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リキッドサンシャイン~わたしたちのひと夏~  作者: 星鍵 ケイ
第二章 夏に漂うカルピスの匂い
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第5話 僕ら三人

 週末が終わり、また一週間がはじまって、ようやく三日が経った。


 今週はどうも一日が長く感じられて、今朝起きたときも今日がまだ水曜日なことが信じられなくて落胆した。


 今日と明日と金曜日。あと三日経てば、また特別な日がやってくる。


 だから、何もない平凡な日々がじれったく感じて仕方なかった。


 せめてなにか変化が欲しい。

 滅多に怒らない先生がブチキレるとか、英語の授業で洋画を見るとか、そういった些細なアクセントでいいから、この憂鬱な気持ちを紛らわせてほしかった。


 だが、現実は非情だ。昨日も一昨日も、何一つとして代り映えのない退屈な日常だった。


 一度、耐えかねて、美術室を訪ねようとしたことがあった。そこに行けば特別な時間が過ごせるはずで、実際それは間違っていないのだと思う。


 でも、行かなかった。


 美術室の目の前まで来て、扉を開けることを躊躇したのだ。

 この扉を開けてしまえば、特別と普通の境界が曖昧になってしまう気がした。


 それは例えるなら、神社の本殿に勝手に入ってしまうような感じで、やってはいけないことだった。


 だから結局、扉は開けられなかったし、彼女と会うこともなかった。

 そんな日常に変化が訪れたのは、一限前の教室でだった。


「なぁ聞いた? 一組のやつ」

「停学でしょ⁉ 聞いた聞いた!」

「なんか、いじめだって。一組の友達に教えてもらった」


 教室で通学リュックから筆箱やらを取り出していると、前の席の会話が聞こえてきた。

 いじめという事件が起きたことに少し興味が湧いたが、隣のクラスで起きた出来事だし、やらかしたのはどうせ後先考える頭のない馬鹿だろう。


 だから、『そういえば、一組はかなめのクラスだったな』なんてことを考え出すくらいには、すぐに興味がなくなった。


 一方で、グループのやつらは事件のことを知るなり、早速情報収集に乗り出していた。授業が終わる度に教室を飛び出し、マスコミの如く一組の生徒に聞き取りを行っていたのを見て、ちょっと引いた。



***



 彼らは昼休みになっても駆け回っていたので、僕は仕方なく一人で弁当を食べることになった。

 意外だったのは、その彼らの中に光一も含まれていることだ。あいつはこういったことに興味がないバスケ脳のはずなのだが、珍しいこともあるものだ。


 ま、そんなこともあるか、と適当に流しながら、弁当を食べ始めた。ふりかけご飯とおかず数品のシンプルな構成だ。不思議なもので、慣れ親しんだ母の料理の味に飽きることはない。


