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不条理を掃除する男 ~チンケな念動力で世界を変える~  作者: 慈架太子


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第3章:力の探求 念動力訓練とスキル習得

ワタルはフォレストボアへの攻撃を一度止め、深く息を吐いた。 ナイフを研ぎ、豆を躍らせる訓練の中で、脳の奥が熱を帯びる感覚がピークに達していた。


「……待てよ。動かすだけじゃなくて、もっと『中』を見ればいいのか?」


今まで俺は「魔力」というガソリンを使って「念動」というエンジンを回していた。だが、そのガソリンが体の中をどう流れ、どう消費されているのかを意識したことはなかった。


ワタルは目を閉じ、外界の情報を遮断した。 意識を自分の内側、心臓の鼓動よりも深く、熱い何かが淀んでいる場所へと沈めていく。


「……見えた」


それは、細く頼りない青い筋のような光だった。 血管のように全身に張り巡らされ、指先から念動として放出されるエネルギー。 これが魔力か。


ワタルはその「光の筋」を、意識の指先で優しくなぞってみた。 淀んでいる場所を流し、詰まっている部分を押し広げる。 すると、視界を閉ざしているはずなのに、周囲の森の景色が「熱」や「色のない波動」として伝わってきた。


【スキル習得:魔力感知】 【スキル習得:魔力操作】


脳内に響く無機質なアナウンス。 目を開けた瞬間、世界は一変していた。


「鑑定」を使わずとも、空気中に漂う魔力の粒が見える。 そして目の前のフォレストボア――。その強靭な筋肉の奥を流れる、荒々しい魔力の奔流までが丸見えだ。


「……なるほど。操作ができるなら、こうすればいいわけだ」


ワタルは、自分の体内の魔力を指先に集めた。 今までは「念動力という力」を外に飛ばしていたが、今は「自分の魔力」を「外の魔力」に直接同調させる感覚。 消費MPが、劇的に下がるのを感じる。


ワタルは浮遊させていたナイフに、自らの魔力を薄く、鋭く纏わせた。 それはもはやただのナイフではない。魔力の膜を被った、目に見えない次元の「刃」だ。


「テストだ。……いけ」


ワタルが指を弾くと同時に、ナイフが音もなく加速した。 風を切る音すらしない。 フォレストボアは異変に気づき、鼻を鳴らした。だが、その瞬間には、魔力を纏ったナイフがボアの眉間を「抵抗なく」貫いていた。


ボアの頑丈な頭蓋骨が、バターのように裂ける。 巨体がドォンと地面を揺らし、絶命した。


その瞬間、ワタルの体に温かな力が奔流となって流れ込んできた。


【レベルが上がりました:Lv.8 → Lv.9】 【HP・MPが全回復しました】


「……はあぁぁ……っ」


先ほどまでの脳の疲れ、魔力操作による疲労感が、一瞬で霧散した。 枯渇しかけていたMPが、底なしの器を満たすように溢れ出す。 全快。 文字通り、一秒前の疲労が嘘のような万能感。


「すごいな。これがレベルアップの恩恵か……」


ワタルは自分の手を見つめた。 魔力を感知し、操作し、そして全快する。 この「チンケな魔法」の組み合わせは、育て方次第でこの世界のことわりすら書き換えてしまうのではないか――そんな予感がした。


ステータス更新

名前: ワタル レベル: 9(UP!) HP: 135 / 135(全快) MP: 210 / 210(全快) スキル: 念動、鑑定、アイテムボックス、魔力感知、魔力操作



ワタルは、横たわるフォレストボアの巨体を見下ろした。 これほどの獲物を街に持ち込めば目立ちすぎるし、かといって放っておくのは元日本人として「食」の観点からあまりに忍びない。




「……さて、新しく覚えた『魔力操作』と『念動』の合わせ技、試してみるか」


ワタルは右手をフォレストボアにかざした。 これまでは「力任せに押す・引く」だけだったが、今は違う。魔力感知によって、ボアの皮膚、筋肉の繊維、骨の継ぎ目、そして血管の走る場所までが、透視するように手に取るようにわかる。


