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不条理を掃除する男 ~チンケな念動力で世界を変える~  作者: 慈架太子


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第4章:浄化の発見 ピュリフィケーションと料理への応用


「……十分だ。ゴミに情けをかける趣味はない」


ワタルは男の首筋に指先を向け、一気に魔力を込めて念動力を突き立てた。頸椎を直接粉砕する、音のない処刑。


【レベルが上がりました:Lv.9 → Lv.10】 【HP・MPが全回復しました】


体に力が漲り、全快の波動がワタルを包む。男の死体はアイテムボックスへ放り込み、後で「肥やし」として処理することにした。


ワタルは震える少女、リィンのもとへ歩み寄った。 「……もう大丈夫だ」


リィンは右足首をあらぬ方向に曲げ、恐怖でガタガタと震えている。ワタルは新しい力を生み出すべく、イメージを固めた。 「ピュリフィケーション(浄化)」が不純物を取り除くものなら、細胞を活性化させ、本来の形へ再構成する力――。


「ヒーリング……癒えろ」


【スキル習得:ヒーリング(超能力治療)】


ワタルの手から、温かく柔らかな光が溢れ出し、リィンの体を包み込んだ。 まず、首に嵌められた鉄の輪に「ピュリフィケーション」をかけ、錆びさせてから念動で飴細工のように引きちぎる。 次に、腫れ上がった足首に「ヒーリング」を施した。


バキバキと骨が鳴り、皮膚の裂傷が塞がっていく。全身の泥汚れも「ピュリファイ」で霧散し、彼女の本来の美しい毛並みが戻っていく。


「あ……痛くない……」 リィンが呆然と自分の足を触る。


「ワタルだ。南雲亘。……今日からお前を縛る奴はいない。飯、食うか?」


ワタルはアイテムボックスから、浄化され、念動で完璧に焼き上げられたフォレストボアの肉を差し出した。 これが、不条理への反旗を翻した男と、救われた少女の、最初の出会いだった。


【現在のステータス】

名前: ワタル レベル: 10(UP!) HP: 150 / 150(全快) MP: 250 / 250(全快) スキル: アイテムボックス、鑑定


念動(Lv.5)、魔力感知・操作


ピュリフィケーション、ピュリファイ


ヒーリング(超能力治療)(NEW!)



リィンは差し出されたボアの肉を、最初は信じられないものを見るような目で見つめていたが、一口食べるとその瞳に涙を溜めて貪り食った。


「美味しい……こんなに温かくて、優しい味……初めてです」


彼女は食べ終えると、ワタルの前に跪き、深く頭を下げた。 「ワタル様、私は行く当ても、帰る場所もありません。どうか、お側に置いてください。お荷物にはなりません。獣人の鼻は利きますし、雑用なら何でもします!」


ワタルは少し困ったように頭を掻いた。一人の方が気楽だ。だが、この少女を一人で放り出せば、明日には別の「不条理」に食い物にされるだろう。


「……勝手にしろ。ただし、俺の邪魔はするな。あと、お前に合う武器も――」


言いかけて、ワタルは止めた。剣や弓を買い与えたところで、この世界の荒くれ者や魔物相手には、結局「力の差」でねじ伏せられるのがオチだ。


「……いや、武器はいらん。リィン、お前には『力』を教える。俺と同じ、誰にも見えない武器だ」


エピソード2:見えない指先の継承

街への道中、ワタルは人気のない河原で足を止めた。 「いいか、魔法はイメージだ。だが俺が教えるのは、この世界の連中が使う『型』のある魔法じゃない」


ワタルは地面の小石を指先で弄ぶように浮かせてみせた。 「『念動』だ。魔力という透明な指を伸ばし、直接物に触れる。これなら、お前の細い腕でも大男の喉を潰せるし、飛んでくる矢を逸らすこともできる」


リィンは真剣な表情で頷き、ワタルの言葉を一言も漏らすまいと集中した。 ワタルは「魔力操作」を使い、リィンの背中に手を当てて、彼女の体内の魔力がスムーズに流れるよう導いてやる。


