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第6話 2人でお買い物って楽しいね!

「え、待って……広すぎない!?」


 目の前にそびえ立つ千葉パルコを見上げながら私はそう呟いた。

 入口の大きなガラス扉、その奥にはお洒落なショップやブランドのバッグたちがずらりと並んでいる。


「ほんとに全部服屋さんなの!?テーマパークじゃん……!」


「ふふ、大袈裟だよ。服屋だけじゃなくて本屋さんとかレストランも入ってるから」


 隣で笑う由香莉さんは、そんな私の反応を楽しんでいる。


「すごい!なんか……津田沼パルコとは全然ちがう……」


 そう、津田沼にもパルコはあるけど、あちらは三階建の小さな建物だ。それと比べると千葉パルコは高さも広さも、そしてお店の数も津田沼パルコの倍ぐらいあった。大都会千葉、凄い……。


「最初は広くて落ち着かないけど、すぐ慣れるからね」


 由香莉さんは優しく笑って、そっと私の手を引く。その手に私の冷や汗がついていないか、心配になる。


「まずはエレベーターで上に行ってみよ?好きそうなお店、案内するから」


「え、ちょっと待って、心の準備が……!」


「大丈夫、私がついてるから」


 そう言って由香莉さんは軽くウインクして、エレベーターへと歩き出した。

 私はどきどきしながらも、その背中を追いかけた。


 エレベーターの数字が次々と変わっていく。五階、六階、七階……。

 故郷の新潟にはこんなに高い建物なんてなかった。せいぜい二階建てのショッピングモールがあるくらい。


「千葉のエレベーター、めっちゃ速い……」


 足元が少しふわっと浮く感じがして、まるで遊園地のアトラクションみたいだった。これ、大丈夫?落ちたりしない?そんなくだらないことを考えていると


「あとちょっとで着くよ」


 隣にいた由香莉さんがクスッと笑う。私の緊張している様子が伝わったのか、小さな声で「大丈夫だよ」と囁いてくれた。


「えへへ、なんかドキドキしちゃって……」


「ふふ、いいお店がたくさんあるから楽しみにしてて」


「う、うん……!」


 エレベーターが「9」の数字を表示し、ふわっとした揺れとともに扉が開いた。目の前には、都会の洗練された空間が広がっていた。


「それで、予算はどれぐらい?」


 エレベーターを降りた瞬間、由香莉さんが振り返って聞いてきた。


「えっと、二万円ぐらい……」


「えっ、二万円?」


 貧乏学生なので本当は一万円以内に抑えたかった。しかし、目の前のお洒落な空間に圧倒されて、私はつい多めの金額を言ってしまった。


「す、少ないかな……?」


「いや……思ったより多くてびっくりした。私、服にそんなお金使ったことないから」


「えっ、そうなの?由香莉さん、いつもお洒落だから、てっきりこれぐらい必要かなって思ったんだけど」


「いやいや、そんなに使わないって!確かにブランド品は高いけど、学生向けの安くて可愛い服もたくさん売ってるから!」


 由香莉さんの明るい言葉に、私は肩の力が抜けた。そっか、正直に答えればいいんだ。


「えっとね……本当は一万円以内には抑えたいんだ……」


 俯きながらそう答えると、由香莉さんは小さくうなずいた。


「じゃあ、トップスと小物とか?それとも、一着で主役になるワンピ?それぐらいなら一万円以内で十分行けそう」


「うーん……せっかくパルコに来たし、ちょっと大人っぽい服に挑戦してみたいかも」


「いいね。じゃあ、あそこのお店行こ!」


 そう言って由香莉さんはすぐ近くの無印良品を指さした。ガラス越しに見えるのは、シンプルだけど洗練されたデザインの服たち。

 私でも知ってる有名なお店だけど、シンプルで着こなしが難しそうなので実際に買い物したことは一度もない。


「無印なら一万円以内でもいい感じのアイテム買えるし、試着もしやすいよ」


 店内に入ると、すぐに可愛いニットが目に入った。


「これ、どうかな?」


 由香莉さんが淡いグレージュのトップスを手に取る。

 凄い、大人っぽい!と私は目を輝かせた。


「スカートは持ってる?」


「高校の制服はスカートだったけど私服では持ってないよ」


「じゃあスカートも一着あるといいよ。朱音ちゃん、Aラインが似合いそう」


「えーらいん?」


「Aラインっていうのはね、上がすっきりしてて、裾に向かってふわっと広がる形のこと」


 由香莉さんはそう言って、店内に飾られたマネキンを指さしながら説明する。


「ほら、これとか。アルファベットの『A』みたいに下に向かって広がってるでしょ?」


「あ、ほんとだ!ウエストがキュッとなってて、下がふわっとしてる!」


「そうそう。だから体のラインを拾いすぎなくて、自然にスタイルがよく見えるの。あと、歩いたときにスカートがふんわり揺れる感じが可愛いんだよね」


「たしかに……なんか、お姉さんっぽい!」


「でしょ?Aラインの服って、学生でも上品にも見えるし、女の子らしさもあるから初心者さんにおすすめなの」


「へぇ~……じゃあ、これも着てみようかな」


 私はそばにあったAラインのスカートを手に取り、そっと胸元に当ててみる。


「試着してみる?」


「うん!」


 そう言って試着室のカーテンを締めた私はワクワクした気持ちで服を抱きしめた。由香莉さんと買い物するのは楽しい。それは、ただ服を買うという行為だけじゃなくて、新しい自分を見つける時間なのかもしれない——そんな気がしていた。


今は亡き千葉パルコ、大好きでした

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