 思えば、昼食だけに専念して食べるのは久々な気がする。いつもは会話に気を配らなければいけないから、こうした機会はなかなか貴重なのかもしれない。


 もしかすると、これは非日常なのだろうか。それにしては退屈すぎる気もするが。


 とはいえ貴重な機会だ。味わって食べよう、とおかずの野菜炒めに手を付けたとき、教室のドアがバンッと勢いよく開かれた。


 なんだなんだ、とクラス中の視線がそこに集まる。僕も例に漏れず、音の方を見やった。

 そこにいたのは光一だった。なんだか怒っているような顔をしている気がする。なにかあったのだろうか。


 他のクラスメイトは、音の正体が先生や不審者ではなく光一だとわかると、また食事なり会話なりを再開した。


 光一はその間を突き進み一直線に僕の元まで来ると、泣きそうな顔で見下ろしてきた。


「ど、どうしたんだよ。そんな顔してさ……やなことでもあった?」


 おずおずと聞いてみる。光一は近くの空席を引き寄せ座ると、重々しく話しだした。


「……一組でいじめがあったこと、知ってるよな」

「あ、あぁ。知ってるけど……」

「いじめてたやつらの一人が……かなめらしい」

「――――――はぁ?」


 からん、と床に箸が落ちる音がした。力の入れ方を忘れたような感じだった。

「……なんかの間違いじゃないのか」

「俺だって信じれなかった。でも、何度も確認したけど、間違いなかった。現に今日、かなめは登校してない」

「偶然休んでるだけとか……」

「ない。かなめと仲良かった他のやつらも来てないのがその証拠だ。さすがに偶然全員休むなんてことはありえないだろ」

「でも、かなめだぞ? いじめなんてするやつか?」

「だから俺だってよくわかんねぇよ! いじめなんかするわけねぇだろ!かなめが……!」


 光一は歯を食いしばって俯いていた。


「かなめが、人を傷つけるなんて……なにか、理由が……」


 いじめをする理由なんて、どれも最低なものばかりだと思う。


 でもたしかに、かなめが、他人を気に食わないからとか、自分の邪魔になったからとか、そういうのを理由にするとは思えない。


 かなめの性格を一言で表すなら『自分に厳しく他人にやさしく』だ。


 バレー部の主将をやっていたときも、チームのミスは自分の力不足と反省するようなやつだった。それが本心から来ているのを、僕も光一も心のどこかで尊敬していたと思う。


 仲間たちからの好意に報いるため、自分の力を高めようと常に努力を欠かさない、そしてその力はまた仲間たちに還元する。


 それが、浦和かなめという人間のはずだ。


「俺、最近忙しくてさ。かなめと喋れてなかったんだよ。だから、あいつを止めてやることもできなかった……」

「僕だって……」


 頭によぎるのは、先日偶然会ったかなめの姿。


 どこか思い悩み、触れば崩れてしまいそうなガラス細工のようなあの姿。

 あのかなめらしくないかなめと、僕は会っていたはずだった。


「もっと話してれば、違ったのかもなぁ……」


 後悔がのしかかってくるみたいに襲ってきて、受け止めるように背もたれにもたれこんだ。


「―――いや、今からでも遅くないよな」


 光一がぼやくように言った。


「石田。今日の放課後空けとけよ」

「いつも暇だけど……なにするの」

「決まってんだろ。かなめと直接会って話を聞く」

「大丈夫なの? それ」

「しらん。けど会って話さないとなんもわからない。力にもなってやれない」


 それ以前に会ってくれるのかという話だと思うのだが、光一の中で会うのは確定事項となっているらしい。

 でもまぁ、きっとこいつならなんとかするだろう。こういう時の光一には不可能という文字がないらしい。


「わかったよ。じゃあ放課後」

「おう」


 そう言って、光一は席を立った。

 その後、僕は背もたれにもたれかかったまま食事を再開した。めちゃくちゃ食べにくかった。



***



 光一はそれからずっとかなめと連絡を取ろうと奮闘していたようで、授業中も机の下で見つからないようにスマホを使っていた。周りのやつらはゲームや動画を見ているのだろうと笑っていたが、僕だけはあいつがどれほど真剣に画面と向き合っているのかを知っていた。


 さすがに先生も不審がっていたみたいだけれど、注意はされなかった。あまりやる気のない先生だったから、もしかしたら見逃してくれたのかもしれない。


 そして、六限が始まる前に、覚悟が決まったような顔で、放課後会う約束を取り付けたことを報告してきた。まだスタートラインに立っただけだが、そこまで漕ぎつけたことを素直にすごいと思った。


 放課後。帰りのホームルームが終わってすぐ、僕たちは急ぐ足で学校を後にした。

 目指すはすぐ近くにある公園の噴水広場だ。かなめはそこで待っているらしい。


 会ったらまず何を聞くべきか。本当にやったのか? どうしてこんなことを?今どんな気持ちなんだ? そういうことを聞こうと、歩きながら心の中で決めておいた。


 けれど、実際に会ってみると、そういったことは全部すっぽ抜けて行ってしまった。


 かなめは、噴水広場の一番目立たないベンチに座って、呆けたように空を見ていた。

 学校には来ていないはずなのになぜか制服を着ていて、遠目から見るといつものかなめとなんら変わらないように思えた。


「―――あ。二人とも……ごめん。こんなことに、なっちゃって……」


 僕たちに気が付いて、気まずそうに笑いかけてくる。

 その笑みは、以前と同じ、いや、以前よりもひどく憂い気で、疲れ切ったような雰囲気を纏っていたように感じ取った。


 その時、僕の心が叫びをあげた。

 真実とか、理由とか、気持ちとかよりも言わなくちゃいけないことがある。

 友人として、かけてあげなきゃいけない言葉があるだろ、と。

 


