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第一話  少女と学園と呪いの左目

 やっと始まりました。本編です。


 けれど元旦は朝から駅伝……。


 走りたくない!!


 ―ヒトという生き物は妄執とも言えるほどの生存欲を持ち、時として奇跡的な生命力を持つ生物である―






 正直言って、俺は人というものを甘く見ていた。

 特に適応能力という点において……



 ……約一年。

 この世界に来てから、それだけの時が流れた。


 人によっては、長いと思うものもいるかもしれないが、たったこれだけの時間でここまで順応するとは思っていなかった。


 いまでは、もとからこの世界に住んでいたかのように感じることすら多々あるほどだ。


 ……まぁ、理由は他にも在るのだけれども。






 「……眠い」


 春の穏やかな日差しの下、無くならない眠気を少しでも吐き出すように小さく欠伸をする。




 今年で十六になるというのに、朝に弱いという事実は変わらない。


 寝坊するわけじゃないし、普通に起きられる。


 とはいえ、朝は頭が回らないし、何より眠気のせいでかなりキツイ状態に陥るのだ。


 ……ま、たとえ襲われたとしても返り討ちにする自信はあるけど。




 俺は今、朝に弱い故の苛立ちを胸に秘めつつ、とある駅前に立っている。



 今年で十六歳、春、という言葉で気がついた人もいるかもしれないが、今年から俺は高校生になるのだ。


 たとえ世界が違ってもそういうしきたりは変わらないものらしい。 そのため、魔導列車を降りた俺はこれから通うことになる学校へと向かっている。








 『聖セレスティア学園』


 最高評議会が管理する独立中立都市『エデン』に存在するこの学園は、国や人種に関わらずに学ぶことができ、普通の勉学は勿論、護身術を主とした戦闘技術や経済、そしてこの世界で最も重要な技術である魔法等についても学習することのできる学校だ。



 そして、この学園が最も重点を置くのが魔法である。



 入学試験では、まず魔力の素質が無い者を落としてから始まり、素質の在る者のみが試験を受ける資格を得ることからも、そのことが理解できると思う。


 そして、無事入学することのできた者は魔法が使える使えないに関わらずに、その才能を伸ばすための授業を三年という期間の間、全寮制で受けることになるのだ。








 ……俺は今、聖セレスティア学園へと向かうべくエデンの町を歩いている。



 (随分賑わってるな)



 前に住んでいた『アカンサス王国』も随分豊かな方だったが、この町は比べるのが馬鹿に思えるほどに賑わっている。



 それだけこの町の治安が良いということだろう。



 ……ただの国ならこうはいかないだろう。言わばこの平和は、独立した存在であるが故の平和なのだ。




 「……争いの根絶した平和と自由の楽園、か」


 一部の人間にとっては、まさに理想郷ユートピアとすら言えるのだろう。 この町は。


 そう、エデンの名に相応しい楽園だ。


 素晴らしい。正直にそう思う。


 けれど、同時にくだらないと思うのもまた本当なのだ。


 争いの無い世界?ありえない。

 人という生物が存在する限り、争いの根絶などありはしない。

 平和とはそんな安いものじゃない。

 平穏は争いと争いの狭間の小休止でしかない。永遠に続くと思っていても、結局は終わりあるもの。

 ただの小康状態が続いているだけでしかない。


 世界はそんなに単純じゃない。




 こんな理想郷はありえない。

 偽りの楽園でしかないんだ………。




 「―…ん?」



 ……ふと、歩みを止める。



 人混みの中に、見たことのある人がいた。


 ……ありえない。ありえるはずがない。


 ありえては、いけない。



 それは……彼女は、俺にとって偽りの平穏の象徴。


 あの日、あの瞬間、最後に見たもの。




 「―…なっ」


 俺の左目が彼女の存在を確かに認めた瞬間、左目に激痛が走り、堪らず目を閉じる。










 ―俺の左目は呪われている。

 あの日から、俺の左目には蛇が住む。

 紅い瞳の中に住み着く、己の尾を噛む蛇『ウロボロス』。

 死と再生、創造と破壊を司るソレは俺の力の象徴でもあり、俺が純粋な人間ホモサピエンスではない証でもある。




 俺は、もう人には戻れないんだ―










 ……再び彼女の姿を確認するために目を開けた時、彼女はそこにはいなかった。



 どれだけ辺りを見渡しても、俺の左目に彼女が再び映ることはなかった。






 「……由佳」



 俺の呟きは青い空に吸い込まれた。


 まるでもとからそんなものは無かったかのように。








 再び俺が歩き出したのは、それから丸々10分経ってからだった。










 俺が学園に着いた時にはもう、そこは人で溢れていた。



 (流石は世界でもトップクラスの学園ってとこか)


 当たり前だ。俺と同じ新入生だけでも何百人といるのだから。




 俺は溜め息を零しながら校門をくぐる。


 複雑な想いを胸に抱きながら……










 ―聖セレスティア学園。



 此処からこの『ものがたり』は静かに始まりの時を迎える。







 ……偽りの楽園はその平穏をいつまで保つことができるのだろうか?




 鍵を握る紅き左目の持ち主は、何も知らずに一つ欠伸を漏らした。



 この世界では珍しい黒髪を風に揺らしながら……










 ……揺れる、揺れる。

 瞳が揺れる。紅く揺れる。

 髪が揺れる。黒く揺れる。

 いろいろ揺れる。風に揺れる。



 誰にも知られずココロも揺れた―

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