砂漠の国へ到着
灼熱の陽射しの中、セリアとグリはようやく都市の門へとたどり着いた。
バルハッド王都・ザラーム。
砂岩で築かれた巨大な城壁と、金色に輝く塔がそびえ立ち、周囲には騎士たちが警戒の目を光らせている。
「おおおおおお! すごい……これがバルハッド……!」
セリアは目を輝かせながら感嘆の声を上げ、グリは「スゴイ!」と羽ばたいた。
門番の兵士たちがこちらを見て警戒する。
「そこの者、名を名乗れ。旅人か?」
「えっと、私はセリア・フォルト。召喚士見習いで、こちらが……神獣様です!」
「カミジュウサマ!」
グリが胸を張って羽を広げると、周囲の兵士たちがどよめいた。
「まさか、本当に……?」「神獣がこの地に……?」
一人の兵士が駆け出していき、やがて街の奥から上官らしき男が現れる。
「お初にお目にかかります、神獣様。そしてその使いの方……バルハッド王国は、あなた方の訪問を歓迎します。」
「か、かんげいされてる……!?」
セリアは驚きつつも少し誇らしげにグリを見上げた。
「やっぱり神獣様ってすごいなぁ……」
「スゴイナァ……!」
城門が開かれ、二人は王都ザラームへと足を踏み入れる。
しかしこのとき、彼らはまだ知らなかった。
この地に潜む魔王軍幹部《烈砂のサーベル》が、すでにその存在に気づき—— そして、静かに牙を研いでいることを。
ザラームの街は、熱気と喧騒に包まれていた。
石畳の道の両脇には、カラフルなテントと露店がずらりと並び、果物、香辛料、絨毯、異国の楽器などが所狭しと売られている。
「うわあ、見て見て神獣様! あれ、スイカみたいな果物! こっちはラクダの……串焼き!? ええっ!? なにこれ、すごい……!」
「スゴイ……!」
セリアは目を輝かせて屋台を巡り、グリは肩にとまってキョロキョロと首を振っている。
人々は彼らの姿を見てざわめきつつも、遠巻きに見守るばかりだった。
その様子に、セリアは少しだけ違和感を覚える。
「……なんだろ。歓迎されてる……ようで、ちょっと距離あるような……?」
「チョット、ヘン?」
「うーん……ま、いっか! 食べ歩きしよ!」
陽気にそう言いながら、セリアは肉串を頬張る。
だがその頃、王都の外れ——砂岩で築かれた古びた砦の奥にて。
「……来たか、神獣とやらが。」
灼熱の空気の中、ひときわ鋭い殺気を放つ男がいた。 全身に巻いた赤い布と、腰に下げた曲刀。瞳は砂金のように輝き、その笑みは鋭く乾いている。
烈砂のサーベル。
魔王軍の幹部にして、砂漠を血と炎で焼き尽くす存在。
「この地に神獣など不要……砂漠に神など、いらぬ。俺がすべてを支配する。」
男の声に呼応するように、周囲にいた配下の盗賊たちが低く唸った。
そして、バルハッドの砂は——再び、血の香りを孕み始めていた。