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第3話 ルームシェアってどうなの?

「またやっちゃった……」




 大学から徒歩十分ほどの場所に建っているアパートの一室で私、柳朱音は一人そう呟いた。




『ルームシェアって誰と?』


『えーと……。例えば私、とか ……?』




 言った瞬間、場の空気が凍りつき、目の前の相葉さんが「え……」と固まった。




 私は一瞬で後悔した。




「もう……なんであんなこと言っちゃったの!? どう考えても『遠くて大変だよね』だけでよかったじゃん!!」




 何度も何度も脳内で振り返っては悶え転げたくなる。考えすぎて後悔だけが膨らんでいく。思ったことをすぐ口に出しちゃう自分を、どうにかしたい。




 いつもそうだった。周りからは陽キャと思われているが、実際は思っていることがすぐ口に出てしまうだけで後から『あんなこと言わなきゃよかった!』と激しく後悔するタイプ。きっとまたやらかして、同じように後悔するんだろうなあ……。




 そんなことを思いながら一人ベッドの上でゴロゴロしながら悶えた。ばかばかばか!私の馬鹿!!





 ……………………………………………





 柳さんと北習志野の駅で別れた後、私は解剖実習の打ち上げの場でルームシェアについて友達に聞いてみた。




「ねえ、ルームシェアってどう思う?」


「ルームシェア? 私は普通に嫌だけど」




 苦笑いを浮かべながらそう言ったのは私の友達の山田結衣さん。私と同じく地方から千葉に出てきて近くのアパートで一人暮らしをしている。




「どうして? 家賃や光熱費をシェアすれば一人暮らしより経済的だし、誰かと一緒に住むのって楽しそうじゃない?」




「確かに、費用を分担できるのは大きなメリットだよね。でも、食事の好みや価値観の違いからトラブルが起きることもあるんじゃない?あと、お互いの生活音が気になったりしてストレスになることもあるみたい」




「そうなんだ……。でも、友達とならそんなに気にならないんじゃない?」




 結衣は首を横に振る。




「うーん……友達だからこそかな。お互いの嫌なところが見えてくるといろいろ辛いと思うよ。お金の管理や家事の分担とか事前にしっかりルールを決めておかないと、関係がぎくしゃくするって聞いたこともあるし……」




 そんな話を聞いて、私は考え込むように視線を落とした。




「何?朱音、誰かルームシェアしたい人がいるの?」




「いや……単純に生活費が半分になったらいいよね、ぐらいしか考えてなかった……」




 もちろん相葉さんの通学が二時間もかかって大変だから大学の近くに住んで通えたらいいよね、という気持ちもあったけど、真っ先に思い浮かんだのは我が家のお金のことだった。何せこちとら実家が細くて奨学金を借りて何とかギリギリ生活している貧乏苦学生だから。




「もちろん、上手くいってる人たちもたくさんいるし、朱音が本当にやりたいなら応援するよ。私は一人暮らし最高!って思ってるから誰かとルームシェアなんて考えられないけどね〜」




「そっか……。そんな現実もあるんだね」






 ………………………………………………





 自己嫌悪の海に溺れてどれくらいの時間が経っただろうか。ふと携帯電話を見ると相葉さんからメッセージが届いていた。




「今日は実習中に具合悪くなっちゃってごめんなさい。柳さんが助けてくれて嬉しかったよ。色々と迷惑かけちゃうかもしれないけど、その時はまたよろしくお願いします」




 ずいぶんと丁寧なメッセージだ。こうやって律儀にお礼を言ってくるところから彼女の育ちの良さが垣間見える。本人から直接聞いた訳ではないが、相葉さんは医者の家系で両親とも地元では有名な開業医という噂を耳にしたことがある。


 それはさておき、相葉さんからルームシェアの話題が出なかったことに私は安堵した。結衣との話でそんなに気軽に提案できるものではないと分かったからだ。なので私も何事もなかったかのように返信した。




「いえいえ、困った時はお互い様!これからもよろしくね(^o^)」




 そうだ!ついでに千葉で遊ぶも決めておこう。




「千葉駅に遊びに行くの、今度の日曜日でいいかな?」




 待つこと数分、柳さんからの返事がきた。




「いいよ。楽しみにしてるね(^o^)」




 どうしてだろう、顔が凄くニヤニヤしてしまう。メッセージに顔文字が入っているからだろうか。


 いや、おそらく顔文字がなくてもニヤニヤしている気がする……。




 一人暮らしは孤独だ。たまに実家に電話することもあるけど基本的には誰とも話すことなく黙々と一人で大学の予習復習と課題に追われている。結衣は一人暮らし最高!って言ってたけど私にはそうは思えない。そりゃ最初は私も一人最高!って思ってたけど一ヶ月もすると一人の生活に飽きてくるし、夜になると急に静かで、話し相手もいなくて、ふとした瞬間にどうしようもないくらい寂しくなる。




 相葉さんからのメッセージをもう一度見る。すると、いつの間にかさっきまでの寂しさが消えていて心の中にじんわりと温かいものが広がってくる。画面に映っている文字はさっきと何も変わらないのに、その温もりを求めて私は何回も何回も繰り返しメッセージを読んだ。




『まあ、一番大事なのは価値観が合うかどうかだよね。価値観の合わない人と一緒に暮らしても辛いだけでしょ?』




 打ち上げの場で結衣がそう言ってたことをふと思い出した。


 価値観……相葉さんはどんな価値観を持っているんだろう?




「もっと知りたいな、相葉さんのこと……」




 そう呟いて、携帯電話を抱きながら私は眠りについた。

一人暮らしの夜は寂しかったですね。そしてメールが来ると嬉しかった……

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