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第12話 生薬、落としました

 大学から送られてきた成績表を見た瞬間、私は頭を抱えた。


 得意な生物化学は難なくクリア。苦手なドイツ語や分析化学も、なんとか踏ん張って乗り越えた。


 生薬学がダメだった。


 基礎の生薬名、成分、効能はひたすら覚えた。でも、まさか構造式まで問われるなんて思わなかった。試験中、白紙のままの解答欄を見つめながら絶望したのを、今でもはっきりと思い出せる。


「……とりあえず誰かに連絡しないと。ひとりじゃ耐えられないよ……」


 こんなとき、一番に浮かんだのは由香莉さんだった。あんなに一緒に勉強したのに申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、それ以上に今は由香莉さんの声を聞きたかった。


 ——由香莉さん、今電話してもいい?


 震えそうな手でそうメールを送ると、数分後、電話鳴った。


「はい、柳です」

「あ、朱音ちゃん? 相葉だよ。どうしたの? 何かあった?」


 久しぶりに聞く声。電話越しでも、本気で心配してくれているのが伝わってくる。それだけで、涙がこぼれそうになった。これが、年上の包容力ってやつだろうか。


「うう、生薬学の試験、落ちちゃった……。せっかく由香莉さんがいろいろ教えてくれたのに、ごめん……」

「うんうん、辛いよね。私も受験で失敗したことあるから、よくわかるよ。……体調は大丈夫?」


 優しい声。包み込むような響き。その一言だけで、張り詰めていたものがほどけそうになる。


「大丈夫! ……と言いたいけど、正直めちゃくちゃ落ち込んでる。再試験で受かればいいってわかってるんだけど、不安で泣きそう……」

「そうだよね……不安だよね」


 電話の向こうで、ふっと息をつく気配がした。そして、少しの間のあと、まっすぐな声が届く。


「ねえ、朱音ちゃん。明日、おうち行ってもいい? ひとりだと辛いと思うし、一緒に勉強しよ?」

「えっ、本当に? いいの!? 助かる!もう、正直、人生終わったかもって思ってた……」

「大丈夫、大丈夫。頑張れば絶対に再試験合格できるよ。私、朱音ちゃんと一緒に卒業したいから、ね。お手伝いさせてね?」

「由香莉さん……ありがとう……!大好き! 」

「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しい。じゃあ、また明日ね」


 電話を切ったあと、あれだけ重たかった心がふっと軽くなるのを感じた。

 由香莉さんが、私と一緒に卒業したいと言ってくれる。その言葉が私の背中をそっと押してくれる。

 再試験、絶対に合格してみせる。新しい決意を胸に、私はそっと目を閉じた。



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