卒業(1)
春、桜が舞い散る頃。僕は、3年間通った高校を卒業した。
定番と言える卒業歌を歌い、最後のHRを終えて僕はなんとなく校内で1番大きな桜の木を見上げていた。
『うん! また、あえたら、けっこん、しよっ!』
それは、僕の中で今もはっきりと覚えている記憶。
突然の親の仕事の関係で僕はこの街海鳴町を離れることになった。
そして、引っ越しの前日。
当時、恋心を抱いていた葉桜七海と僕は、公園の滑り台の上で指切りをした。
次、また会うことが出来たなら、その時は結婚しようと……。
結婚、なんて、意味もその重要性もわかっていなかったけど。
あの頃の僕たちは本気でそう言って固く固く指切りをした。
心残りだったのは、引っ越しの当日仲の良い友人が最後の見送りに来てくれたが、そこには何故か七海の姿はなかった。
でも、あの頃の僕はそれでよかったと思ってしまった。
だって、自分が嫌になってしまうほど僕の顔は涙でひどいことになっていたから。
こんなひどい顔を七海にみせたくはなかったから。
「おーい! ぎっべぃぃぃ!!!」
あの頃の僕と同じくらい、涙も鼻水も垂らしながら高校時代の親友、戸塚浩二が僕に抱きついてくる。
「浩二、僕の袖で鼻水拭くのは止めてほしいなぁー……」
「んだぁよぉ!! お前の俺へのぎもぢはぞのでいどがよぉぉぉぉ!!! おーいおーい!!!」
大袈裟……いや、僕が少し冷めているのかもしれない。
思い出してみれば、中学の時も仲の良かった先輩が卒業する時も僕はどこか冷静だった気がする。
周りの生徒が泣き崩れたり、思い出作りをする中、僕は1人どこかさっきのように桜の木を見上げていた。
あの頃、子供の頃に別れというのを経験してしまった結果。僕はどこか別れ(さいごのしゅんかん)に対しての覚悟を常にしているのかも知らない。
今、目の前で見たことないぐらい泣き続けている親友と同じように涙を流しながら抱き合えらればと心の底から思ってしまう。
でも、僕はそんな浩二に抱きつかれたまま、ただ浩二の肩を叩いて、励ましの言葉をかけ続けていた。
「卒業しても、また時々は会おうね。浩二」
「あっだりまえだぁぁぁ!!! 3月ギリギリまではごのまぢにいるがらよぉぉぉぉ!!!」
浩二は、新年度からこの街から離れて、名の知れた企業へと就職する。
最初は、喜んでいたのに僕がこの街に戻ると知るや、既に決まっていた内定を取り消そうとしてたので、全力で止めた。