「大丈夫?」


 それはいじめをした側にかける言葉じゃないことくらいわかっている。仮にかなめが本当に加害者なら、友人として糾弾すべきだろう。


 だが、僕にはそれができなかった。それはもう、終わったことなのだ。


「……だい……大丈夫だよ」


 その言葉を聞いて、光一が一歩僕の前に出てくる。


「嘘だな。さっきまで泣いてたんだろ。目が充血してる」

「……目をこすっただけだよ」

「いいや。泣いてた」

「……泣いてない」

「泣いてた」

「泣いてない」

「泣いてたんだよ。お前」

「だから! 泣いてないって! あたしに泣く資格なんかないの!」


 心からの叫び声が、静かな公園に響いた。でも、泣いてないっていうのは嘘だ。


「泣いてんだよ。お前は」


 かなめの目からは、ボロボロと、苦しみが溢れて出していた。それは、きらりと光る水面のようで、やがて荒れ狂う波のようだった。


「……泣いてないっ…! 泣けないのにっ…! 止まれっ…止めてよっ!」


 これは、罪人の慟哭だ。きっとかなめは加害者で、それをかなめ自身が一番わかっていた。


「泣いていいんだ。そのあとで、ちゃんと俺たちが怒ってやるから」


 僕と光一は、かなめを挟むようにしてベンチに座った。


 かなめはしばらく光一が差し出したハンカチに顔を埋め、しゃくりあげながら泣いた。時折ごめんなさいと何度か口にしていた。


 そうして、懺悔の時間が始まった。



***



「停学になったのは、あたしのほかに女子が一人と、男子が二人。あたしたち四人はよく一緒にいる仲で、いじめてたのはクラスの委員長だった女の子。ここまでは知ってる?」

「あぁ。知ってる」


 僕もここに向かう途中に光一から聞かされていた。いじめられた子は、昨日と今日は学校を休んでいるらしい。明日から復帰する噂もあるらしいが、果たして本当かどうか。


「あたしたちのグループは、クラスでも派手な感じで、その中でも中心だったのはもう一人の女の子だったの。ミリちゃ…その子はあたしを慕ってくれててさ。あたしの背が高かったから、いつもお姉ちゃんって呼んでくれてた」


 その子のことは、僕も少しだけ知っている。いわゆる女王様みたいな女子で、カーストが高い生徒としか仲良くしないだいぶ高飛車な性格をしているという話を、廊下で小耳に挟んだことがある。


「それである日、その子がちょっとだけ髪を染めてきてさ。で、それを委員長に注意されたらしいの。結構強く言われたっぽくて、それが頭に来たみたい。その日から、いじめが始まった」

「うちの学校、髪染めんの禁止だよね? 委員長じゃなくて先生は注意しなかったの?」

「先生たちは軽い注意で済ませたみたい。その子は先生たちに気に入られてたし、うちの担任もやる気のない先生だから」


 そうだった。一組の担任は、今日光一を見逃してくれたあの先生だ。その上気に入られているともなれば、髪を染めるくらいはやれそうだ。


「で。はじめは授業で溜まった消しカスを集めて委員長の机にばらまいたり、シャーペンの芯を全部出してみたり、そういう小さな嫌がらせから始めたの。わたしたち三人は見てるだけだった」

