民、果てはかつて敵対していた亜人種までを無料で運び込んだ。会場に並ぶのは、数キロメートルに及ぶ「特製ボア肉の味噌漬け焼き」の巨大コンロと、バルドが地脈から直接引いた「ビールの噴水」である。
出向社員(王族・貴族)による全力配膳 「はい、お代わりですよ! 遠慮せずに食べてください!」 元国王アルベルトが、エプロン姿で山盛りの米を運び、公爵たちが汗だくでジョッキを洗う。彼らの顔に悲壮感はない。ワタルに叩き込まれた「労働と報酬(飯)」の真理を知った彼らの動きは、今や一流の店員そのものだった。
100名の戦乙女と300名の精鋭による「不条理な余興」
戦乙女(1?100番): 100名が空中に舞い、念動で花火のように魔力を弾けさせ、同時に100万人分の「真・生姜焼き」を一人一人の皿へ精密にテレポート配膳する。
開拓兵(300名): 巨大なマグロやクラーケンをステージ上で解体。彼らの神速の包丁捌きは、もはや芸術の域に達し、観衆から割れんばかりの拍手が沸き起こる。
【味覚の統一:不条理な平和】
会場に集まった100万人が、一斉に聖米を頬張り、味噌汁を啜り、冷えたビールで流し込んだ。
「……美味い。こんなに美味いものが、この世にあったのか」 「争っているのが馬鹿馬鹿しくなる。隣の国の奴に、その醤油を回してやってくれ」
かつて剣を向け合っていた者たちが、一つの「生姜焼き定食」を囲んで笑い合う。ワタルが求めていた「不条理なき世界」の雛形が、そこにあった。
【ワタルの独白】
ワタルは会場の喧騒から少し離れた、空中鉄道の展望テラスで一人、琥珀色のウイスキーを傾けていた。
「……結局、こうなったか」
静かに生きたかったはずが、今や世界の中心で、王を顎で使い、100万人の胃袋を掴んでいる。 だが、眼下に広がる100万の笑顔と、誇り高く働く100名の戦乙女、300名の開拓兵たちを見ていると、悪くない気分だった。
「ワタル様、お疲れ様です。お口に合いますか?」 ミナが、特製の「海の幸の握り寿司」を差し出した。 醤油をひと塗りしたそれは、先ほど海を割って仕留めたばかりの神獣のトロだ。
「ああ、最高だ。……これでようやく、本当の『有給休暇』が取れそうだな」
ワタルは寿司を口にし、真理の先にある「日常」を噛み締めた。
【現在の状況】
世界情勢: ワタル商会による「食の統一」が完了。戦争という不条理が消失。
階級: 完全に解体。美味しい飯を作り、運べる者が最も敬われる世界へ。
ワタルの今後: 救世主としての崇拝をマリアに押し付け、自分は隠居(という名の美食探求)へ。
「俺がいなくなっても、この世界の飯が不味くなる……そんな不条理だけは、万死に値する」
感謝祭の熱気が冷めやらぬ中、ワタルはテラ・ポルタの最も見晴らしの良い丘に、巨大な白亜の建造物を出現させた。それが、後に伝説となる世界最高峰の教育機関**『国立ワタル・美食・魔導・アカデミー』**である。
【次世代の育成:ワタル・アカデミーの設立】
校長:元国王アルベルト 「私が校長……!? ああ、光栄ですワタル様! 皿洗いで学んだ『奉仕の心』と、配膳で培った『迅速な決断力』を、若き芽に叩き込みましょう!」 かつての権威主義を完全に浄化された元国王は、誰よりも熱く、そして腰の低い教育者として、学園の運営を任された。
教授陣:戦乙女と開拓兵の精鋭
調理魔導学部: 学部長ミナ、一期生(1?10番)。念動による「火力の精密制御」と、食材の「細胞を傷つけない解体」を教える。
不浄浄化・防衛学部: 学部長エレナ。不条理を力で捩じ伏せるのではなく、浄化によって「無」に帰す真理の探求。
醸造・土壌工学部: 学部長バルド、ハンス。地脈の読み方から、一晩で数十年分の熟成を引き出す醸造の不条理を伝授。
入試と教育課程:不条理なき実力主義 「家柄? 資産? そんなものはゴミ箱へ捨てろ。ここでは『美味い飯が作れるか』、そして『その飯を食う相手の笑顔を想像できるか』……それだけが評価の全てだ」 入試は、ワタルによる「聖米の塩むすび」試食。一口食べて「不条理な美味さ」の根源を理解しようとする情熱がある者だけが合格した。
【学園生活:地獄のレベリング・キッチン】
生徒たちは、ワタルが整備した「安全だが過酷な」ダンジョン実習に放り込まれる。
実習内容: 「無傷で魔物を制圧し、その場で解体し、最高の味噌汁を作れ。制限時間は30分。……塩加減を間違えたら、その場で骨を折る(すぐに浄化で治すが)」
結果: 数年後、この学園の卒業生は「一国の軍隊を壊滅させる戦闘力」を持ちながら、「世界最高の宮廷料理」をも凌ぐ定食を作る、最強の職人集団へと成長していった。
【結末:受け継がれる真理】
ワタルは、学園のテラスから、熱心に鍬を振るう若者たちと、念動で食材を舞わせる少女たちを眺めていた。
「……マリア。これで俺がいなくなっても、この世界の醤油の味は変わらない。不条理が入り込む隙間もないほど、こいつらの腕は磨かれている」
「ええ、ワタル。あなたは世界を救っただけじゃなく、世界を『美味しく』作り替えたのね。……でも、あなたはどこへも行かせないわよ? 私の秘書としての仕事が、あと数百年分は溜まっているんだから」
マリアに背中を叩かれ、ワタルは苦笑した。
「……有給休暇の延長は、どうやら不条理な夢だったみたいだな」
ワタルは、琥珀色のウイスキーを一口飲み、満足げに目を閉じた。 大陸の空を走る空中鉄道、立ち上る生姜焼きの香り、そして響き渡る生徒たちの活気ある声。 不条理を掃除し続けた男が手に入れたのは、彼が最も望み、最も遠ざかっていた「賑やかで、不条理なほど幸福な日常」であった。
【ワタル商会・グランドフィナーレ】
学園の評判: 卒業生が各国の宰相や料理長となり、世界から飢えと戦争が完全に消滅。
ワタルのその後: 「生ける伝説」として崇められつつ、時折、変装して支店で「生姜焼き定食」の味をチェックする隠居生活を楽しむ。
100名の戦乙女と300名の開拓兵: 世界各地で「ワタルの教え」を広め、不条理を未然に防ぐ守護者として語り継がれる。
(完)
不条理を打ち砕くワタルと仲間たちの物語は、ここでひとまずの幕を閉じます。この壮大な物語の結末にご満足いただけましたか? もし「アフターストーリー」や「別の不条理な挑戦」が見たい場合は、いつでもお声がけくださいね。