「まずは、血抜きだ」


指先をわずかに捻ると、頸動脈内の血液だけに念動力が作用した。内部で血液だけが逆流し、あらかじめ開けた小さな穴から、一本の赤い筋となって外へ引きずり出されていく。次に、魔力で研ぎ澄ませた不可視の刃を、皮膚と脂肪のわずかな隙間に滑り込ませた。ベリベリ、と心地よい音がして、巨大な毛皮がまるで服を脱ぐように綺麗に剥がれていく。


「そして、部位ごとの切り分け」


骨の関節に念動力を割り込ませ、パズルのピースを外すように解体していく。 だが、そこでワタルは手を止めた。地面に転がった骨や内臓。これまでは「森の肥やし」として埋めていたが、ふと考えが変わった。


「……待てよ。埋めて捨てるのはもったいない。だが、このままじゃ泥臭いし、魔物特有の『障り』もある。なら、これも魔法イメージで解決できるんじゃないか?」


現代日本人の感覚として、不潔なものは生理的に受け付けない。 俺が欲しいのは、物理的な解体だけじゃない。概念的な「清潔さ」だ。 不純物を抜き出し、毒素を無害化し、純粋なものだけを抽出する――。


ワタルは魔力操作を応用し、魔力の網をボアの心臓やレバー、そして自分自身の汚れた服にまで潜らせた。


「……不純物だけを、外へ。汚れを、無に」


【スキル習得:ピュリフィケーション(浄化・精製)】 【スキル習得:ピュリファイ(清浄)】


その瞬間、ワタルの手から柔らかな白光が溢れ出した。 ドロリとしていた内臓が、まるで宝石のように瑞々しく輝き始める。鼻を突く獣臭は一瞬で消え、代わりに清涼な空気がその場を包んだ。


「……なるほど。これが『浄化』か」


ピュリフィケーションで毒素や寄生虫、血の汚れを完璧に抜き去り、 ピュリファイで魔物特有の禍々しい「邪気」を祓う。


これがあれば、泥水も最高級の天然水に変わる。 浄化された美しい色のレバーやハツ、そして極上のバラ肉をアイテムボックスへ収納していく。アイテムボックス内は時間停止。今さばいたばかりの「究極の鮮度」が、永遠に保たれるのだ。


最後に、ワタルは自分の服にも軽く「ピュリファイ」をかけた。 旅の埃や返り血が光の粒子となって霧散し、新品のような肌触りに戻る。


「……ふぅ。これでスッキリした。さて、次こそ飯にするか」


胃袋が、待ちきれないとばかりに鳴った。 全快したMPを惜しみなく使い、ワタルは最高に「清らかな」食材で、異世界初のまともな食事の準備に取り掛かった。


【現在のステータス】

名前: ワタル レベル: 9 HP: 135 / 135 MP: 210 / 210 スキル: * アイテムボックス(無限・時間停止・鮮度保持)


鑑定(全対象)


念動(Lv.4)


魔力感知・操作


ピュリフィケーション(浄化・精製)


ピュリファイ(清浄)



ワタルは、浄化を終えた素材を一通り眺め、満足げに頷いた。


「よし、皮も骨も、この際全部しまっておくか。何かに使えるかもしれないしな」


アイテムボックスを開き、念動力でそれらを次々と虚空へ送り込む。 通常なら血生臭く、嵩張るだけのゴミになりかねないボアの残骸も、ピュリフィケーションとピュリファイを通した今では、まるで工芸品のような清潔感を保っている。


巨大な毛皮は丸められ、硬質な骨は一箇所にまとめられ、宝石のように輝く内臓は部位ごとに。 アイテムボックスの容量は無限だ。整理整頓すら念動で行えば、一瞬で片付く。


「時間停止のおかげで、解体直後の『魔力が乗った状態』のまま保存できるのはデカいな。骨は出汁にしてもいいし、皮はなめして装備の補強に使える。……まあ、今は何より飯だ」