「委員長は文句とか言わなかったのか?」

「その頃はだれが犯人かわかってなかったみたい。バレないようコソコソやってたから」


 かなめは大きく深呼吸をして「でも…」と続ける。


「だんだんその子もヒートアップしていって、もっとひどいことをするようになった。そのうち男子二人も加わって、どこまでバレないでやれるか、チキンレースみたいな感じだったんだと思う。授業前に教科書を隠したり、委員長の周りで臭いって言ったり、一番最悪だったのは教室でスカートを思いっきりめくりあげたこと。これのせいで、委員長は一週間学校を休んで、ようやく先生たちも動き出した。多分、委員長が耐えきれなくなって相談したんだと思う」


 僕は顔を引きつっていたと思う。現実とは思えない、漫画の中の出来事みたいに感じた。そんなことが隣のクラスで起きていたなんて、耳にしたこともなかった。


「かなめは、何したんだよ」


 光一が言った。少し責めるような口調だったように聞こえた。


「あたしは、止めなかった。みんなが委員長をいじめてるとき、あたしは後ろから見てた。みんなが委員長のことを悪く言ったとき、あたしはそうだねって話を合わせてた。教科書の隠し場所も知ってたのに、委員長に教えなかったし、臭いって騒いだときも、そうかなって適当に誤魔化してた。スカートめくりのときなんて、ミリちゃんとハイタッチした! やりたくなかった! けどどうしてもやんなきゃダメだった!あたしが止めてれば、こんなことになんて!」


 かなめはもう一度泣き始めた。今度は肩を震わせながら、すすり泣くようにして。

 僕はそれから目をそらした。なぜかわからないが、今のかなめを見たくなかった。見るに堪えなかった。


「……これが、あたしのやったこと。どう? 酷いでしょ。見損なったでしょ」


 言い終わり、かなめはまた空を見上げた。入道雲がそびえたつ夏らしい空だ。


 ぼそっと聞こえた「もう無理か」というかなめのつぶやき。

 それを聞いて、僕はかなめに対して一つの答えを導き出した。


 久しぶりに会った数日前のあの時、かなめは何を思って鈴夏の絵を見ていたのか。

 後悔だろうか。いじめに加担してしまったことへの。


 それもあるはずだ。けど多分それだけじゃない。


 自分と比べてたのだ。絵に描かれた美しく綺麗な世界と現実の泥にまみれた自分の世界を見比べて、その違いを思い知っていたのだ。


 あぁ、そうか。

 かなめは変わってしまったんだ。


 中学生の、あの輝いていたかなめはもういない。目の前にいるかなめは、他の子と何ら変わらない、普通の女子高生なのだ。


 今までなんとなくそう思っていたが、ついにはっきりと、僕の中でそれが導き出されてしまった。


 どうしていいのかわからない。なんて声をかけるべきかわからない。

 変わってしまったかなめに、以前のように接していいのか、わからない。


 今までのかなめだったら導き出せた答えが、今のかなめには導き出せないのだと思う。


 だから、僕が答えを教えてあげるなんてことはできるわけがない。

 沈黙はしばらく続いた。その間、僕はすぐ隣からなにかを感じていた。這うように徐々に迫ってくるそれを、はやくなんとかしなくてはいけないはずなのに、僕は形にならない思考をすることしかできなかった。


