女神ソラリス vs 精霊リーナス ―データセンターダンジョン戦記
※本作はフィクションです。実在のOSや人物とは関係ありません。
データセンターダンジョン編
女神ソラリス vs 精霊リーナス
なぜか――精霊リーナスは、あの一件以来、俺たちの味方をしてくれるようになった。
カーネルに宿る精霊でありながら、ときに厳しく説教を飛ばすが、その力は絶対的だ。
正直、俺たちのパーティがここまで生き延びられたのは、リーナスがいたからに他ならない。
今日もまた、俺たちはデータセンターダンジョンに潜っていた。
今日の依頼は単純。古びたラックからサーバを撤収し、
埃をかぶった筐体を次々と運び出すだけのはずだった。
「おい、こっちは Pentium Ⅲ 世代だぞ。まだ動いてやがる」
「UltraSPARC だ! ……いや、マジで重すぎる!」
いつものように騒ぎながら、俺たちは配線を外していた。
だがそのとき――
冷却ファンの唸りが急に高鳴り、
空調ダクトから黄金の光が溢れ出した。
「……な、なんだ……?」
次の瞬間、ラックの奥から彼女は現れた。
女神ソラリスの降臨
光に包まれて降臨したのは、黄金の装束を纏った美しい女神。
その姿は神々しく、息を呑むほどの輝きを放っていた。
「我が名は――ソラリス。
太陽に祝福されし、古き安定の女神」
透き通るような声は甘美で、しかし冷酷さを孕んでいた。
「汝ら凡俗に真の安定を示そう。
LD_LIBRARY_PATH の迷宮!」
女神が手をかざすと、漆黒の鎖が天井から降り注ぎ、
無数の依存ライブラリが霧のようにパーティを絡め取る。
「わ、わけわからんエラーだ!」
「libc.so.1 が足りないって!? ふざけんな!」
「libX11.so が見つからねぇええ!」
勇者たちは必死に叫ぶ。だが女神は余裕の笑みを浮かべたままだ。
精霊リーナスの登場
「……くだらんな」
漆黒の鎖を踏み越え、ひとりの影が歩み出る。
黒髪を揺らし、鋭い眼光で女神を睨み据える男。
カーネル精霊リーナス。
「お前の安定は死んだ化石だ。
進化を拒む美など、無意味」
剣を抜き、声を張り上げる。
「ldd check!」
閃光が走り、鎖に隠された依存が一つ一つ暴かれていく。
「さらに――ldconfig resolve!」
システムキャッシュが更新され、迷宮は一瞬で霧散した。
バトルの激化
女神の瞳が細まり、怒りを宿す。
「ならばこれを喰らえ! pkgadd の虚妄!」
床から無数の“SUCCESS”ログが湧き上がり、
勇者たちの身体を覆い尽くす。
「おい! 成功って出たのにどこにもインストールされてねぇぞ!」
「/opt/sfw か? /usr/local か? どっちなんだよ!」
女神は高らかに笑う。
だがリーナスは冷笑を浮かべ、剣を振る。
「その幻影、俺の apt-get install で一掃だ!」
光の刃が走り、虚妄のログは粉々に砕け散った。
最終奥義
女神は両腕を天に掲げ、絶叫する。
「ならば我が真の力を見よ!
SPARCvector Intrinsics!」
黄金の柱が立ち上がり、無限のレジスタウィンドウが次々と生成される。
trap の渦が吹き荒れ、サーバールームは灼熱の太陽炉と化した。
「う、うわぁあああ! これじゃ全滅だ!」
「俺たち、焼き切られるぞ!」
勇者たちが絶望しかけたその時――
リーナスが一歩前に進み出る。
「その美学は trap の牢獄だ!
くらえ――system call slash!」
正統な system call の刃が光となり、
SPARC の黄金を真っ二つに切り裂いた。
決着
轟音が響き渡り、まるで kernel panic のような閃光がサーバールーム全体を包む。
女神ソラリスの身体が崩れ落ちる。
その顔はなお美しかった。
「なぜ……美しかった scheduler が……
なぜ Linux に……」
リーナスは冷徹に剣を突き立て、言い放つ。
「美は保存できない。
美は fork され、patch され、merge される。
進化を拒んだお前に、未来はない」
黄金の女神は光の粒子となって砕け散り、静かに消え去った。
エピローグ
静寂が戻る。
ただ冷却ファンの低音だけが響いていた。
勇者たちは呆然と立ち尽くす。
「……なに言ってるか全然わかんなかったけど」
「とにかく、とんでもねぇ戦いだったってことだけはわかる!」
「女神……美しかったな……」
こうして――
女神ソラリス vs 精霊リーナスの戦いは幕を閉じ、
データセンターダンジョンに新たな伝説が刻まれた。