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第十二話  恐怖の理由に  ―前編―

こんにちは、最近やる気の出ない蒼月です。



……誰かやる気を分けてください。


感想、要望、質問、なんでもお待ちしています。




 今でも、憶えている。



 お母様のやさしい笑顔も、お父様の力強い抱擁も。



 ちゃんと憶えている。



 あの温かかった日々を。 お城での幸せだった生活も。



 ずっと、憶えている。



 もう戻れないあの日の一幕一幕を。

 そしてその終幕も。







 わたしは





 今でも





 ちゃんと





 忘れずに





 憶えている










 ずっと、ずっと――










………………………………………………………………










 ――バキッ





 踏み締める。 魔物共の骨を。





 「またかよ、どうなってんだ?この辺、骨ばっかじゃないか。どう思う?キョウやん」




 「………知るかよ」






 確かに馬鹿ラウの言う通り、先程から大中小様々な魔物の骨が、所狭いしと散らばっている。

 まあ、これはまだいい。 妙なのはこれらがまだ新しいことと、それでいて肉片ひとつ残っていないことだ。





 「………ねぇ」



 リリアが袖を引く。




 「どうした?」




 「………魔力の残り香がヒトのものじゃない。それでいて魔族ほど澄んでないから、多分魔物の類い、だと思う」






 魔力の残り香、ね。






 「そっか、ありがとな」



 「………ん」








 さて、突然だが魔力には波長がある。

 普通の人間には感じることはできないが、人それぞれにソレはあり、また種族ごとにパターンのようなものがある。

 そして、魔力行使の後に残るソレを魔力の残り香と言う。

 俺も感じることはできるが、解ることといったら大体どれくらい前に使われたかくらいしか解らない。

 その点、リリアは魔力の残り香で、いつ頃、何の種族が使ったかが解るうえ、一度感じた波長なら大体誰が使ったかすら解るという。





 つまり、これだけのことを同じ魔物がやってのけたということであり、ソレはそれ相応の実力を持ち、必然的にソレと戦うことになる可能性が高いということにも繋がると言える。



 そしてこれだけのことができるのは、複数の仕業だとしてもCないしB、単体で行ったとしたならば最低でもAランクほどだろう。





 (上級か…………少なくとも一学年にやらせることじゃないな)



 そう、間違っても学生が対処するべき問題じゃない。

 最高学年ですら対処に難があるというのに………








 勿論、普通なら。








 「………化け物にはバケモノを、か」



 そう小さく呟くと、再び袖が引かれた。




 「………どうしたの?」



 「いや………何でもないさ」




 リリアは心配性だ。

 とは言え、迷惑だとは思わない。

 これは彼女の優しさであり、俺もまた嬉しいから、だ。






 ――ありがとう






 そう彼女に伝えようとしたのと、黒い影が飛び掛かってきたのは、ほぼ同時だった。






 「………ッ」




 リリアを突き飛ばす、瞬間、“ソレ”はこの空間を突き抜けた。






 「――がぁっッ」




 迸る紅に服を染め、砕けた骨が散らばる地面を転がりつつ“ソレ”を視界に収める。





 紅く滲む視界に映る黒い外殻にお揃いの黒い翼、全身黒一色に揃えたソイツは地を揺るがすほどの咆哮を上げた。







 「キョウッ!?」




 リリアの声が聞こえる。

 普段の二倍以上の大きさかつ、全く間の無いそれに言葉を返す間も無く、俺は奴から距離を取る。






 喉の奥から鉄の味がひろがる。

 熱と痛みを感じる部位、左脇腹に手を添えると、先程までは無かった感触。

 見ると不自然に凹んでいた。





 「ね、ねえっ」



 背後からユウリの声。




 彼女に視界を向けると、青白い顔で俺の脇腹を見ている。

 その傍らにはさっきまで俺の一部だった紅い肉片が転がっている。




 (……もってかれたか)





 多量の血を噴き出しながら、微かに震える彼女に声をかける。






 「大丈夫だ」



 必要最小限の言葉で状態を伝える。



 とは言え、それで恐怖が軽減する訳でも無く、彼女は今だに死人のような顔で震えている。






 (………ん?)






 あれ程の戦いができて、何故こうまで怯えるのか?彼女の状態にそんな疑問を覚えた。



 狼もどきとの戦闘を見るに、血には多少は慣れているはずた。

 そして魔物が強大だといえたかが一体、この怯えかたは異常だった。





 ………何かあるのか?







 人は時に、必要以上の恐怖を見せることがある。

 それの原因は、主に過去に受けた心的ショックであることが多い。

 俗に言うトラウマというやつだ。

 特に幼少の頃にできたトラウマは、大人になっても克服できない場合が多く、また、そのトラウマに少しでも関係がある“何か”を目にした時の取り乱しようは筆舌しがたく、まともな思考を維持できないばかりか、まるで壊れてしまったかのような反応を見せることが多々ある。










 彼女にも“ソレ”はあるのだろうか?






 じゃあ“ソレ”は――













 その思考は、襲い掛かる魔物に中断させられた。







 「………チッ」




 短く舌打ちした後、視界を染める紅を拭うと共に奴の攻撃を躱す。



 顔に降り懸かる紅色の液体を拭いつつ、体勢を立て直す。





 (…………完全に躱して“これ”か)





 全くもって忌ま忌ましい。

 悪態を衝きたくなるのを必死で堪え、能力を発動する。





 「……掌あ――」




 掌握と言い切る前に奴が動く。

 それはただのひとつの動作であり、強力な攻撃。

 尻尾による薙ぎ払いを視界に収めた俺は掌握も中途半端にユウリのもとに駆け出す。
















 彼女を庇うと同時に、奴の暴力なまでの魔力を孕んだ尻尾による一撃が、俺とユウリごと森を吹き飛ばした。







 リリアの俺を呼ぶ声が聞こえる。




 ラウの呪文詠唱の声が聞こえる。










 最後に聞こえたのは魔物の悲鳴と翼による飛翔音、そしてこの体が地面に叩き突けられる音。








 意識を手放す直前聞こえたユウリの声は、あまり自信が持てないため、省略する。




















 ………意識を取り戻した時最初に目にしたのは、洞窟のような天井と、俺の傷の手当てをするユウリの姿だった。











 涙を流しながら取り乱してうたことは、彼女の名誉および、確信が持てないため省略する。












 彼女の、その俺に対する怯えを感じさせない行動を見て、理由は解らないが、どこか安心したことをここに追記しておく。

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