EPISODE3、いざ、職業登録へ!
ストリアは突き付けられた依頼書をじっくりと見つめ、その内容に思わず眉をひそめた。
「『山奥で消えた子供を捜せ』…か。さっきよりは大丈夫そうな依頼だけど…」
少し不安な表情を浮かべながら言った。
土地勘がない山の奥深くには、どんな魔物が潜んでいるか分からない。
無邪気な冒険心だけでは乗り越えられない危険が待ち受けているのだ。
それに子供が生きている可能性が低い。
「助けられるかもしれないよ!」
ネイフェンは目を輝かせながら返した。
「もしわたしたちが見つけてあげたら、その子はとても喜ぶはずだし、その家族だって喜ぶと思うよ!」
ストリアはその言葉に心を動かされると同時に、ネイフェンの無邪気さに少し笑みを浮かべた。
「そうだね、確かに助けられる命があるなら助けるべきだね。でも、まずは準備が必要だよ。急いで装備も整えよう」
自分たちの安全を考えながら答える。
「うん、分かった!でも準備って何が必要になるんだろ?」
ネイフェンは頷き、依頼内容をさらに詳しく確認するためストリアにくっ付く。
「じゃあ、まずは受付に戻ってこの依頼を受けよう。必要な情報をしっかり聞いて、どう動くか考えよう」
と提案した。
二人は掲示板を離れ、再び受付へと向かった。
受付に戻ると、先ほどの優しい受付係が笑顔で二人を迎え入れた。
「いらっしゃいませ。依頼は決まりましたか?」
と尋ねる。
「はい、山奥で消えた子供を捜す依頼を受けたい!!」
ネイフェンは元気よく答えた。
瞳には期待と好奇心が宿り、周囲の不安を微塵も感じさせなかった。
ストリアは少し緊張した面持ちで続けた。
「ただ、私たちにはまだ経験が少ない…というかないので、必要な情報や準備について教えていただけないでしょうか…?」
受付係は優しく頷き、「もちろんです。まず、その依頼の詳細をお話ししますね」と言いながら、依頼書の内容を確認する。
彼女の指先が紙をなぞりながら、重要なポイントを説明していく。
「この子供は昨日、山の近くで遊んでいるときに行方不明になったそうです。それも、一瞬で」
「一瞬で…ですか?」
ストリアの不安が高まる。
「目に見えないほど高速移動する魔物の可能性が高いですね。さらに気を付けないといけないのは山の奥へ進むにつれて魔物も強力になりますし夜に活動するのも危険ですね」
ネイフェンはその言葉に真剣に耳を傾け、ストリアは心の中で計画を練り始めた。
「私たちは昼間に行動し、できるだけ早く子供を見つけることが大切だね」
ストリアはつぶやく。
「他に必要な道具はありますか?」
ストリアは具体的な質問を続ける。
慎重に計画を頭の中で練っていく。
受付係は微笑む。
「もちろんです。まずは、必要な道具を揃えることが重要ですね。食料、水、そしていざという時のための武器や防具を用意してください。特に、道に迷わないようにするための地図やコンパスも忘れずに」
と説明した。
「あ…、あと、参考までにお聞きしたいのですが仲間を募集するにはどうしたらいいですか?」
「募集するのでしたら、冒険者としての適正職を決めてもらう必要があります」
受付係は水晶のような物を2人の前に取り出す。
「こちらに手を差し出して頂くと計測しますのでオススメの職業を紹介できます。既に計測しているのなら追加登録しておきますよ?」
水晶を前にストリアが眉間に皺を寄せる。
頭の中に過るのは、
目立たずに行動するか。
それとも目を引くものにするか。
この二択だった。
目立たずに行動したとして、難易度の高い依頼を受けた場合、手を貸してくれる冒険者が見付からない可能性がある。
それを考慮すれば、ある程度には目を引く職業にしておいた方がいい。
出した結論は…。
「なら私が戦士でネイは魔剣使いで登録して下さい」
「は、はぁ。戦士は分かりましたが、魔剣使い…ですか?」
「…何か不都合でも?」
「い、いえ!魔剣使いともなれば、上級職となりますので証明して頂かないと…」
すると、ストリアは受付係に迫る。
「本当に証明が必要ですか?」
「え、ええ…」
「本当に?」
血走った目を向ける。
「はい…」
鬼気迫るストリアに受付係が目を逸らす。
鬼気迫るのには理由がある。
2人は血統のせいか、数値の類いを正確に数値化出来ないのだ。
ある程度、整合性が合う職業にしておかなければ仲間が出来た時の連携に支障が出る。
証明が必要となるなら、ネイフェンの【アレ】を出さなければならない。
「仕方ないですね…。ネイ【アレ】出して」
「え?いいの?」
「証明が必要らしいから…」
「うん分かった」
再び、冒険者達の注目を浴びる。
「おい、さっきの嬢ちゃんの1人が魔剣使いだってよ!」
「マジか!!」
驚きと興奮と共に視線は釘付けだ。
ネイは右手を開き地面に向けた。
「闇の深淵より、汝の力をここに示せ。禁断の名を、混沌の音色と共に打ち鳴らせ…」
すると、右手が禍々しく輝き、空間が歪むと同時に冒険者協会自体が揺れる。
「かの者よ…今ここに集い恐怖と絶望を与えよ」
空間が開き、剥き出しの牙が顕になり、暴風が吹き荒れ、机も食器も何もかもが吹き飛ばされる。
飛ばされまいと物にしがみつく冒険者も何人か吹き飛ばしてしまう。
「我が意志のままに…顕現せよッ!!」
詠唱を終えると爆風が吹き荒れ、剥き出しの牙で形成されたこの世のものとは思えない大剣がネイフェンの右手に顕現する。
「グギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
大剣が雄叫びを上げる。
その大剣は生き物のように脈打ち、息を吐き出していた。
魔剣【暴王の牙】。
かつての大魔王が退屈しのぎに製作したとされる魔剣の1つ。
「あ…」
「これで証明なったの?」
「いや…そうなんだけど…さ」
言いにくそうにストリアが周囲を指さす。
「耳塞いだ方がいいって言うの忘れた」
冒険者の殆どが絶叫を聞いたせいか、気を失っている。
絶叫には相手の意識を苅り取る効果があり、口を開けば武器ごと貪り食うという魔剣。
使い所はやはり重要だ。
受付係は心の中で強く思う。
「絶対職業間違ってる!!」
…と。