表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流れる水の記憶  作者: 井中エルカ
第二章 再会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/29

第19話 隠し通路

 央華(おうか)は声を大きくした。祭壇の方向に向かって、まるでそこにいる誰かに話しかけているかのようだった。

「私が王太子殿下に呼ばれたのは東宮の南にある祭壇の間でね、いつまでたっても殿下がお出ましにならないものだから、室内を歩き回っていて、それで祭壇の下に地下通路へと続く階段を見つけた。そして地下通路を歩いているうちにここに出た。これであなたの質問に答えているかしら、董星(とうせい)殿下?」

「十分だよ」

 董星は答えた。でも彼女の話がそれで終わりではないことは容易に想像がついた。


 央華は祭壇の横を通って奥にある掛け軸に近づいた。董星も何気なく彼女の背を追って歩いた。

「……地下通路を歩いているうちに気が付いたのは、途中で道が合流していて、同じ道をついさっき、私よりも先に通った人があること。その人たちはもっと北の方からやっ来て、確かにここにたどり着いている。でも姿が見えない。もし二人で隠れているのだとしたら、ふさわしい場所は……」


「央華!」

 董星が叫んで央華を引き寄せるのと、壁の掛け軸が吹き飛んで転がるのが同時だった。風を切る音がし、董星はとっさにつかんだ燭台でそれを受け止めた。

「正解だ」

 そう言って、掛け軸の裏側からは剣を握った壮宇(そうう)が現れた。


 もう一度壮宇が剣を振り下ろし、董星が力を込めて打ち返すと、剣は壮宇の手を離れて転がった。董星は床から素早くそれを拾って構えた。

 剣を手にして董星ははっとなった。かつては董星の父も腰に下げていた剣。その剣は王太子の証、それ以外の者が手を触れることは許されない。


 董星が壮宇の顔を見ると、彼はにやりと笑って腰から何かを外し、董星の足元に投げた。剣の鞘だった。床板に重い音と振動が響いた。

 「お前のものだ、持っていけ」

 言うなり、壮宇は床に腰を下ろして胡坐をかいた。壁の方からもう一人、隠れていた女が走って近づいたのを壮宇は手で制した。女は恵明(けいめい)だった。彼女も壮宇の隣に並んで膝を折って座った。

 董星は床の上の鞘と壮宇との顔とを順に見た。


 央華が動いた。剣の鞘を拾い上げると両手で董星に差し出した。

「剣をおさめて。神殿で振り回すのは、とてもよくない」

「わかった」

 董星は鞘をつかむと剣を収めた。壮宇の真意を計りかねて彼をにらみつけた。


 壮宇は笑っていた。恵明に何かをささやいた後で、再び董星の方を向いて言った。

「その剣が何か、知っているな」

 壮宇に言われて董星は鞘と剣とを握りなおした。ずっしりとした感触が伝わった。


「さっきも言った通りだ、お前が王太子をやれ」

「何を……?」

「私は王には向かぬ。今回のことは私と恵明とで(はか)ったのだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