「……っ、熱い……何か、体の中を動いてます……!」 「それを指先に集めろ。目の前の石を『自分の手』だと思い込むんだ」


数時間の格闘の末、リィンの目の前にあった小石が、プルプルと震えながら数センチだけ地面から浮き上がった。


「あ……浮きました! ワタル様、浮きました!」 「……ふん、筋は悪くないな。まずはそれを維持する訓練からだ」


リィンは猫耳をぴんと立て、嬉しそうに何度も石を浮かせては下ろした。彼女には獣人特有の鋭い感覚がある。磨けばワタル以上の精度になるかもしれない。


エピソード3:静かなる商売と処刑

街に到着したワタルは、まずリィンの服を「ピュリフィケーション」で新品同様に整えた。見違えるほど凛とした姿になった彼女を連れて、素材屋の門を叩く。


取り出したのは、ボアの素材から「浄化」と「精製」を極限まで重ねた**『魔石の結晶』**だ。 「こ、これは……! 傷一つない最高純度の魔石……。一体どこで……!?」 店主が椅子から転げ落ちんばかりに驚愕し、金貨数十枚という大金が転がり込んできた。


路銀を確保したその夜、ワタルはリィンを宿に残し、単身で闇に消えた。 目的地は、リィンを売った黒幕、ボルドスという騎士の屋敷だ。


「魔力感知……。警備は五人。ターゲットは二階か」


ワタルは屋敷に侵入すらしなかった。 庭の木陰から「鑑定」で位置を特定し、窓の隙間から極細の念動力を送り込む。 寝室で安眠を貪るボルドスの心臓。その血管の要所を一箇所、念動で「結んだ」。 ボルドスは苦悶の声を上げる暇もなく、夢の中で息を引き取った。死因は「心不全」にしか見えない。


さらに、屋敷の金庫を「アイテムボックス」で丸ごと中身だけ抜き取り、その場を去る。


翌朝、宿に戻ったワタルは、リィンと豪華な朝食を囲んだ。 「……リィン、次は住む場所を探す。俺たちの『城』だ。そこでじっくり訓練を積むぞ」 「はい、ワタル様! どこまでも、地獄の底まで付いていきます!」


「いや、地獄はもう抜けたんだ。これからは、俺たちが不条理を地獄へ送る番だ」


ワタルは優しく、しかし冷徹な光を宿した瞳でそう告げた。



ワタルは、手に入れた金貨を懐に、リィンを連れて商業都市のメインストリートを歩いていた。


「ワタル様、何かお探しですか?」 「ああ、俺たちの窓口になる人間だ。俺やリィンが直接目立つのは避けたいからな」


ワタルが探しているのは、腕の良い商売人、それもこの世界の理不尽に揉まれ、それでもなお「野心」と「良心」のバランスを保っているような人物だ。


「鑑定」を周囲の人々に飛ばしながら歩く。 【対象:32歳・商人。強欲】 【対象:24歳・露天商。計算高いがツキがない】 【対象:21歳・店員。平凡】


なかなかしっくり来る人材がいない中、大通りから一本入った路地裏の、潰れかけた薬草店の前で足が止まった。 店の前では、一人の女性が役人らしき男数人に詰め寄られている。


「……だから、今月の分は先週払ったはずよ! これ以上は店を畳めって言ってるのと同じだわ!」 「黙れマリア! 領主様が税を上げると決めたんだ。払えないなら、その器量の良さを活かして別の『商売』を紹介してやってもいいんだぞ?」


ワタルは足を止め、彼女を「鑑定」した。


対象:マリア・ローウェル 年齢:27歳 レベル:5 職業:商人(元・大手商会の幹部候補) 状態:激しい憤り、困窮 備考:商会の不正を内部告発しようとして逆にハメられ、すべてを失った。現在は借金取りに追われながら細々と薬草店を営む。商才は極めて高い。


