EPISODE1、いざ、冒険者協会へ!
ストリアとネイフェンは、朝の光が差し込む自室を出て、外の世界へと踏み出した。
晴れ渡る青空は、まるで無限の可能性を秘めたキャンバスのように広がり、青い絵の具で塗りつぶされたかのように澄み渡っている。
心地よい風が二人の髪を優しく揺らし、まるで彼女たちの新たな冒険を祝福しているかのようだった。
都市の入口に立つと、目の前に広がるのは、異国の文化が交じり合った活気ある場所だった。
色とりどりの屋台が立ち並び、そこから漂う香ばしい香りが食欲を刺激する。
新鮮な果物が太陽の光を浴びて輝き、香辛料の強烈な香りが鼻をくすぐり、通行人を引き寄せていた。行商人たちが元気よく声を張り上げ、彼らの間を行き交う人々は、笑顔を交えながら交易を楽しんでいる様子だった。
まるでこの街全体が生きているかのように、活気で溢れていた。
「冒険者登録って何処でするんだ?」
と、ネイフェンはクッキーをポリポリと頬張りながら首を傾げながら無邪気な笑顔を浮かべ、その表情には、冒険への期待があった。
「人を急かしておいて分からないなんて…。それに、クッキー零してるじゃない」
ストリアは微笑みながらも呆れた様子で、懐からハンカチを取り出し、ネイフェンの口元を拭く。
彼女の優しい仕草は、まるで小さな妹を見守る姉のようで、二人の関係の深さを感じさせる。
【冒険者】という職業は、今や誰もが憧れる存在となっている。
魔族とは和解しているとはいえ、郊外には魔物が跋扈しており、人類も魔族も襲われる危険が常に存在する。
討伐の依頼は尽きることなく、報奨金も多岐にわたり、特に、あの大戦争が終結した後に出現した数々のダンジョンには未知なる財宝が眠っているという噂が広まり、国が総出で攻略することもあれば、個人の冒険者たちが挑むこともある。
冒険好きの二人がこの職業に魅了されるのは当然だった。
「冒険者協会に行かなきゃ登録できないでしょ。早く行きましょ」
ストリアは半ば呆れながらも、ネイフェンの手を優しく引き、冒険者協会へと向かった。
協会の扉を開けると、彼女たちを迎えたのは、賑やかな雰囲気の中で交わされる多様な会話。
依頼を受けるカウンターの後ろには、経験豊富な受付係がいて、その直ぐそばには酒場が広がっている。
中には、顔に傷を持つ冒険者や、剣を担いだ無骨な男たちが集まり、笑い声や酒を飲む音が響いていた。
初心者丸出しの二人は、特に目立っていた。装備もなく丸腰で、まるで小鳥が猛禽類に囲まれているかのような緊張感が漂っていた。
そんな視線を気にせず、二人は受付係の前に立ち声を掛けた。
担当してくれたのは、金髪でスレンダーな体型の女性で、彼女は二人に優しく微笑みかけた。その笑顔には、温かさと安心感が宿っている。
「ご用件をお伺い致します」
彼女の声は柔らかく、まるで春の陽だまりのようだった。
「えっと…冒険者登録したいのですが」
ストリアが少し緊張しながら話すと、受付係は机から1枚の用紙を取り出し、二人に差し出しながら説明を始めた。
「冒険者の登録ですね。手数料に1500ギル掛かりますが、よろしいですか?」
【ギル】というのは、この世界の通貨だ。ストリアは懐に手を入れ、内ポケットや外ポケットをまさぐるが、焦りが彼女の表情に色を添えていく。
「どした?」
様子を眺めるネイフェンが聞くと、ストリアは壊れた人形のように視線を向けた。
「お金…忘れた」
「おーい…」
ネイフェンは一瞬驚いたが、次の瞬間、酒を飲む冒険者に目を向けると、堂々と近付いていった。
「何だ嬢ちゃん。金なら貸さねぇぞ」
やり取りを聞いていた冒険者は、額に傷のある男だった。
彼は馬鹿にしたように睨みつけ、心の中で笑いを浮かべている。
「いいから寄越せっ」
なんと、ネイフェンは男の胸ぐらを両手で掴み持ち上げ、その目の前で威圧感を放つ。
挑戦的な視線に圧倒される。
「何しやがんだてめぇッ!!」
男が反撃しようとすると、ネイフェンは容赦なく彼を机に叩き付けた。
「いい加減に…ぶへッ!」
ネイフェンはさらに叩き付ける。
周囲の冒険者たちは大盛り上がりで、「やれやれ!」「そこだ!」などと野次を飛ばし、彼女の力強さに拍手を送る。
「わ、分かった!分かった!!金出すから!!な!?」
男は傷だらけになりながら、ネイフェンにギルを差し出すと、彼女は満足そうに受け取った。
「分かればいいんだ、分かれば!」
男を投げ捨て、奪い取ったギルを片手にストリアにガッツポーズ。
しかし、ストリアから返って来たのは…。
「このバカッ!」
ゲンコツだった。
「後できちんとお返ししますので…大変申し訳ない…」
と、ストリアは深々と頭を下げ、恥ずかしさに顔を赤らめる。
「ったく、保護者かよ。お子様が来るとこじゃねぇぞ」
他の冒険者が馬鹿にしたように笑い飛ばす。
ストリアは鋭い目付きを向け、「あ"?」と反発する。
普段は上品に構えている彼女だが、内に秘めた荒々しさが牙を剥く。
「まぁまぁ!借りたんだし、いいじゃんか!」
ネイフェンが視線を逸らさないストリアの両肩をぐいぐいっと押しながらカウンターに向かう。
「ツラ…覚えたからな」
ストリアはボソッと呟き、受付係に向き直ると、その表情が豹変する。
「こちらでよろしいでしょうか…」
彼女の表情は、虫一匹殺さないといった優しい笑顔に変わった。