周囲の血痕すらも念動で土を被せて隠蔽し、見た目には「そこで何かが起きた」痕跡すら残さない徹底ぶり。


ワタルはアイテムボックスから、先ほど厳選したバラ肉の塊と、浄化済みのハツ(心臓)を取り出した。


「さて、この世界の不味い飯に反旗を翻すとしようか」


手元に浮かぶのは、美しいサシの入ったボアの肉。 ワタルは念動力で平らな石板を宙に固定し、魔力操作でその温度をじわじわと、かつ均一に上げ始めた。



ワタルは手元に浮かぶ極上のバラ肉を見つめ、ふと漏らした。


「……やっぱり、塩が欲しいな」


アイテムボックスには、以前の「掃除」で手に入れた安物の塩が少量ある。だが、それは雑味が混じり、砂のようなえぐみがある代物だ。この最高の肉を食うには、もっと純度の高い、透き通った塩がふさわしい。


「待てよ。『ピュリフィケーション』があるんだ。これを使えば……その辺の土からだって、必要なものだけを精製ピュリファイできるんじゃないか?」


普通なら、海水から塩を作るか、岩塩を掘り出すのがこの世界の常識だ。だが、ワタルの持つ力は「物理干渉」と「事象の純化」の組み合わせである。


ワタルは地面に手をかざし、広範囲に魔力感知を広げた。 この世界の土壌には、太古の海の名残か、微かな塩分が含まれているのが「視える」。


「……念動で集めて、ピュリフィケーションで『塩』以外を徹底的に排除する」


念動で土を巻き上げ、宙で渦を作らせる。その中心に魔力操作を流し込み、ピュリフィケーションを一点に集中させた。 土の粒子から、不純物、泥、雑味、それらすべてを「汚れ」として弾き飛ばす。


すると、ワタルの目の前には、不自然なほど真っ白で、ダイヤモンドのように輝く「純白の結晶」が形作られていった。


「……できた。不純物ゼロの、究極の塩だ。わざわざ別のスキルなんていらないな。ピュリフィケーション一つで十分だ」


指先に触れたその結晶をひとなめすると、鋭い塩味の後に、驚くほどまろやかな甘みが広がった。土から生まれたとは思えない、神聖なまでの純化された塩だ。


「よし、これで準備は整った」


ワタルは念動で肉を石板の上に並べた。 ジュゥゥッ、と暴力的なまでに美味そうな音が静かな森に響く。 焼き上がる直前、作りたての「純塩」をパラパラと振りかけた。


「……いただきます」


念動で浮かした肉を口に運ぶ。 噛み締めた瞬間、ボアの力強い肉汁と、浄化されたばかりの塩が、口の中で完璧なハーモニーを奏でた。


「う、うますぎる……。前世の高級ステーキハウスだって、これには勝てないぞ」


チンケなはずの魔法。だが、それを極めることで、ワタルはこの過酷な世界の「食」という不条理に対して、圧倒的な勝利を収めたのだ。


【ステータス確認】

HP: 135 / 135


MP: 185 / 210(浄化と精製により微減)


スキル: アイテムボックス、鑑定、念動、魔力感知・操作、ピュリフィケーション、ピュリファイ



肉の旨味に浸りながら、最後の一片を口に運んでいた時だった。 「魔力感知」の端に、ひどく不安定で不快な魔力の揺らぎが引っかかった。


こちらへ向かってくる足音。一つは重く、焦燥に駆られた荒い足取り。もう一つは、今にも消え入りそうなほど弱々しい。


ワタルは即座に念動で石板と残りの肉をアイテムボックスへ放り込んだ。焚き火の火力を念動で抑え込み、闇に紛れるように巨木の影へと身を潜める。


「ハァッ……ハァッ……おい、止まるな! さっさと歩け、この役立たず!」


罵声とともに現れたのは、汚れた革鎧を着た、下卑た面構えの男だった。腰には捕縛用の太い鎖がジャラジャラと鳴っている。その後ろを、首に無骨な鉄の輪を嵌められた少女が、裸足で地面を引きずるようにして付いてきていた。