「……見つけた」


ワタルは静かに歩み寄る。 「おい、そこまでにしておけ」


役人がぎらついた目で振り返る。「あぁ? なんだお前は、よそ者が口を出すんじゃ……」


ワタルは言葉を返さず、指先をわずかに動かした。 「念動」で、役人の持っていた徴収台帳と財布の紐を、誰にも見えない速さで「ほどく」。


「……あれ? 財布が、ねえ! 台帳も……おい、どこに行った!?」 「風にでも飛ばされたんじゃないか?」


ワタルが冷たく告げると同時に、台帳と財布はアイテムボックスへ収納されていた。 パニックになった役人たちが周囲を探し回る隙に、ワタルは呆然と立ち尽くすマリアに声をかけた。


「あんた、商才はあるのに運がないらしいな」 「……誰よ、あんた。助けてくれたのはお礼を言うけど、ここには何もないわよ」


「マリア。あんたの商才を俺に貸せ。代わりに、あんたを追い詰めるすべての『不条理』を俺が掃除してやる。ついでに、この店をこの街で一番の商会に作り変えてやるよ」


ワタルがアイテムボックスから「ピュリフィケーション」で精製した、濁り一つない『最高級の回復ポーション』を一瓶、カウンターに置いた。 その輝きを見た瞬間、マリアの商人の目が色を変えた。


「……これ、あなたが作ったの? 本気なの?」 「ああ。条件は、俺の名前を出さないこと。俺はただの『出資者』でいたい」


マリアはしばらくポーションとワタルを交互に見ていたが、やがて不敵な笑みを浮かべて手を差し出した。 「いいわ。その不条理の掃除、手伝わせてもらうわ。私はマリア。よろしくね、謎のスポンサー様」


ワタルは確信した。 これで、表のマリア、裏のワタル、そして将来の右腕リィンが揃った。


【新パーティ・メンバー】

マリア:27歳。元エリート商人。交渉・運営・情報収集担当。



「マリア、薬草店もいいが、まずは一番手っ取り早く、かつ確実に街の連中の胃袋を掴む商売から始めるぞ。串焼き屋だ」


ワタルの提案に、マリアは目を丸くした。 「……串焼き? こんな最高級のポーションを作れるあんたが、屋台をやるって言うの?」


「俺がやるんじゃない。あんたが仕切るんだ。材料は俺が卸す。最高級の肉と、この世で一番純度の高い塩だ」


ワタルはアイテムボックスから、浄化済みのフォレストボアのバラ肉と、土壌から精製したあの『純白の塩』を取り出した。


「な、何これ……。この肉、魔力が溢れてるじゃない。それにこの塩……宝石か何か? 雑味が一切ないわ……」 マリアの商人の嗅覚が、これが「爆発的に売れる」と直感した。


「マリア、あんたは場所の確保と、信頼できる人間を数人雇え。屋台の設営は俺がやる。この街の『不条理』の一つは、不味くて高い飯を食わされてる一般市民だろ? それを根底からひっくり返す」


エピソード1:一夜の設営

その夜、ワタルは念動力と「浄化」の力をフル活用した。 路地の隅に用意された古びた屋台を、ピュリファイで磨き上げ、念動で構造を補強。さらに、魔力操作で火力が一定に保たれる「魔法のコンロ」を即席で組み上げた。


「リィン、お前は肉の串打ちを手伝え。念動を使って、肉の繊維を傷つけないように串を通すんだ。これが訓練になる」 「はい、ワタル様! 丁寧に、心を込めて……!」


リィンの細い指先から放たれる微かな念動が、肉を最適な位置で固定し、串を滑らせていく。


エピソード2:開店、そして衝撃

翌昼、街の一角に香ばしい、暴力的なまでに美味そうな匂いが立ち込めた。


「さあ寄ってらっしゃい! 冒険者も市民も、一度食べたら忘れられない『幻のボア串』だよ!」 マリアの凛とした通る声が響く。彼女が雇ったのは、同じように商会を追い出され、職を失っていた真面目な若者たちだ。


