第三話 理不尽な化け物が負けるのは……
こんにちは、蒼月です。
……全然話が進まない今日この頃。
高校生にはきついよ、この状況。
あ、ちなみにアリスはヒロインではありません。
後、何か要望等があればどうぞ。
……最善を尽くします。
『人間は時には一人で考える時間と場所が必要である』
校門を出ると人の喧騒は一段とその激しさを増し、俺の聴覚へと侵攻し続け、甚大な被害を及ぼしてくる。
被害者たる俺の味方は、時折吹き抜ける涼しげな風のみ。
俺は風に揺れる微かな髪の感触を楽しみながら、学園から少しばかり離れた寮へと歩を進める。
……どれだけ治安の良い町でも馬鹿な輩というのは存在するわけで、そういう奴らに遭遇するのはある意味当然というわけで、別に有り得ないというわけでは無いのだが………。
「……有り得ない」
流石に学園から寮までの短い距離の間に遭遇するというのは無いんじゃないだろうか?
……どれだけエンカウント率高いんだよ。
「てめぇ、邪魔なんだよ。……ぶっ殺されてぇのか?どうなんだよ、オイ」
眼前の男が酒臭い息を吐きながら言う。
在り来りな文句。
こんなことを言う奴は世の中にはウジャウジャといるのだろう。
まるでゴキブリのように。
……なら、目の前にいる男達は六人だから、少なくともこの町に百八十人はこんな輩がいるのだろうか。
一匹見つけると少なくとも三十匹はいると言うし。
(…いや)
ゴキブリより質が悪い。
横目で俺の後ろに隠れる少女を見ながらそう思う。
少女は微かに震えながら俺の制服の背を掴んでいる。
……可哀相に。
世の中は厳しいものだ。
特に力の無い者にとっては尚更。
俺は前方にいる社会不適合者どもに視線を戻す。
明らかに頭の軽そうな馬鹿共だ。
こういうのを社会のゴミと言うのだろうか。
いや、それではゴミに失礼か。
「オイ、なんとか言ったらどうなんだ……殺すぞ」
今さっき、俺がゴミ以下と断じた男の中の一人が口を開いた。
俺は男のその言葉を聞いて、今俺にできる最大限フレンドリーな口調で、言葉を紡いだ。
「……目障りだ、失せろ害虫」
「んだとコラァ!」
「ぶっ殺すぞ!」
男共は口々に汚い言葉を吐き散らかす。
本当に救いようの無い連中だ。
男共は俺の吐いた溜め息が気に入らなかったらしく、額に青筋を立てながら飛び掛かって来た。
……昔から、俺は異常だった。
“力”を得る前から、俺は既に化け物だったんだ。
「……邪魔だ」
男を一人、片手で薙ぎ払う。
男はそのまま一声すら発すること無く、地面に盛大なキスをする。
……気を失ったようだ。ピクリとも動かない。
この際奴の顔から漏れ出てくる紅い水溜まりは無視することにした。
「て、てめぇ一体何をした!?」
明らかに焦った男の声。
若干声色に恐怖の色が含まれている。
「さぁ、何だろな?」
薄く嗤う。
薄暗い路地裏と相まって、かなり不気味に見えるのだろう、男の顔が引き攣っているのがわかる。
さて、大多数の人間は切羽詰まると短絡的な行動をとると言われているが、果たしてこの男達もその類からは漏れないようだ。
この男達が感じているのは『恐怖』であり、その最も簡単な対処法は、その感情を与えてくる対象、つまりこの場合俺ということになるのだが、ソレを排除することが、最も単純で短絡的行動だと言えるだろう。
俺に襲い掛かってくる男共。
そんな男共を見て、俺は奴らに対する認識を少しばかり改める。
前に出て直接攻撃してくる三人。
そして、後方から魔法で攻撃してくる二人。
ただの有象無象の集まりでは無いようだ。
この布陣は基本的かつ有効なものだ。
まぁ、単純なものなのでただの偶然かもしれないが。
とはいえ……
「がぁっ!?」
「グェッ!!」
「ゴフッ!!」
一般的に有効なものでも、常に有効だとは限らない。
時には理不尽な強さというものを持つ者がいる。
そういう奴らにはほとんど何も意味をなさないのだ。
平然と佇む俺と、後ろの方で目を閉じたまま怯える少女と、地面に伏す四人の男と、愕然としたまま立ち尽くす二人の男。
……滑稽だな。
人間は己の理解の範疇を越えたことが起きた時、その事実を理解することができないという。
脳がソレを拒むのだ。
俺は男がその事実を飲み込む前に、男に向かい一歩踏み込む。
……奴が事実を飲み込んだ時には、奴の顔が壁にめり込んでいた。
さて、後一人。
俺は最後に残った男に歩み寄る。
男の顔が恐怖に歪む。
俺の左目にソレが映る。
奴が目を見開いた―
「…二度とこんな馬鹿なことすんじゃねぇぞ」
その言葉を最後に、男はその意識を閉じた。
―忘れられない恐怖と共に―
「さて、と」 一段落ついた俺は少女の方を向く。
あれ、今気づいたけどこの制服うちのじゃないか?
つまり学友(?)か……
とはいえ俺は彼女に話しかけた。
「……怪我は無いか?」
こういう時なんと言ったら良いかよくわからん……
「やぁ、新入生かい?」
若い女性が俺に問う。
俺が肯定すると、彼女は続ける。
「あたしは、ここの寮母をやってるミリア・クラネット。よろしくね、少年」
寮母、ミリア・クラネットはにこやかに笑った。
……あの後、俺は何かお礼をすると言う少女の申し出を丁重に断って、今こうやって寮母に会っている。
少女の申し出を断るのにかなりの時間を費やしたせいか(しつこいまでにお礼をすると言って聞かなかった)、もう日が暮れ始めている。
「…なの、わかった?」
彼女の寮生活に関する説明を聞き終えた俺は、お茶でも出すという誘いを辞退して(彼女曰く、なんか態度が気に入ったらしい)、早々に自室に引き上げることにした。
……無性に今一人になりたかった。
部屋へと向かう俺の足を止めたのは、聞き覚えのある声だった。
「あぁ〜、あの時の人ぉ!!」
先程の少女だった。
「あら、アリス。おかえりなさい。」
ミリアさんの声。
……今しばらく一人にはなれそうにない。
テンションの高い女性二人を見て、俺は密かに溜め息を漏らした。