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流れる水の記憶  作者: 井中エルカ
第二章 再会

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第17話 気づき

央華(おうか)、どうしてここに。王太子は一緒か?」

「いいえ、私一人よ」

「一人?」

「私、神官なのよ。神官が神殿にいても、何の問題ないわ」

「そうだった、思い出したよ。修行がものすごく、大変そうだった」

 董星(とうせい)が微笑んで、央華もつられて笑った。

「そんなこともあったわね」


 紫煙殿(しえんでん)にいた時、央華は見習い神官をしていた。董星は央華に付き合って修練に出たこともあった。修練を終えて、晴れて女神官になったということらしい。


 央華は言葉を続けた。

「あなたと別れた後、いろいろと人の話を聞いてね、それであなたの正体がなんとなく分かった」

「俺も、自分からは男だと言い出せなかった」

「まあ、あの状況じゃあ無理だったわね」

「悪かったよ」

「いいの。でも、厳しい修練も、あなたに会った後では、ちっとも辛くなくなったのよ」

「それは俺も同じかな……」


 十日足らずのわずかな期間ではあったが、紫煙殿での経験がそれまでの董星の意識を一変させた。年相応に董星とふざけあっていた央華も、修練の最中は真剣だった。彼女には負けたくないという思いがその後の董星を奮い立たせた。


「あなたのお母上もそうだったのね……王の妃で国の祭祀をつかさどる神官だった」


 央華に見つめられて、董星も彼女の目を見つめ返してうなずいた。

 そうなのだ。董星の母も、そうだった。そして央華もこの後王太子妃に、ゆくゆくは王妃で国の神官という立場になろうとしている。

 次の王太子の母となり養育をするのは、きっと壮宇(そうう)が連れていた恵明(けいめい)という女がつとめるのだろう。


 待てよ。

 董星は突然気づいた。


 なぜ央華ではなくて恵明だと思ったのだろう。ごく自然と、自分がそう思ったのはどうしてだろう。

 王妃ではなくて、愛妾の子が王太子になるのが、当然のことだと?


 董星が顔を上げるといつのまにか二人の距離は近かった。董星は少し戸惑った。

 彼女は義兄の妻となる人だ。これ以上親しくするのは、彼女のためにもよくない。

 しかし、董星が一歩後ろに下がると、その分央華が前に出て間合いを詰めるので、二人の近さは全く変わらなかった。


 央華がさらに何かを言いかけたその時、

「董星様!」

 鋭い声が董星を呼んだ。階下にいる高人(こうじん)だ。

 続いて知らない男の声が怒鳴った。

「失礼いたします、そちらにいらっしゃるのは壮宇殿下ではありませんか」


 央華が目配せをし、董星は立ち上がって急いで表に出た。

 神殿の階下に、ひれ伏している者の数が増えている。


 董星は答えて言った。

「董星だ。王太子殿下はここにはいらっしゃらない」


 先ほど神殿の奥に向かって怒鳴った男は、よりいっそう頭を低くた。

「ご無礼をお許しください。先ほどより壮宇殿下のお姿が見えず、こちらに馬車が行くのを見た者があったものですから」

「構わない。壮宇殿下にお会いすることがあれば、私からも伝えよう」

「恐れ入ります」

 男は再度頭を下げ、董星を神殿に案内した遣いの男と示し合わせて立ち上がった。

 二人は門のところに待たせてあった馬に乗ると急ぎ走り去った。


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