飲み会(1)
「おーい、桔平、こっちだー!!」
浩二が、店内に入ってきた僕に向けて手を振る。
恥ずかしいなと少しだけ思うけれど、正直店内をキョロキョロと見回さずに済んだことに感謝しつつ、浩二の方へと向かっていく。
席には既に、直子、沙織、そして花美先輩がいて、大学の講義が長引いたことで僕自身は今回の飲み会に遅れて参加することになっていた。
「あはーきっぺぃくんだぁー」
既に出来上がって、ほんのりと頬を赤く染めた沙織が嬉しそうな表情を僕に向ける。
「ちょっとー桔平遅かったじゃない!! 座れ座れ!!」
直子はお酒が入ると、少しいつもより陽気になる。ふと、視線をずらせば既に空になったビールのジョッキが二つ。
……30分も遅刻していないはず、なんだけどなぁ。
「お疲れ様、桔平。酔っ払い2人は浩二に任せて、あんたはこっち、あたしの相手、してもらうよ」
そう言って、おちょこ片手に花美先輩が自分の横へと僕を誘導する。
僕としても、合流して早々に酔っ払った2人の相手をするのは勘弁して欲しかったので素直にその誘いに乗ることにする。
僕に助けを求めるつもりだった、浩二は去っていく僕の背中を恨めしそうに見つめながら、酔っ払った2人に無理やりお酒を飲まされていた。
……ごめん。浩二。
「改めて……お疲れ様。桔平。はい」
そういって、有無を言わさずお猪口を渡される。
どうやら、僕は僕で選択肢はないようだ。
「いただきます」
溢れる手前までひたひたに花美先輩が、日本酒を入れていく。
直子や沙織を付き合わせるわけにはいかないし、介抱をさせるつもりの浩二には飲ませられない。
結果、毎回僕がこうして花美先輩の付き合いをすることになる。
これが、僕らの中で1番誕生日が遅い沙織が20歳になってからのいつもの流れだった。
まぁ、僕に関しては卒業後、こっそりと直子と花美先輩に誘われ、花美先輩の家でこっそりと飲んではいたのだが。
こうして、大衆の場で飲めるようになってからはこうして花美先輩とは直子の学生時代バイトしていたここ、舞酔で月に2度飲んでいる。
「……今日はどうして遅れたの?」
「LENEでも、言いましたけど、授業がーー」
「本当は……?」
一瞬で、嘘を見抜かれ、花美先輩がじっと僕の目を見つめる。
「……大きな理由はありません。ただ、少し調べ物をしていたら……」
「調べもの?」
「はい……」
「そう……」
それ以上は、深く詮索をせず、花美先輩は、くいっとお猪口の酒を飲み干した。
きっと、僕があまり聞いてほしくないことなのだと察してくれたのだろう。
強引に見えて、花美先輩はこうして聞いてほしくない、傷が見えるとすぐに引いてくれる。
でも、それが、最近、自分の傷に触れられたくないからなのではないのかと僕は密かに思っていた。