サーベル登場
セリアたちは王都ザラームへと戻っていた。
報告を受けたサイファーン王は、南部村の惨状と副官カシーム討伐の功績を正式に認め、セリアとグリに再び礼を述べた。
だが、その表情は以前よりも険しい。
「……烈砂のサーベル本人が動き出した可能性が高い。王都を守る防衛線を強化しなくてはなるまい。」
玉座の間で王が静かに告げると、ラシードが一歩前へ出た。
「陛下、私より提案がございます。 神獣様とセリア殿を危険な最前線に立たせるのではなく、逆にサーベルを誘い出す陽動部隊として彼らを囮に——」
「ちょっと待って!? 私たちを囮に!?」
「……合理的ではあるが、あまりにも危険だ。」
サイファーン王は腕を組み、深くうなずいた。
「しかし、奴と戦う覚悟があるというのなら……手を貸そう。 サーベルが目をつけるとすれば、恐らく——西の神殿跡。 そこはかつて、この地に神々を祀っていた場所。そして……神獣伝承の残る唯一の地だ。」
「神獣伝承……」
セリアはグリの頭を見つめた。
「そこに行けば……何か、分かるかもしれないんですね?」
王はうなずいた。
「本来であれば、伝承の地を訪れるのは聖職者の役目だ。 だが、今は非常時。おぬしたちに託そう。」
セリアは小さく頷き、グリに目配せをした。
「行こう、神獣様……そこが、たぶん……決戦の地になる。」
「イコウ!」
こうして、彼らの次なる目的地は——
バルハッド西部に眠る、忘れられた神殿跡に決まった。
数日後。
セリアとグリ、そして護衛として同行するラシードは、ラクダの背に揺られながら砂漠の西へと進んでいた。
太陽は容赦なく照りつけ、熱風が砂粒を巻き上げる。
だが、不思議なことに—— その道のりは、どこか静かすぎた。
「……変だな。ここ数日は盗賊や魔物の姿すらない。」
ラシードが周囲を見回しながら呟く。
「神獣様が一緒だから、避けてるとか……?」
「ヨケテル?」
「……それならいいけど、なんか、嫌な予感するんだよね……」
セリアがつぶやいたその時だった。
——地鳴り。
砂の海が揺れた。
「っ……!? この音……!」
ラシードが咄嗟に前へ出て、剣の柄に手をかける。
次の瞬間。 砂の地面が爆ぜ、舞い上がった砂塵の中から、
赤い布を纏い、黄金の曲刀を携えた男が現れた。
「……ようやく会えたな、神獣よ。」
その声音は、灼けた岩のように乾き、鋭かった。
「……烈砂のサーベル……!」
セリアが声を詰まらせる。
男はゆっくりと砂の上を歩き出しながら、薄く笑った。
「この砂漠に、神などいらぬ。神を崇める民も、使いも、すべて潰す。」
砂漠の風が吹き抜ける。 灼熱の地で、最後の戦いが——始まろうとしていた。