EPISODE6、初めての依頼
山の入り口に近づくと、辺りは次第に静けさを増し、森の奥深くからは鳥のさえずりと木々のざわめきが微かに聞こえてきた。
ストリアとネイフェンは、しっかりと地図を確認しながら自分たちの進むべき道を決める。
「ここからは慎重にね」
ストリアが声を掛け、ネイフェンも気を引き締める。
「うん、まずは手がかりを探そう!」
二人はそれぞれの役割を心に刻み、険しい山道を進み始めた。
ストリアが前衛で索敵の役割を果たし、咄嗟の攻撃に対処出来るようにネイフェンは、やや後衛だ。
足元の小石が転がる音や、風が木々を揺らす音に耳を澄ませつつ、周囲の景色を見渡す。
「なるほど。やっぱりおかしいね」
ストリアは疑惑を確信に変えていた。
「何が?」
ネイフェンが尋ねると、ストリアは土を少量を掴み取り手渡した。
「土がどうかした?」
「何か感じない?」
ストリアの問いにネイフェンも気付いたようだ。
「おかしいね!」
「魔力を感知してみると、殆ど汚染された形跡がない。魔物が住み着いているなら、もう少し汚染されてるはずだよね」
人界に魔物が住み着くと、糞や滲み出る魔力によって汚染化が進む。
討伐の後は、聖職者や勇者の血統が土地を訪れ浄化する作業が必要となる。
「罠…かぁ…」
ストリアがその可能性を念頭に置いて、一旦地図を確認する。
進むべき道を決め、罠に警戒しつつ先へ進もうとしたが深い溜め息を零した。
「先に進む必要はないみたい」
ストリアの言葉にネイフェンも肩を竦め、「だね」と答えた。
「もうバレてるから出て来なよ」
視線の先の大木。
そこから現れたのは、にこにことした表情を浮かべる男。
男は2人に武器や防具を勧めて来た店主だった。
「勘の良い奴め。よく見破ったな」
店主は、軽く拍手をしながらストリアを褒め讃えるがストリアは眉間に皺を寄せていた。
「山に入る前から、いつ仕掛けて来るのかは頭にあったけど、こうも簡単に出て来るなんて…。それに貴方は詳し過ぎるよね」
ストリアが店主とのやり取りを口にする。
「山に行くなんて言ってないのに、山の中の装備を勧めて来るなんてさ」
ストリアはその言葉を聞いた時から疑問を感じていた。
そして疑問は確信へと変わる。
「それに気付いていながら、ノコノコやって来るなんて馬鹿だろ!それとも間抜けかぁ?」
店主の態度は豹変し、舌をベロリと出し、短剣を舐める。
「目的は知らないけど、後でゆっくりと聞くとするよ」
ストリアが短剣に手を掛けると、腕に針が突き刺さっていた。
「この攻撃は見えまい!それは痺れ針!!指一本さえ動かせないだろ!!」
ストリアの痺れを感じ、腕がだらりと下がる。
「お子様は…ここで死んでいけ!」
ストリアは眉をピクリと動かすと金色の光が辺りを照らす。
光は木々を突き抜けた後、ストリアの体に収束する。
「これだから…無知は困るんだよね。特にテメェみたいなクズにお子様呼ばわりされっと虫酸が走るんだよ」
ストリアのおでこに青い筋。
ブチ切れている。
丁寧な口調から荒々しい口調へと変わり、せっかく購入した短剣を投げ捨てていた。
「聖職者か!?なら…、お前らやっちまえ!」
男の合図で仲間と思われる黒装束纏う男達が一斉に飛び出して来た。
聖職者であれば、接近戦を苦手とする。
有利であると判断したのだ。
次の瞬間ーー。
ストリア達を包むのは、金色の結界。
飛び掛って来た男達は重圧に耐え切れず、弾き飛ばされてしまっていた。
ブチ切れたストリアの様子を察し、ネイフェンは暗黒の結界で身を包んでいる。
脈々と受け継がれて来た聖なる魔力は、直で浴びれば流石にダメージを受けてしまうからだ。
「てめぇらの過ちは私をお子様呼ばわりした事だ。しっかりと身体に刻め…」
ストリアは狂気じみた笑み浮かべている。
勇者の末裔とは思えない。
最早、悪党のような表情だ。
「聖なる光よ、我が身を廻れ…」
ストリアが左手を地面に向け詠唱を始めると、金色の光が収束していく。
さらに、枯れ草や既に尽きていたであろう木さえも命を吹き返す。
目の前で起きる現象に恐怖を覚えた襲撃者は一目散に逃げ出した。
しかし、それを逃すストリアではない。
形成されつつあった聖剣の柄を無理矢理掴み取り斬り払う。
放たれた光波が襲撃者を光の渦へと叩き落とした。
「馬鹿め」
ストリアは言葉を吐き捨てた。