「おいおい、串一本で銅貨5枚だと? 庶民のメシにしちゃ高……」 半信半疑で口にした男の目が、次の瞬間、零れ落ちそうになった。


「な、なんだこれ……!? 肉が口の中で溶ける……! それにこの塩味、ガツンと来るのに後味が信じられないほど透き通ってやがる!」


噂は瞬く間に広まった。 「浄化」された肉は臭みが一切なく、最高純度の「塩」が肉の旨味を極限まで引き立てている。さらに、リィンの「念動」で繊維を解された肉は、驚くほど柔らかい。


「おい、もっと焼け! 全部買い占めてやる!」 「列に並んでよ! 一人三本までだ!」


マリアが手際よく客をさばき、若者たちが必死に肉を焼く。ワタルはその様子を、少し離れた屋根の上からリィンと共に眺めていた。


「ワタル様、みんな笑ってます。美味しいものを食べると、みんな幸せそう……」 「……ああ。不条理を壊すやり方は、殺すだけじゃないからな」


その日の売り上げは、屋台一つとは思えない額になった。


エピソード3:利権の衝突

だが、商売が繁盛すれば必ず「不条理」が寄ってくる。 夕暮れ時、売上金を回収しようとしていたマリアたちの前に、この界隈の飲食利権を握る「黒い噂」の絶えない商会の用心棒たちが現れた。


「おい、女。ここで商売するなら、ショバ代が必要だってことは分かってるんだろうな?」


マリアが冷たい目で彼らを見据える。「あら、そんな話、街の公式な規約には書いてなかったわよ?」


「へっ、屁理屈を……。その肉の仕入れ先と塩の出所、吐いてもらおうか。さもなきゃ、この店ごと灰にするぞ」


用心棒が松明を屋台に近づけようとした、その時だった。



「……せっかくの飯が、血生臭くなるな」


屋根の上で、ワタルは静かに呟いた。 マリアを脅し、屋台に松明を近づけようとする三人の用心棒。彼らを「鑑定」すれば、過去に何度も同様の手口で善良な商人を破滅させ、時にはその家族ごと始末してきた「汚れ仕事の専門家」であることが分かった。


この世界の絶対悪、盗賊と同類の輩だ。


「リィン、見てろ。念動はこう使う」


ワタルが指先をわずかに動かした。


まず、松明を持っていた男の手首。念動力が「不可視の万力」となって、一瞬で骨を粉砕した。 「あ、がぁっ!?」 松明が地面に落ちるよりも速く、ワタルはそれを宙で静止させ、逆回転で男の口の中へとねじ込んだ。


「ごふっ、熱っ……がはっ……!」


悲鳴すら上げられない男の喉奥に、さらに「念動」を突き立て、肺を直接圧迫して沈黙させる。


「な、なんだ!? 魔法か!?」 慌てて剣を抜こうとした別の用心棒。だが、彼の剣は鞘から抜けることはなかった。 ワタルは念動で「鞘の入り口」を歪ませ、剣が二度と抜けないように固定した上で、鞘ごと男の首筋を強打した。


それだけではない。 「ピュリフィケーション(浄化)」の逆。 男たちの血管の中にある「不純物」や「老廃物」を一点に集め、心臓の弁に直接叩き込む。


「ひっ、あ……」 一人は心臓が破裂し、もう一人は脳の血管が千切れ、崩れ落ちた。 外傷はほとんどない。だが、中身はボロボロだ。


最後に残ったリーダー格の男。彼は腰を抜かし、後退りしながら空を仰いだ。 「ば、化け物……っ!」


「化け物じゃない。不条理の『掃除屋』だ」


ワタルの声が、風に乗って耳元で囁くように響く。 念動力が男の頸椎に触れた。そのまま、ネジを回すように「一回転」。


ゴリッ、と鈍い音がして、男は物言わぬ肉塊へと変わった。


【レベルが上がりました:Lv.11 → Lv.12】 【HP・MPが全回復しました】


立ち尽くすマリアと若者たちの前には、三つの死体だけが転がっている。 ワタルは屋根から飛び降りることなく、念動で死体を一つずつ「アイテムボックス」へと吸い込ませた。


