第4話 二人で
央華を見ていると、董星はここに来る前の自分を思い出す。董星も自分の宮に帰れば央華と状況が似ていた。
周囲は大人ばかりで、しかめっ面をした老教師と向き合う日々。世話係で自分よりも四歳年上の高人だけが親しく口をきく。自分と高人との関係は、央華と蓉杏との関係にも似ていると思った。
そういえば、自分は、高人がいてくれるおかげで、今まで困ったことも、不自由な思いをしたこともなかった。他の誰かにいてほしいと思ったこともなかった。
董星がそう思って央華の方を見ると、目が合って央華は言った。
「何? 私の顔が何か?」
「なんでもない」
「何でもないなら、見ないでよ。気持ち悪い」
央華はわざと不機嫌なふりをして言った。董星が考え事をしていたので、央華は少しすねていた。
建物の裏まで来ると、ゴザの上に穀物を広げ、中に紛れた虫を追い出している所だった。一人の働き女が、鳥たちが来ないようそれを見張っている。
央華が女に呼びかけると、女は柱の台石に腰かけたまま、くわえタバコで振り返った。蓉杏だ。
蓉杏は本来の仕事は炊事場の働き女で、央華の世話を焼く方がおまけだった。
彼女は意外と気楽に生活をしているようで、人が見ていない場所ではぞんざいな口調だし、神殿で禁じられているタバコは、わざわざ自分で作って呑んでいた。
「董星の手を見て。蓉杏なら、何か分かるかと思って」
央華は董星の手をつかんで、蓉杏の方に突き出した。手を見る、ということは、蓉杏は占術の心得があるということだ。
董星は差し出した手を固くにぎったままでいた。今さら男であることを言われるとは思わないが、占いで自分の正体が暴かれるのではないかと、ためらい恐れていたからだ。
「よろしいですともよ」
蓉杏は言うと、座ってタバコをくわえたまま董星の拳に指で触れた。すると何の抵抗もなく董星の手は開いた。菫星は手を引っ込める機を逃した。
蓉杏は興味深そうに董星の手のひらを覗き込んだり董星の手に触ったりした。
「あなたも自分の事、知りたいでしょう。でも神殿で占いは禁止されているから、内緒ね」
央華が董星の耳元でささやいた。
蓉杏に手を見せたのは、董星が昔のことを思い出す、何か助けになればと考えてのことだった。央華なりに気を回してくれたわけだ。
董星は緊張して蓉杏の言葉を待った。