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何でも口に出せる時代だからこそ、慎みを大事にしたい。

作者: ムクダム

自分の気持ちを何でも言葉にすれば良いというものじゃない。

 幼い子供であれば、素直に気持ちを言葉にする姿を可愛いと評価されるだろう。ただし、それは年に見あった幼さを感じさせるからであり、歳をとった人間が同じことをするのは痛ましさを感じさせるので避けたほうが良い。頭に浮かんだことでも、それを口に出すべきか否か、しっかり吟味するのが理性を持った人間の取るべき姿勢だ。たとえ失敗したとしても、自分の行動を抑制する努力は放棄すべきではない。

 ここでいう「口に出す」というのは、言葉にして声に出すということだけではなく、自分の考えを文章にしたり、感じたことを絵に描いたりすることも含む。要するに、自分の考えを不特定多数の人に受容されうる状態に置くということを指す。古くはそう言った活動は、一握りの芸術家が主に担っていたが、昨今ではネットワークの発展で、誰でも自由に自分の考えを不特定多数の人に発信することが出来るようになった。その是非については、おそらく後の時代の人々が裁定を下すことになると思う。

 ただ、自分としては、誰もが自由に発信できる環境にいるからこそ、それぞれ理性的に、慎みを持って、その発信の内容を吟味すべきだと思うのだ。思ったことは恥ずかしがらずに口に出そう、ありのままの思いをぶつけようというフレーズがメディアでも教育の場でも持て囃されているが、それは他人を傷つける言葉でもどんどん吐き出そうという意味ではないと思う。苦しくても助けを求められない人の背中を押すというのが本来の趣旨だったのではないか。

 現実には、テレビやネットにおいて、聴くに耐えない誹謗中傷や暴言が氾濫する事態に陥っている。誰もが心の中で思っているが口に出せないことを、堂々と口に出すことはカッコいいという風潮が生まれている。もちろん、誰かが口にすべきであったのに、社会の重圧によって口にできなかったものもあるだろうし、そう言ったものはドンドン表に出して、健全化を図った方が良いと思うが、往々にして、これまで誰も口にしなかったこととは、口にすべきでないと理性的に判断されたものだったのではないかと思う。人の容姿や、病気を笑い物にしたり、ある人の行動をコケにしたりするのは、心の中で思っても、自分の中に仕舞い込んで、表に出すべきではないのだ。物事への感じ方は千差万別であるし、その感じ方をやめろなどということは誰にも出来ない。しかし、それを周りにぶつけてはいけないというのは、人間として最低限弁えるべき礼儀だと思う。

 言葉というのは外に出ると、もう取り返しがつかない。取り消したとしても、何らかの形で残ってしまう危険が付き纏うのがこの情報社会だ。そして何より、たとえ誰にも届いていないくても、それを口に出したことを本人は決して完全に忘れることは出来ない。もしも、人を傷つける言葉を口にしたら、たとえその時は何の後悔がなくとも、いずれ自らの良心がそれを責め立てる事になる。希望的観測かもしれないが、どんな人間にも良心というものは存在して、それは絶えず、中から自分を見つめているものだと思う。暴言を吐いて、なんら悪びれることがない人も、いずれ、ずっと歳を取った後になるかもしれないが、必ず良心の呵責に苛まれることになると考える。他人の目から逃げることは出来ても、自分の中にあるものから決して逃げることは出来ないのだから。そして、きっとそれは他人に責められるよりもずっと辛いことのはずだ。

 なので、もしあなたが誰かの言葉で傷ついたと感じたとしても、同じような言葉でやり返してはいけない。それは相手と同じ罪を背負うことになるからだ。むしろ、そのような言葉を口に出してしまった相手を気の毒に思い、自分は同じことをしないように自戒した方が良い。ネットか何かで心ない言葉に出会ったとしても、思い悩むことはない。それはあなたに向かって投げられた言葉ではないし、いずれその本人に牙を剥き、本人の心にもっとも痛手を負わせるものに過ぎないのだから。   終わり

 

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