血痕すらも「ピュリファイ(清浄)」で瞬時に消し去る。 そこには、最初から誰もいなかったかのような、静かな路地が戻っていた。


「……マリア、掃除は終わった。商売を続けろ」 闇の中からワタルの声だけが届く。


マリアは震える肩を抑え、深呼吸をしてから、見えない出資者に向かって不敵に微笑んだ。 「ええ……。最高の『用心棒』がついてるんですもの。止まる理由なんてないわ」


こうして、街の利権を貪っていた腐った組織の一部は、一夜にして、そして誰にも気づかれずに「消滅」した。


【現在のパーティ】

ワタル:Lv.12(UP!)。念動、浄化、精製、暗殺の達人。


リィン:Lv.2。念動の基礎を習得中。ワタルの粛清を目の当たりにし、覚悟を固める。


マリア:Lv.5。商売の窓口。ワタルの「力」を理解し、さらに野心を燃やす。



「マリア、あんたにも『力』を教えておく。商売敵を黙らせる交渉術もいいが、最後は自分の身を守れる力が必要だ」


ワタルは屋台の片付けを終えたマリアを呼び止めた。マリアは少し驚いた顔をしたが、リィンが小石を浮かせる様子を見ていたこともあり、覚悟を決めたように頷いた。


「わかったわ。あんたが言うなら必要なことなんでしょう。……それに、さっきみたいな連中にまた絡まれるのは御免だしね」


ワタルはリィンの時と同じように、マリアの背中に手を当てて「魔力操作」で彼女の魔力回路を強引に、かつ丁寧に拓いていく。リィンに比べて魔力量は多いが、大人の体ゆえに回路が固まっていたが、ワタルの緻密な魔力制御の前では問題ではなかった。


数時間の猛特訓の末、マリアもまた「目に見えない指先」を手に入れた。彼女は自分の指先で、テーブルの上の空瓶を浮かせ、クルクルと回してみせる。


「……信じられない。これが『魔法』なのね。これなら、懐に毒針でも忍ばせておけば、誰にも気づかれずに身を守れるわ」 「流石はマリアさん、考え方が合理的ですね……」 リィンが少し引き気味に笑うが、ワタルは「それでいい」と頷いた。


真面目な若者たちの自己紹介

翌朝、マリアが雇った3人の若者たちが、屋台の準備のために集まった。彼らは昨夜の「惨劇」を直接は見ていないが、屋台がピカピカになり、不穏な空気が消え去っていることに畏怖を感じていた。


ワタルは顔を隠すようにフードを深く被り、彼らの前に立った。


「今日からここで働くお前たちに、改めて自己紹介をさせておく。俺はワタル、この店の『出資者』だ。……リィン、お前からいけ」


「はい! リィンです! 獣人族の15歳です。ワタル様の弟子として修行中です。皆さんの仕事がスムーズにいくように、力仕事や見張りを担当します。よろしくお願いします!」 リィンは元気よく、しかし鋭い眼光を時折見せながら挨拶した。


次に、若者たちが一人ずつ緊張した面持ちで名乗り出る。


カイル(22歳) 「元々はローウェル商会(マリアのいた商会)で帳簿を手伝っていました、カイルです。……不正を暴こうとしたマリアさんに付いていってクビになりました。計算には自信があります。この店を街一番にするために尽くします!」


ハンス(20歳) 「ハンスです! 実家が農家で、力仕事と食材の目利きには自信があります。街の大きな市場に買い叩かれて困っていたところを、マリアさんに声をかけてもらいました。一生懸命焼きます!」


ミナ(19歳) 「ミナと言います。以前は宿屋で給仕をしていました。……客に絡まれていたところをマリアさんに助けていただいて。接客と掃除なら任せてください! このお店の匂い、大好きです!」


