第十話 呪われしバケモノの片鱗
すいません、最近忙しくて放置状態でした。
これからは徐々にペースを戻して行きたいと思います。
なにぶんプロット無し、筋道無しの駄目駄目小説ですが、応援や感想、質問、要望、こんなのが読みたいという考えやアイデアなどをよろしくお願いします。
――死んじゃ、ダメだよ
彼女の手が俺の頬をやさしく撫でる。
……何故だろう、頬が濡れているのは。
彼女の顔が滲むのは。
俺は震える手で彼女の手を包む。
あたたかい、けれどつめたい。
その存在の危うさに手の力を強めると、そっと彼女も握り返してくれた。
ああ、顔が歪むのを感じる。
こんな顔、彼女には見せたくないのに。
――ねぇ……
彼女の名前を呼ぶ声が、あまりにも哀しくて、儚なくて、切なくて、俺は彼女の存在を、いま在る存在を確かめるために、彼女の頬に空いた手を伸ばす。
……ああ、なんでだよ。
彼女の顔がこんなにも見たいのに、滲んでしまって見ることが出来ないなんて。
狼狽しているのがそんなに可笑しいのだろうか?
彼女はクスリと笑みを零すと、それからゆっくりと優しく微笑んだ。
――“約束”だからね。
end・of・days
第一部
“約束された存在”
『聖セレスティア学園』
広大な土地を持つこの学園は、ひとつの大都市と同等と言える大きさを誇っている。
大国の城と見間違うほどの校舎と、見渡す限り広がる敷地。
その面積は『エデン』の四分の一を占めている。
そんな学園の中には、ひとつの森がまるまる存在する。
『イデアの森』
魔物を含む様々な生物が棲息するそこは、これまた様々な授業に利用される。
その中でも多く利用されるのは魔物を利用した実習だ。
「実戦を知らなければ意味はない」
この言葉の通り、戦いの場において経験のない者はほとんど戦力にはなりはしない。
「本当の戦いを知る」
これがこの実習の最大の目的。
そう、馬鹿ヤンキーのおふざけで此処にいる訳ではないのだ……………多分。
まあ、とにかく俺達はその外部実習のためにこうやってこの森に来ているのだが――
「おぉ〜ものの見事に囲まれたねぇ。……どうする?ダンナぁ」
「……」
こいつ……うざい。
何故そのテンションをこうまで維持できるのか?
どうしてこの状態ですら変わりないのか?
多分解き明かした者にはノーベル賞が授与されるだろうほどの謎なのだろう。
もしくはアカシックレコードに記されるほどの最早世界のルールにでもなっているに違いない。
つまり、だ。
「ダンナぁ、きゃつらめさんここっち見てるどぉ〜。……ええんか?ここがええんか?おう!?」
緊張感が全くないぞ、こいつ。
なんだこの空気?
妙に生暖かいのは何故なんだ?
俺達を取り囲む大量の狼達も心なしか困っているような気がする。
相談があるなら乗るぞ。
……まぁ、こいつに関しての相談には答えられないだろうがな。
この考えが通じたのか通じていないのか、多分通じてはいないだろう大量の狼もどき達が飛び掛かってきた。
“強欲なる狼”
S〜Eまである魔物のランクの中で、Dランクに指定される魔物であるソレ等の中でも、最も凶暴であり、欲深い彼らは、獲物を見つけた場合すぐさま襲い掛かり骨すら残さない。
先程のように、襲うことを躊躇う事など、まず有り得ない事だと言える。
……ユウリ、恐るべし。
「……っ」
金色の武具を使い、奴らの攻撃をいなし、たたき落としていく。
盾としても使えるソレは、振るう度に奇妙な音を発しながら、魔物を迎撃する。
俺が振るうその武具の名は――
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!、キョウや……ぐふっ……止め……ゲフォっ………………………うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」
――その名は“金色の馬鹿”《ラウ》。
俺はラウで敵を片っ端からたたき落としていく。
「………」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「………」
「くわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「………」
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「………」
「ていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「………」
「ほわちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「………」
「ビジタァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「……うっせぇ」
――ぽいっ♪
「アバタァァァァァァァァァァァァァァァ…………………………………………………………………………………っひでぶっ!!!」
俺はラウを投げ捨てる(もちろん全力で)と同時に、自らの影に手を入れる。
「……一ノ剣“月影”」
それは漆黒の刀。
それは俺の影のひとつのカタチ。
そしてそれは、俺の持つ幾つかの剣の中で最も速い、“最速の剣”。
「……“掌握”」
この言葉と共に時の流れから俺という存在は別離され、同時に周囲の状況をを頭で飲み込み、理解する。
……リリアは魔力でできた剣で魔物共をいなし、切り伏せ、ユウリは火の魔法、いや、雷だろうか?とにかく魔法で敵を黒く焦がしている。
……ちなみにラウは倒れている。
そして俺は敵と味方の位置と動きを完全に把握すると同時に、時の流れというルールの中に再びその存在を戻される。
この間およそコンマニ秒。
数十秒ほどのタイムラグ。
俺は月影で魔物共を切り払う。
飛び散る血が体にかかるよりも、もっとはやく、はやく、はやく………
………森の中で鮮血が舞う。
黒き風が吹き抜ける度、魔物の体から紅い花が咲き狂う。
俺は黒き刃で命の刈り取っていく。
……ただ確実に。
「……我が血肉は乱れ狂い――」
……ただ着々と。
「――この心は血に狂う」
……ただ無慈悲に。
「………“破滅の黙示”《アポカリプス》」
……ただ恍惚と。
月影を右手で振るいながら魔力を解き放つ。
己が体を張り巡る数多もの魔力導線の内、約十本ほどのソレから、魔力が幾つかの奔流となって放出される。
そしてその魔力を周囲に影響を与える前に、左手へと集まっていく。
僅かな間を空けた後、ソレは質量を帯び――
――形を得て――
――この世界に物質として出現する。
右手の月影を影に戻し、俺は左手に創造された赤い剣を構え――
「……蹂躙せよ“最後の審判”《ハルマゲドン》」
――薙ぎ払う。
禍禍しい赤い剣から放たれた一撃は、悍ましい程の魔力を持ち、ケモノ共を蹂躙し、虐殺していく。
また、その魔力の奔流に巻き込まれた木々をも、瞬く間に侵食し、辺りを荒れ地に変えていく。
ソレは、圧倒的な暴力。
生命を飲み込み咀嚼していく呪われし力。
『ヨハネの黙示録』において、赤い馬に乗った災厄を司りし使徒。
その者が携えた剣。
戦争と死の力を持つ破滅の魔剣。
神すらも殺すと言われるソレは、ただの一振りですら脅威であり、たかがケモノもどきの群れなど、元から無かったかのように跡形も無く消滅する。
そう、全ては神の黙示であるかのように。
……全ての敵を倒したのを確認した後、俺はゆっくりと剣を地面に突き刺す。
そこにはただ更地が広がっていた。
三つの視線――二つは純粋な恐怖、そしてもうひとつはまるで観察するような眼――が俺を貫いた。
「………ば、バケモノ」
ユウリの普段とは違う震える声が頭の中で延々と繰り返し響き続けた。