表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

セリアの戦い

 陽が傾きかけた頃、セリアとグリは城の方角から遣いに来た兵士に案内され、王宮の一室へと招かれていた。

 天井の高い白砂岩の広間。天窓から差し込む光が床の紋様を照らし、どこか神聖な空気すら感じさせる。

 その奥に、バルハッドの王——サイファーン王が座していた。

 長く伸ばした金糸のような髭、褐色の肌に鮮やかな青と金の衣。  鋭い目をしながらも、どこか穏やかさを感じさせる風貌だった。

「遠き地より、よくぞ我が国へ。神獣様、そしてその導き手、セリア殿。」

「は、はいっ! こちらこそ、お招きありがとうございますっ!」

 セリアは緊張した面持ちで一礼し、グリは「ヨロシクオネガイシマス!」と張り切って返した。

 サイファーン王は微笑みながら頷く。

「……この地にも、神獣の噂は届いておる。しかし、民の信仰が薄れた我が国では、そなたらの存在に懐疑の声も多い。」

「え、えっと……やっぱり、そうですよね……」

「だが、我が目には確かに映っておる。この鳥に宿る気配、尋常ではない。」

「チョウジョウデハナイ!」

「そうとも、尋常ではないな……ふっ……」

 王の笑みに、部屋の空気がわずかに和らぐ。

 しかしその直後——

 扉が勢いよく開かれ、重装備の兵士が駆け込んできた。

「陛下! 砂漠の南部交易路が襲撃されました! 村が……全滅したとの報告が……!」

「なに……!?」

 サイファーン王の表情が険しくなる。

 セリアとグリも顔を見合わせた。

(やっぱり……来てる。魔王軍が……!)

 烈砂のサーベルの影が、ゆっくりと——確かに、近づきつつあった。


 王の勅命を受け、セリアとグリはバルハッド軍の先遣隊に同行する形で、襲撃されたという南部交易路の村へと向かっていた。

 旅に同行したのは、王国軍の若き副官・ラシード。  褐色の肌に鋭い目、寡黙ながらも冷静な判断力を持つ男だった。

「……ここが、例の村だ。」

 ラクダの背に揺られながら、ラシードが指を差す。  セリアとグリが見下ろした先に広がっていたのは——

 焼け焦げた建物の残骸。  崩れた井戸。黒く炭化した地面。  そして、静まり返った“無人の村”だった。

「……こんな、ひどい……」

「ヒドイ……」

 セリアは声を震わせながら地に降り、辺りを見回す。  だが、人の気配はどこにもない。

 ラシードはひざをつき、地面に残された足跡や痕跡を丹念に調べていた。

「……この斬撃痕、曲刀の使い手か。それも……尋常な速さではない。」

「まさか……それって……」

「おそらく……烈砂のサーベルの仕業だろう。」

 その名が口にされた瞬間、空気が凍りついた。

 セリアはグリを見つめ、そっと拳を握る。

「……逃げられない、よね。今度ばかりは。」

「ガンバロウ!」

「……うん」

 風が砂を巻き上げる中、グリの瞳に映ったのは——

 瓦礫の陰からこちらを見つめる、ひとつの鋭い視線だった。

 その正体はまだ分からない。  だが確かに、“次の戦い”はすぐそこまで来ていた。


 その視線に気づいたのは、グリだった。

「アブナイ……!」

 叫ぶと同時に、グリはセリアの頭上を旋回する。

 その瞬間、瓦礫の影から矢が放たれた。

「っ!?」

 セリアがとっさにしゃがみ込む。  矢はすんでのところで彼女の肩先を掠め、砂地に突き刺さった。

 続けて、数人の黒装束の刺客が瓦礫の間から姿を現す。

 その中には、赤布を巻いた男もいた。  鋭い眼光と、腰に下げられた砂色の曲刀。

「……あれが、烈砂のサーベルの私兵か……」

 ラシードが剣を抜き、低く構える。

「セリア殿、神獣様、下がっていてください。ここは我々が……」

 だが、セリアは一歩も退かなかった。

「いいえ、私たちも戦います。ここで逃げたら、また同じことが起きるだけです!」

「マケナイ!」

 セリアは杖を構え、魔法陣を描き始める。

「雷鎖・雷裂陣らいさ・らいれつじん!」

 数本の稲妻が地を這い、襲撃者たちの足元を弾いた。  敵のうち二人が悲鳴を上げて吹き飛ぶ。

「やるな……!」

 ラシードもその隙に斬り込む。

 グリは空からホバリングしつつ、「アトダマ!」と叫びながら、敵の頭上をかすめ飛んだ。

「な、なんだこの鳥は!?」

「神獣様、今っ!!」

「フエ!」

 グリが軽やかにホバリングし、セリアの視線が一点を貫く。

「火焔・収束陣かえん・しゅうそくじん!」

 火球が集中し、残りの敵を一掃した。

 煙が上がる中、ラシードが息を整えつつ、地に崩れた男の顔を確認する。

「……こいつは……烈砂のサーベルの副官、カシームか……」

 セリアは杖を握る手をぎゅっと固く握りしめた。

「次は……本物が来るってことよね……」

 夕陽が、砂漠の空に赤く染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