ワタルは「鑑定」で彼らの内面を読み取る。全員が「誠実」であり、マリアへの深い恩義と、この「不条理な社会」への反骨心を持っている。


「いい面構えだ。……お前たちは、もう誰かに奪われるだけの弱者じゃない。俺とマリアが、お前たちの居場所を守る。その代わり、裏切りは万死に値すると思え」


ワタルの威圧感に、若者たちは背筋を伸ばして「はい!」と声を揃えた。


【ワタル商会(仮) 陣容】

ワタル:影の支配者。素材調達・粛清担当。


マリア:表の代表。経営・交渉・念動(初歩)。


リィン:護衛兼弟子。索敵・念動(中級)。


カイル・ハンス・ミナ:店舗運営スタッフ。



ワタルは、マリアの店が軌道に乗ったのを見届け、次のステップへ進むことにした。


「マリア、リィン。店はカイルたちに任せて、少し時間を空けろ。……本格的に鍛え直すぞ」


二人の念動の基礎はできた。だが、この過酷な世界で「静かに生きる」ためには、襲ってきた不条理を瞬時に、かつ確実に無力化する精度が必要だ。


訓練:感覚の共有と超精密操作

ワタルは二人を連れて、再び街の外の静かな森へと向かった。 「ただ浮かせるだけなら子供の遊びだ。これからは『見なくても動かせる』ようになってもらう」


ワタルはアイテムボックスから、浄化して磨き上げた極小の針を大量に取り出し、二人の周囲に浮かべた。


「マリアは商売人だ。相手の懐にある財布や鍵を、相手に気づかれずに『解く』練習をしろ。リィンは、飛んでくる羽虫の羽だけを念動でむしれ。……魔力操作を極限まで絞り、針の先ほどの点に集中させるんだ」


「……厳しいわね。でも、これができれば交渉中に相手の弱点を握るのも簡単そうね」 マリアは不敵に笑い、集中力を高める。 「はい、ワタル様! 虫さんには悪いけど……頑張ります!」 リィンも猫耳をピンと立て、魔力感知を研ぎ澄ませた。


ワタルは「魔力操作」で二人の回路に干渉し、魔力の無駄な消費を抑えるコツを叩き込んでいく。数日間の特訓により、マリアは**「微細操作」を、リィンは獣人特有の反射神経を活かした「多重展開」**の片鱗を見せ始めた。


ハンスの実家:新たな供給源の確保

訓練の合間、ワタルは店で働くハンスを呼び出した。 「ハンス、お前の実家は農家だったな。一度案内しろ。いい食材があるなら、相場より高く買い取る」


「本当ですか!? ありがとうございます! 実家はここから半日ほどの村なんですが……最近、領主の増税と魔物の被害で、みんな死にそうなんです」


ハンスの案内で訪れた村は、一言で言えば「疲弊」していた。畑は荒れ、村人の表情は暗い。ハンスの両親は、突然帰ってきた息子と、その後ろに控えるワタルたちの姿に驚き、震えながら迎えてくれた。


「鑑定」を村の畑に飛ばす。 【土壌:栄養枯渇、微細な魔力汚染、塩害】


「……なるほどな。これじゃあ、どんなに真面目に働いても不味い作物しか育たないわけだ」


ワタルはハンスの両親に向かって静かに告げた。 「俺がこの土地を『浄化』する。その代わり、これから育つ作物はすべて俺の商会が独占的に買い取る。……文句はないな?」


「じ、浄化ですと……? そんな高価な魔法、聖騎士様か高名な魔導師様でなければ……」


ワタルは答えず、地面に膝をついた。 「ピュリフィケーション(大規模精製)」 「ピュリファイ(広域清浄)」


全快したMPを惜しみなく注ぎ込む。ワタルの手から放たれた白光が、波紋のように村の畑へと広がっていった。土に含まれていた毒素が霧散し、塩害の原因となっていた余計なミネラルが浄化され、理想的な「黒土」へと作り替えられていく。


