第17話 気づき
「央華、どうしてここに。王太子は一緒か?」
「いいえ、私一人よ」
「一人?」
「私、神官なのよ。神官が神殿にいても、何の問題ないわ」
「そうだった、思い出したよ。修行がものすごく、大変そうだった」
董星が微笑んで、央華もつられて笑った。
「そんなこともあったわね」
紫煙殿にいた時、央華は見習い神官をしていた。董星は央華に付き合って修練に出たこともあった。修練を終えて、晴れて女神官になったということらしい。
央華は言葉を続けた。
「あなたと別れた後、いろいろと人の話を聞いてね、それであなたの正体がなんとなく分かった」
「俺も、自分からは男だと言い出せなかった」
「まあ、あの状況じゃあ無理だったわね」
「悪かったよ」
「いいの。でも、厳しい修練も、あなたに会った後では、ちっとも辛くなくなったのよ」
「それは俺も同じかな……」
十日足らずのわずかな期間ではあったが、紫煙殿での経験がそれまでの董星の意識を一変させた。年相応に董星とふざけあっていた央華も、修練の最中は真剣だった。彼女には負けたくないという思いがその後の董星を奮い立たせた。
「あなたのお母上もそうだったのね……王の妃で国の祭祀をつかさどる神官だった」
央華に見つめられて、董星も彼女の目を見つめ返してうなずいた。
そうなのだ。董星の母も、そうだった。そして央華もこの後王太子妃に、ゆくゆくは王妃で国の神官という立場になろうとしている。
次の王太子の母となり養育をするのは、きっと壮宇が連れていた恵明という女がつとめるのだろう。
待てよ。
董星は突然気づいた。
なぜ央華ではなくて恵明だと思ったのだろう。ごく自然と、自分がそう思ったのはどうしてだろう。
王妃ではなくて、愛妾の子が王太子になるのが、当然のことだと?
董星が顔を上げるといつのまにか二人の距離は近かった。董星は少し戸惑った。
彼女は義兄の妻となる人だ。これ以上親しくするのは、彼女のためにもよくない。
しかし、董星が一歩後ろに下がると、その分央華が前に出て間合いを詰めるので、二人の近さは全く変わらなかった。
央華がさらに何かを言いかけたその時、
「董星様!」
鋭い声が董星を呼んだ。階下にいる高人だ。
続いて知らない男の声が怒鳴った。
「失礼いたします、そちらにいらっしゃるのは壮宇殿下ではありませんか」
央華が目配せをし、董星は立ち上がって急いで表に出た。
神殿の階下に、ひれ伏している者の数が増えている。
董星は答えて言った。
「董星だ。王太子殿下はここにはいらっしゃらない」
先ほど神殿の奥に向かって怒鳴った男は、よりいっそう頭を低くた。
「ご無礼をお許しください。先ほどより壮宇殿下のお姿が見えず、こちらに馬車が行くのを見た者があったものですから」
「構わない。壮宇殿下にお会いすることがあれば、私からも伝えよう」
「恐れ入ります」
男は再度頭を下げ、董星を神殿に案内した遣いの男と示し合わせて立ち上がった。
二人は門のところに待たせてあった馬に乗ると急ぎ走り去った。