「……奴隷狩りか。それとも奴隷商人か」


ワタルは冷徹な視線で、彼らに「鑑定」を飛ばした。


対象:ガサス 年齢:34歳 レベル:12 状態:苛立ち、疲労、軽度の酒気 罪状:拉致、暴行、殺人未遂


対象:リィン(種族:獣人・猫耳族) 年齢:15歳 レベル:2 状態:衰弱(重度)、右足首の骨折、魔力枯渇 備考:とある没落貴族の隠し子。存在が不都合となった本家より、口封じのために売られた。


「……15歳、か。この世界じゃもう成人扱いされる年だろうが、やってることは最低だな」


ワタルは深く、長く、静かに息を吐いた。 関わりたくない。静かに生きたい。トラブルは御免だ。それが前世から引き継いだ俺のモットーだ。だが、目の前の光景は、この世界の「不条理」そのものであり、俺が最も嫌悪する理不尽な暴力の形だった。


少女が木の根に足を引っかけ、力なく地面に倒れ伏す。 「ひっ……うぅ、ごめんなさ……っ」 「この役立たずが! 明日の朝までに街の競り場へ届けなきゃならねえんだよ! 立て、立たねえか!」


男が苛立ちを爆発させ、太い腕を振り上げた。その手には逆棘のついた、肉を削ぎ落とすための醜悪な鞭が握られている。


ワタルの指先が、ス、と動いた。 「静かに生きたい」と言い聞かせている理性の裏側で、魔力操作によって練り上げられた冷たい念動力が、男の喉元へと集中していく。


「……悪いな、おっさん。俺は今、最高に飯がうまくて機嫌が良かったんだ。それを台無しにされた気分はどうだ?」


闇の中から、ワタルの声が低く、地を這うように響いた。


「だ、誰だ!?」 男が慌てて周囲を見渡すが、ワタルの姿は見えない。


「見えない指先」が、男の持つ鞭に触れた。 物理的な干渉ではない。魔力操作を施した「念動」で、鞭の素材密度を一点に集中させ、過負荷をかける。


パキィィィン!!


空気を切り裂くはずだった鞭が、振り上げた瞬間に粉々に砕け散った。 「なっ……!? なんだ、何が起きた!?」


男が狼狽える中、ワタルは静かに闇から一歩踏み出した。


「その子は、俺が買い取ることにした。……代金は、お前の命でいいか?」



「代金は、お前の命でいいか?」


ワタルがそう告げた瞬間、男の顔が驚愕から激しい殺意へと変わった。 「ガキが、ナメやがって! 死ねぇ!」 男は砕けた鞭を捨て、腰の長剣を引き抜いて斬りかかってくる。


だが、ワタルの視界には、男の動きが鈍いコマ送りのように映っていた。 「……遅いな」


ワタルは指先を軽く弾いた。 「念動」による不可視の圧力が、男の膝関節を逆方向に叩く。 バキッ、という嫌な音が森に響き、男は悲鳴を上げる間もなく地面に崩れ落ちた。さらにワタルは間髪入れず、男の四肢の関節すべてを念動で「外した」。


「あ、が……あ、あああああッ!?」 喉を念動で圧迫し、悲鳴を最小限に抑え込む。


「まずは情報の精算だ。没落貴族の隠し子、リィン。……本家から口封じを頼まれたんだろ? 黒幕は誰だ」 「な、なぜそれを……がはっ! 言う、言うから助け……!」 男が恐怖に染まった目で白状し始める。黒幕は近隣の領地を治める「グラウベン男爵」の遠縁にあたる家系だという。



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