第六話 紅い華とバケモノとそれから…… ―前編―
第六話です。
これからはできるだけ二日に一回ペースで?
『人間には、性善説と性悪説があるが、そのどちら共が当て嵌まり、それと同時に誤りでもある』
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「―ハァ」
息を吐くと、ソレはたちまち白く凍りつき、やがて夜の闇に吸い込まれていく。
ただ、歩いていた。
他に誰もいはしない。
俺は独りだった。
今だけじゃない。
何時も、何時までも。
いままでも、そして多分、これからも。
……弱々しい明かりに照らされて、俺の影は夜の闇にゆっくりと伸び、星屑の空で独り虚しく踊っている。
独りきりの舞踏会で流れるのは、陽気なカンテでも、感動的なバラードでもなく、ましてや、有名な交響曲などではない。
そこで流れるのは、行く先も知らず、不規則に鳴り響く鈍い足音。
何処へ行くのだろう?
自分のことなのに、客観的にしか考えられない。
自分が何処へ行こうとしているのか、全くわからなかった。
……それでも足は動きつづけている。
ただただ、歩き続けている。
―ふらふら、と。
その足取りは、まるで自分自身。
やりたいことも無く、やることも無く、やらなきゃいけないことすら無い。
ただ、ふらふら歩いてきた。
ただ、ふらふら生きてきた。
この足取りのように、ずっと宙ぶらりんだった。
変わることの無い世界、終わることの無い世界。
そう思っていた。
……月を探す。
立ち止まって空を見上げてみた。
無数の星が輝くそこに、月の姿は無い。
月が無いのをいいことに、幾つもの星が誇らしげに輝いていた。
空にあるはずの月。
けれど見つからない月。
……畜生。
俺は再び歩き出す。
何かから逃げたのかも知れない。
何かを諦めたのかも知れない。
何かを、認めてしまったのかも……。
ソレが何かは、よくわからないが。
……幾らこの空を見渡しても、やはり月の姿はなかった。
………………………………
……人間は、傲慢な生き物だ。
自らの種が一番だと、常に驕っている。
自分達こそ、最良の種である、と。
全ての人間がそう思っている。
動物愛護だって、自らが優れていると思っているからこその考えであり、自らの価値観を押し付けているだけなのだ。
まさしく、偽善。
また、人間は常に人間を優先する。
もともと、人間が動物の土地を奪ったというのに、動物が人間の土地を侵すのを許さない。
どんな理由があろとも、人間に都合が悪い存在は、その存在を抹消される。
さらには、人間が土地の所有を言い出したり、それを売買するのは、傲慢以外の何者でも無い。
国という存在すら、人間の驕りの塊だと言えるだろう。
さて、少しばかり話がずれたが、つまり、人間は自らを頂点だと考え、自らと違う存在は、その違いがわずかな者でさえ、見下しているということだ。
特に馬鹿な連中は、時折愚かとしか言いようの無い行動をとる。
………………………………
「なぁ、お前魔物なんだろ?」
頭の軽そうな男の声。
その言葉の対象は、紫の少女。
「……」
彼女はその男の前を素通りする。
「無視してんじゃねぇよ!!」
肩につかみ掛かるのは、体格の良い、というよりデブ。
「……五月蝿い」
「んだと?てめぇみてぇな化け物が何いってんだコラァ!!」
髪を伸ばしたチャラい男が、唾を飛ばしながら怒声をあげる。
「……」
それに対し無言で睨みを返す少女。
「解るかぁ?てめぇみてぇな化け物にはなぁ人権なんてねぇんだよ」
人間じゃあないんだからな、と男のひとりが嗤う。
「だぁかぁらぁさぁ……」
男達は紫の少女へとにじり寄る。
「……俺らが何しようが問題無いって訳。むしろ化け物退治みたいなもんよ。さぁ、今夜は楽しもうぜ。化け物ちゃん」
下卑た笑いを浮かべる男達改め下衆共。
……気持ち悪い。
正直見ていて不快感を感じる。
……こんな場面に出くわすなんて、運が悪かったというか良かったというか。
俺は下衆の集団に視線を向ける。
……大嫌い。
「「気持ち悪い」」
俺の呟きと少女の声が綺麗に重なる。
「……さて、と」
どうするかな?
……彼女は魔物(正しくは魔族)と人間のハーフだ。
魔族と呼ばれるヒト型の魔物は、膨大な魔力と強靭な肉体、そして高い知能を持つ種である。
特に魔力においては、人間は彼らの足元にも及ばない。
そしてそれは、半魔族であるリリアも例外ではない。
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「……」
彼女は何も喋らない。
ただ、彼女の紫の瞳がその色を深めた時、
紫が閃き、
瞬間、彼女の肩に置かれた男の手が吹き飛んだ。
男達が口々に驚きを、痛みを、恐怖を口にする。
「……へぇ」
思わず感嘆の声をあげる。
……美しい。
ただ単純にそう思った
紫の後ろで結んだ髪が揺れる。
背に出現した紫の翼が揺れる。
彼女の紫に煌めく瞳が揺れる。
揺れる、揺れる。
紫が、揺れた。
……え?
急に彼女の身体が傾く。
彼女は前のめりに倒れ込んだ。
………………………………
……男の声が聞こえる。
気持ち悪い。
男のひとりがあたしの髪を掴み持ち上げる。
男の顔が目に映る。
……気持ち悪い。
触るな。
そう言おうとしたのに声がでない。
「なぁ、動けないだろ。動けるはずないよな、俺の魔法にかかったんだから。……さっきはよくもやってくれたな化け物ちゃん。さぁ、償って貰おうかな。方法はわかってるな?」
男の下卑た声。
伸ばされる手。
……気持ち悪い。
あたしは、身を縮めることすら、できなかった。
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「……随分と愉しそうなことしてるな」
……ひとつ、闇の中で紅い光が揺れた。
……俺もまぜてくれよ。
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「何だてめぇ!」
男の声。
―クスクス
若干恐怖の混じった声に笑いを返す。
「オイ、シカトこいてんじゃねぇよ」
―クスクス
奴らからは俺の顔は見えないだろう。
人間の目でこの闇の中で俺を完全に黙視することは不可能だ。
まぁ、リリアには見えているだろうが。
―クスクス
……俺は左目を隠しながら奴らの前に姿を現す。
あ、見るからに安堵している。
「……何してんだ?」
俺の問いに、リーダー格らしき男が答える。
「何って化け物退治だよ。あんたもしってんだろ?コイツのこと、さ」
下品な男の声。
……気持ち悪い。
「あぁ、知ってるさ」
笑顔で答える。
奴らの笑みも深くなる。
……吐き気がする。
「なぁ、あんたも交じらないか?」
下卑た笑いと共に声をかけてくる。
―クスクス
……俺はコイツらみたいなのが……
「……勿論、そのつもりさ」
男達が笑う。俺も笑う。
……大嫌い。
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……さぁ、遊戯の始まりだ。