飲み会(2)
「おぉぉぉい!! 酒ぇぇ! 酒ぇぇ!!」
「むにゃにゃ、沙織ちゃん眠くなっちゃった」
「うぉぉぉーん 沙織ぃぃ!! 沙織ぃぃ!!!」
地獄絵図だった。他のお客さんもちらほらと帰る中僕らはいまだに飲んでいた。
と、言っても僕と花美先輩はそこそこアルコールには強い方ではあるし、目の前の勢いとノリで後先を考えずに飲む3人とは違っていたって冷静だった。
何度も、そんな飲み方は良くないのではないかと注意はした……が、既に出来上がっていた3人に僕の声が届くはずはなく……。
「はぁ……」
僕が一つため息をつくと、花美先輩がスッと立ち上がった。
「あっ、トイレですか? 今、どきますね」
僕の奥の隣に住む花美さんは、僕が席を立たなければ席から出ることはできない状態になっていた。
「いや、違うよ。少し、風に当たってこようかなって、ね」
「……? 珍しいですね。酔ったん、ですか?」
「いんや……夜風に当たりながらタバコを吸いたくなってね」
そう言って、カバンからライターとタバコを花美さんが取り出した。
「あぁ……なるほど。タバコ……ですか……」
「そう言えば、あんたたちは誰も喫煙者はいなかったね」
「えぇ、浩二は、大人の男になるって、挑戦してひどくむせていました、ね」
「ふっふふ。想像しやすいね」
そう言って、花美さんが声をあげて笑う。どうしてだろうか? 花美さんが声をあげて笑ってもそんなに嫌に感じなかった。
テレビなどの女性芸能人が大声で笑うのはどうしても嫌悪感を抱くと言うのに、花美さんにそんな嫌悪感を抱くことはなかった。
その笑い方は、小さな子供のようで……まるで、彼女の笑顔に重なるーー。
「こら、まーたぼっーとして、あたしが出れないだろ?」
そう言って、花美さんがコツンと軽くタバコのソフトケースの角でこづいた。
痛みはないが、その感触で我に帰る。
「あっ、すっ、すいません」
「また……考え事?」
「考え……ごと……ですかね?」
その僕の返答に、花美さんはしばらく考えると僕の右手を掴む。
「うん、ちょっと付き合って、良いわよね? 桔平」
「えっ? あっ、はい」
顔見知りの店の人たちに、申し訳ないなと思いながらも浩二たちを託し、僕たちは店外へと出た。
お店の人たちは慣れているからゆっくりしておいでなんて、言ってくれたけどあの3人をいつまでも任せているわけにはいかない。できるだけ早めに戻らなければ。
花美さんは、タバコを取り出し、火をつけて大きく煙を吸い込んで吐き出した。
「……風が気持ちいいね」
「……そうですね」
特に会話はなかった。時折、花美さんが煙を吐き出すふぅーっという吐く息以外に僕たちの間に音はなかった。