「変わってないな。お前は」


 それを破ったのは、光一だった。

 呆れるように言われたその言葉の意味がわからなかったのは、僕だけじゃないみたいで、かなめも疑問符を浮かべていた。


「昔から、仲間の期待を裏切れないやつだよ。自分を慕ってくれるそいつの期待を裏切るのが出来なかったのは、やっぱかなめらしい」

「あたし、らしい……?」

「そうだ。他人を傷つけるのを怖がる、臆病者のかなめらしい」

「臆病なら、いじめなんてやらないでしょ⁉」

「やりたくてやったわけじゃないんだろ。臆病だから、やるしかなかった」

「そんなの……! そんなの余計に許されない! やりたくてやったわけじゃないは、言い訳にならない!」

「だから、お前がやったことは悪いことだ。悪いことをしたら、謝らなくちゃならない」


 それが、光一が教えてあげた答えだった。あたりまえなこと。だけど、僕や今のかなめには導き出せない答えなのかもしれない。


「謝るって、委員長に?」

「他に誰がいるんだよ」

「無理でしょ。無理に決まってる。会ってくれないし、謝ったとしても許してもらえるわけない」

「だとしてもだ。どんな形でもいい。お前は、謝るべきだ」

「……でもそれ」

「かなめ」


 喋り出そうとしたかなめの名前を呼んだ光一は、真顔でかなめのことを見つめていた。じっと顔を見合わせて、視線だけで何かを伝えようとしている。僕にはそれが、続いていたはずの言葉をたしなめるために言ったような気がした。


「……ごめん。光一の言う通りだ。あたし、ちゃんと謝ってくる……」


 だが、そう言うかなめは落ち込んでいた。どうやら、かなめを救うには後一手足りないらしい。


 光一は頭をポリポリ掻いて唸りはじめたかと思うと、すぐに「おっ」と何かを閃いたらしく、自分の通学リュックから何かを取り出してきた。


「おい。バスケするぞ」


 それはバスケットボールだった。光一が小学校のときからの相棒らしく、部活がオフの日にはわざわざ練習のため学校に持ってきているらしい。


 しかし、なんでったってバスケなんだろう。今やる必要があるのか疑問なのだけれど。

 とはいえ光一はやる気満々で、すでに僕に向かってボールを投げるべく構えていた。


「ほれ。石田。パス」

「うわ。はやっ。現役じゃないんだから、もっと優しくしてよ」


 僕の方に投げられたボールを反射でキャッチする。バスケットボールに触るのは中学生以来なのに、なんだか手によく馴染んだ。


「ほら次。かなめにパスだ」

「えぇ……かなめ、やる?」


 やらないだろうなぁ。そう思いながらも一応聞いてみた。


「……やる」


 だが、かなめは立ち上がり、手をキャッチの形で前に構えた。

 まだ浮かない顔をしているので、別に気持ちが前向きになったとかではないのだろう。


「じゃあ、パス」

「……へっぴり腰すぎでしょ。昔はもっと速かったのに」

「仕方ないだろ。僕は元一般バスケプレイヤーだ。引退した元プロみたいなこと求められても困る」

「そこまで言ってない、しっ」


 ボールはかなめから光一へ。かなめはバレー選手なのに、多分僕よりバスケットボールの扱いが上手い。これが一年以上の差か。


「よし。じゃあ次は―――」


 そのあと、一対二で簡単な試合をして二人がかりで光一を相手した。もちろん勝てなかった。光一は以前よりもさらに上手くなっていた。


 後は、ネットで調べたバスケットボールを使った遊びなんかもやってみたりした。大して面白そうな遊びではなかったけど、僕も光一も、かなめも笑っていた。


 気が付けば日が暮れ始めていた。二時間くらい遊んでいたらしい。

 そろそろ帰るかというとき、光一が言った。


「またやろうぜ。いつでもな」


 そのとき、僕はなぜ光一がバスケをしたのかがわかった気がした。

 あのころみたいな、なんでもない時間を過ごすために。

 変わらない居場所があることを、かなめに示すために。

 僕たちはバスケをしたのだろう。


「うん。またやろう。三人で」


 僕もかなめの目を見て言った。最後の部分は少し強調して、それが伝わるように。

 その言葉を受け取ったかなめは、大きく深呼吸をすると、突然パチンッと自分の頬を叩いた。


「――よし。絶対だよ⁉ 今度はバレーね!」


 昔みたいな人懐っこい笑みでそう答えた。

 光一の答えは、正解だったらしい。

 僕じゃだめだった。光一じゃないとだめだった。


 僕もこいつみたいになりたいと、改めて思い直した。


「―――ありがと」


 僕たちが背を向けているとき、かなめが誰にも聞こえないように言ったのが偶然聞こえた。


 その感謝がどちらに向けられたものであるのか、僕は勝手に光一に向けてだと解釈した。

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