「な、なんだ……土が、生き返っている……!」


さらにワタルは「アイテムボックス」から、道中で採取していた栄養豊富な腐葉土を念動で均一に撒き、**「ヒーリング」**の波動を土壌に馴染ませた。


「ハンス、ここを俺たちの『直営農場』にする。お前の親父さんたちには、最高の野菜を作ってもらうぞ。……不条理な増税については、俺が後で『調整』してやる」


ワタルの不敵な笑みに、ハンスの両親は涙を流して感謝し、ハンスは誇らしげに胸を張った。 これで、ボア、塩(精製)、そして最高級の野菜(直営農場)が揃った。


【拠点の拡大】

ハンスの実家の村:ワタル商会の独占供給地となる。


ワタル:Lv.13(大規模魔法行使によりUP!)。


マリア・リィン:念動の精度が大幅に向上。





ワタルは、ハンスの両親が希望に燃えて畑を見つめる横で、ふと思い出した。アイテムボックスの片隅に、これまで「掃除」してきた不条理の残骸――盗賊や悪徳用心棒たちの死体が積み重なっていることを。


「ハンス、親父さん。この土をさらに豊かにする特製の肥料があるんだ。少しの間、向こうを向いていてくれるかな。ちょっとした企業秘密なんだよ」


ワタルは穏やかに微笑みながら、畑の端へ移動した。死体をそのまま埋めるのは不衛生だし、何より気持ちが良くない。だが、彼らが奪ってきた「命」を、これからの糧に変換することこそ、この世界での一番の供養になるかもしれない。


「……さて、やってみるか。ピュリフィケーション、それに念動」


ワタルはアイテムボックスから、保存されていた死体たちを念動で一箇所に引き出した。村人たちの視界からは死角になるよう、念動で視界を遮る。


まず念動力を細かく使い、肉体と骨を瞬時に粉砕して形を消し去る。次にピュリフィケーションを念入りに重ねた。死体が持っていた病原菌や毒素、そして生前の禍々しい気配をすべて「不純物」として徹底的に抜き去っていく。


ワタルの手の中で、濁った気配が消え、純粋な有機成分と骨のミネラルだけが残った。それはもはや死体ではなく、大地の栄養そのものだ。


「よし、これでいい。念動で土に混ぜてしまおう」


ワタルは指先を軽く振った。浄化された栄養素が風に乗り、畑全体へ均一に染み込んでいく。土に触れた瞬間、先ほど浄化したばかりの土壌がさらに深い黒色へと変わり、大地の力が底上げされた。


「おや、ワタルさん……土から、まるでお花畑のような良い匂いがしてきますよ!」 ハンスの父親が土を手に取り、そのあまりの生命力に驚いている。


「それは良かった。奪うしか能がなかった連中も、こうして野菜を育てる手助けができるなら、少しは報われるだろ。……大切に使ってやってくれ」


ワタルは穏やかな口調でそう告げた。悪人の命を糧にして育つ、聖なる野菜。これこそ、理不尽に立ち向かいながら静かに生きるための、ワタルなりの生存戦略だった。


【レベルが上がりました:Lv.14】 【HP・MPが全回復しました】


【現在の状況】

農場の状態:浄化と栄養供給により、この辺りで最も豊かな土壌へ。


ワタル:Lv.14。死体という負の遺産を完全に片付け、資産に変えた。



「親父さん、次はこれを育ててみてくれないか」


ワタルはアイテムボックスから、以前の「掃除」や探索のついでに採取しておいた種や苗を取り出した。


「胡椒に山椒、それにトマト、玉ねぎ、セロリ……。どれもこの辺りでは珍しいものや、育てるのが難しいものばかりですね」 ハンスの父親は驚きながらも、その目は職人のように輝いている。


「ああ。この浄化した土壌なら、普通は数年かかる胡椒の成長も早まるはずだ。山椒は日本の……いや、俺の故郷の味に欠かせない。トマトと玉ねぎ、セロリの三つが揃えば、料理の幅が劇的に広がるんだよ」



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