第七話 紅い華とバケモノとそれから…… ―後編―
遅れてすみません、蒼月です。
いや〜、駄文だ。
感想、要望など、お待ちしております。
―さぁ、遊戯の始まりだ―
「っがぁ!?」
まず、デブ男の顔面に拳骨をお見舞いする。
デブ男は手をなくした腕をばたつかせながら、数十メートルほどぶっ飛び、ビルの側面に紅いナニかをぶちまける。
「な、な、何してんだ!?」
先程とは正反対の震えた声。
―クスクス
「何って、殴っただけだよ」
気に食わなかったからな、と俺はつけ足す。
「て、てめぇ何したのかわかってんのか?」
……全く、何を言っているんだ、こいつらは。
「あぁ、わかってるよ。……害虫駆除さ」
……それもとびっきりの、な。
俺は嗤う。目だけ冷たく細めながら。奴ら害虫を睨みながら。
「……汚物にまみれて地獄に堕ちろ」
壁のナニかがドロリと落ちる。
男達の顔が、恐怖に歪む。
俺の顔も、醜く歪んだ。
………………………………
……許せない。
俺はこいつらを許さない。
こういう奴らは大嫌い。
……だから……
´
―コロス―
……奴らの存在を、一欠けらどころか、塵のひとつも遺さずに。
……さぁ、花を咲かそう。
紅い、紅い、俺の左目のように紅い、紅い花を。
―咲き狂え。その花言葉は……『狂気』―
………………………………
―ゴトッ
……男達のひとりに向けて腕を振るうと、そんな音がして男の首から紅い花が咲く。
ソレはまるで噴水のようにこの暗闇を紅く染める。
地面に転がるボールも紅く染まった。
―グチャッ
地面のボールを踏み付けるとそいつは潰れ、見るも無惨な光景を醸し出す。
白いゼリーが零れ落ちる。
´
まるでむせ返るような血の臭いを感じながら、俺は改めて自分のことを理解する。
―あぁ、バケモノなんだ、と―
だから、どうした。
俺の中のナニかが静かに言う。
だからって、死ぬのか?
違うだろ?
だから受け入れろ。
自分がバケモノだという事実を。
……ならば、バケモノらしくコロしてやるさ。
俺は一番近くにいる男に接近する。
「…ッ……」
なんだ、コレ。
一瞬俺の身体が光を帯び、次に痺れがやってくる。
「……魔術、か」
おそらく、リリアが受けたのと同じモノだ。
見ると男のひとりが安堵の笑みを浮かべている。
―ムカッ
奴の笑みに若干のいらつきを覚えた俺は、身体の痺れを無視して眼前の男を殴り飛ばす。
……死なないよう、手加減したため、そいつは地面にぐにゃっと伏せ、痙攣している。
「な、なんで動けるんだよ、お前!?」
魔術を使ったと思わしき男が、動揺を隠そうともしないであわてふためく。
「……あぁ、お前が魔術を使ったんだな?使ったことに気づかなかったぞ」
……わざと感心したように言う。
男の顔にはもう、先程の笑みはない。
……さぁ、絶望をみせてやろう。
´
―君は問う。
誰が僕を殺したと。
僕は言う。
僕が君を殺したと。
君は笑う。
ならば、君は誰に殺された?
彼の言葉に僕が答える。
僕は僕に殺された―
´
「……貴様達の寿命を教えてやるよ」
俺は自らの影から『月影』を取り出し、構える。
……その構えは『居合』
「……後、五秒だ」
……五
男達は、何を言われたのかわからないとでも言うような顔をする。
……四
男達は、次第に恐怖や驚愕などの感情を顔に浮かべ始める。
……三
男達の顔が激しく歪む。
……二
男達の表情に変化が生じる。
それもひとりひとり違う顔に。
……一
ある者は嘆き、ある者は命乞いを始め、ある者は絶望し、ある者は怒りと恐怖を張り付けこちらに襲いかかってくる。
……零
刹那、黒き刃が彼らの命をひと太刀にて刈る。
リーダー格の男ひとりを除いて。
……さて、居合において一番重要なのは一ノ太刀ではない。
居合の真髄はニノ太刀にある。
一撃必殺の一ノ太刀、そして二撃確殺のニノ太刀。
……目視どころか感じることすら許されない神速の刃の後には、有り得ない速度の切り返しによる避けられない刃がやってくる。
これが一撃必殺と二撃確殺。
……男の首がゴトリと落ち、数瞬遅れて血が噴き出す。
ソレは自らが死んだことを理解すると、まるで吸い込まれるように地面へと崩れ落ちた。
´
……此処は花畑。
紅い、紅い、花畑。
此処で咲き狂うのは狂気の紅い華。
……とても綺麗な紅だけど、どこか恐ろしい花畑。
やがてソレは無に帰る。
誰の目にも映ること無く、それどころか誰にも知られることすら無く。
まるで元から無かったかのように。
´
「……無から生まれし有を今、再び無へと帰結させん」
何も見えない漆黒がその場に現れ、愚か者達の骸を次々と喰らっていく。
……血の跡すら残さずに。
全ての骸が闇に喰われたのを確認した後、俺はリリアのもとへ向かう。
……男のかけた魔法は、神経などに働き対象者の活動を無力化するもので、その効果は使用者の生死に関係無く数時間は効きつづける。
「……!?」
俺は動くどころか喋ることすらできないリリアを負ぶってゆっくりと歩き出す。
「……怪我は無いか?」
「……」
……動けないし、喋れないということを忘れてた。
「……安心しろよ。その魔法解いてやる」
俺は真っ暗な夜道を寮へと向かって歩く。
……背に感じる微かな温もりに、少しばかりヒトとしての優しさを思い出し、それを思い出させてくれた彼女に極力負担がかからないようにと、今自分にできる最大限の優しさと温もりを彼女に与えながら。
満天の星の空。
けど月の無い空。
ソレを見上げながら俺は思う。
―こういうのも、悪くない―
………………………………………………………………
―あたたかい。
少女、リリアは素直にそう思う。
誰かに触れられたのは久しぶりだ。
……いや、もしかしたら初めてなのかもしれない。
あたしは、ヒトの温もりというものを感じた記憶が無い。
親でさえ一歩引いていたと、今では思う。
なぜなら、こんな温もり知らないから。
……ここまで生き物があたたかいとは、夢にも思わなかった。
このあたたかい背中に自らの身を委ねることができないのが、もどかしいとすら感じた。
……おかしな話だ。いままで誰かに近づくことすら気持ち悪いと思っていたというのに。
この温もりが愛しいとまで感じるのは、あたしがおかしいのだろうか?
それとも唯一の温もりだからだろうか?
答えはわからない。
ただ、この少年(たしかキョウと言ったか)の背中がとても居心地が良いということと、あたたいということは確かだ。
……何故か安心する。
先程まで何の感想も抱かなかったこの暗闇が、この星空が、彼の肩越しに見るこの景色が、そしてこのセカイが急に色を持ちはじめる。
―美しい―
……あたしには意味を持たない世界。
そう思っていた。
けど今は違う。
この優しさが、温もりが、あたたかさが、この世界に意味を持たす。
あたしは、彼の背中の温もりを心地好く感じながら思う。
―こういうのも、悪くない―
……彼に気づかれないように、あたしは動かない身体を無理矢理動かして、彼の背中を微かに抱きしめた。