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流れる水の記憶  作者: 井中エルカ
第三章 幕引き

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第22話 策略(1)

 『今日、城壁の上から馬車を撃つのは知っていて、それを止めなかった』


 壮宇(そうう)の言葉に再び董星(とうせい)は目をみはった。

 壮宇は言うと、手振りで董星と央華(おうか)に座るようにすすめた。話せば長いということなのだろう。董星と央華は隣り合って床に腰を下ろした。二人の服の裾がわずかに重なった。



 事の始まりは、宮中の宴席だった。壮宇が旬進(しゅんしん)恵明(けいめい)の親密さをからかって言った。

 『仲睦まじいな。父娘というよりは、まるで恋人のようだな』


 言った方は軽い気持ちだったが、言われた方は顔を赤くして激昂した。

 壮宇はますます面白くなって旬進に言った。


 『違うというのなら、じゃあ、私がお前の娘の恋人になっても文句はあるまい?』


 最初は単なる冗談のつもりだったのだが、壮宇は恵明にすっかり夢中になってしまった。程なくして恵明は王子の愛妾として認知され、王子と共に東宮で暮らすようにになった。


『お戯れなのでしょう、お気が済んだのならば、娘をお返しください』

 

 何度も旬進は申し出たが、壮宇はそのたびに笑って首を横に振った。壮宇の気が変わらない知って、旬進のとった行動は早かった。


 壮宇には正式に王太子妃を迎える段取りをつけ、国王や十王府(じゅうおうふ)を納得させた。それで、正式な妃が来るのに愛妾が先にいてはまずいから、恵明を東宮から追い出せ、と壮宇にせまった。追い出された恵明の行く先は、実家である旬進の元しかない。

 そうやってまで、旬進は恵明を取り戻そうとした。


『なぜそこまでして?』

『おそらく妬みからでしょう』

 董星の質問に答えたのは恵明だった。

 

 恵明は顔を伏せた。しかし声ははっきりと言葉を結んだ。


『私は旬進様の実の娘ではなくて養女です。お嬢様をなくされて、その身代わりに私を引き取ったのだと聞いております。いつの頃からか私は旬進様と(よしみ)を通じるようになりまして、……旬進様も、私と殿下の仲が長く続くとは思っていなかったようなのですが……』

『もとは自分の女だったのに、という思いがあるんだろう。取られたと思うと、人は悔しがるものさ』

『殿下、口の悪い』

『ははは……』

 恵明にたしなめられて壮宇は屈託なく笑った。


 董星は仲の良い二人の様子を、好ましいものに感じた。央華の方を見ると、彼女も王太子とその恋人に対して、悪くは思っていないようだった。

 しかし、央華は王太子妃となるために宮中に呼ばれたわけで……。

 董星が気まずさを感じて目を伏せると、央華は気にするなとでもいうように首を振り、董星に向かって笑みを作ってみせた。



 壮宇の話は続いた。


 愛妾を実家に帰せという、旬進と十王府からの圧力は日に日に強く、昼の間一人過ごす恵明の身が脅かされるまでになった。公にはされなかったが、実際に恵明の身にあわやという事もあり、後ろで旬進が糸を引いていることも分かった。


 それならばと、ある日、壮宇は旬進に告げた。

 恵明は実家に返す。王太子の馬車で送り届ける。


 それを聞いた旬進の目がぎらりと光った。それを見て壮宇は確信した。もはや旬進が恵明を許すつもりがないことを。

 旬進の恨みは強い。ならば、その恨みを晴らす好機を作ってやろうと壮宇は計略を練った。わざと旬進に恵明を狙わせて、その黒幕として旬進を捕えてやろう。


 恵明を実家に送る馬車は、通行が制限されている柏月門(はくげつもん)から出て、赤影門(せきえいもん)を通って市外に出ると決められた。すると、間者により旬進の計画が明らかになる。旬進は城壁工事の事故に見せかけ、恵明を乗った馬車もろとも打ち殺すつもりだ。

 それならば、誰も乗らない空の馬車を走らせ、それを撃たせよう。自分たちは後から証人としてその馬車を追えばよい。壮宇はそう考えた。


 なおも壮宇には懸念があった。恵明を送るのは王太子の馬車だが、それに似た馬車が他にも存在する。


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