第19話 隠し通路
央華は声を大きくした。祭壇の方向に向かって、まるでそこにいる誰かに話しかけているかのようだった。
「私が王太子殿下に呼ばれたのは東宮の南にある祭壇の間でね、いつまでたっても殿下がお出ましにならないものだから、室内を歩き回っていて、それで祭壇の下に地下通路へと続く階段を見つけた。そして地下通路を歩いているうちにここに出た。これであなたの質問に答えているかしら、董星殿下?」
「十分だよ」
董星は答えた。でも彼女の話がそれで終わりではないことは容易に想像がついた。
央華は祭壇の横を通って奥にある掛け軸に近づいた。董星も何気なく彼女の背を追って歩いた。
「……地下通路を歩いているうちに気が付いたのは、途中で道が合流していて、同じ道をついさっき、私よりも先に通った人があること。その人たちはもっと北の方からやっ来て、確かにここにたどり着いている。でも姿が見えない。もし二人で隠れているのだとしたら、ふさわしい場所は……」
「央華!」
董星が叫んで央華を引き寄せるのと、壁の掛け軸が吹き飛んで転がるのが同時だった。風を切る音がし、董星はとっさにつかんだ燭台でそれを受け止めた。
「正解だ」
そう言って、掛け軸の裏側からは剣を握った壮宇が現れた。
もう一度壮宇が剣を振り下ろし、董星が力を込めて打ち返すと、剣は壮宇の手を離れて転がった。董星は床から素早くそれを拾って構えた。
剣を手にして董星ははっとなった。かつては董星の父も腰に下げていた剣。その剣は王太子の証、それ以外の者が手を触れることは許されない。
董星が壮宇の顔を見ると、彼はにやりと笑って腰から何かを外し、董星の足元に投げた。剣の鞘だった。床板に重い音と振動が響いた。
「お前のものだ、持っていけ」
言うなり、壮宇は床に腰を下ろして胡坐をかいた。壁の方からもう一人、隠れていた女が走って近づいたのを壮宇は手で制した。女は恵明だった。彼女も壮宇の隣に並んで膝を折って座った。
董星は床の上の鞘と壮宇との顔とを順に見た。
央華が動いた。剣の鞘を拾い上げると両手で董星に差し出した。
「剣をおさめて。神殿で振り回すのは、とてもよくない」
「わかった」
董星は鞘をつかむと剣を収めた。壮宇の真意を計りかねて彼をにらみつけた。
壮宇は笑っていた。恵明に何かをささやいた後で、再び董星の方を向いて言った。
「その剣が何か、知っているな」
壮宇に言われて董星は鞘と剣とを握りなおした。ずっしりとした感触が伝わった。
「さっきも言った通りだ、お前が王太子をやれ」
「何を……?」
「私は王には向かぬ。今回のことは私と恵明とで謀ったのだ」




