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流れる水の記憶  作者: 井中エルカ
第二章 再会

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第15話 別の道

 指揮官の女が駆け寄って董星(とうせい)の前に立った。彼女は言った。

「あなた方の馬車は無事でよかった。事故で私たちの馬車は壊れたが、幸い、けが人は出なかった」

「……」


 董星は何も言わずにただじっと女の顔を見た。指揮官の女の方も、何かを言いたそうに、しかし口を閉ざして董星を見つめた。


 女たちは最初から事故の用心で、馬車には誰も乗っていなかったということか。

 壮宇(そうう)は言ったのだ。壊れた馬車に乗っていたのは、王太子の妃か、それとも義弟か。

 義弟というのは自分のことだ。もし先に赤影門(せきえいもん)に向かっていたのが自分の馬車であったならば、やはり同じような目に合っただろうか?

 そして、王太子の妃というのが、壊れた馬車に乗っていたかもしれない人物ということだ……。


 今度は侍女が、大きな声で指揮官の女に対して呼びかけた。

央華(おうか)様、」

 央華と呼ばれたその名が、董星の耳を打った。

「その方にはその方の馬車がお有りだ。お礼を申し上げて、我々は先に参りましょう」


 ここからは別の道となります。

 言葉には出さないが、蓉杏(ようきょう)の、董星と央華を見る目がそう言っていた。


「王太子妃殿下?」

 董星が尋ねると央華は首を振った。彼女はとたんに打ち解けた口調になった。まるで四年前に戻ったようだった。

「まだ東宮に呼ばれただけ。でも明日にはそうなる。そういうあなたも董星王子ね?」

「今日から、そういうことになったみたいだ」

 董星は世から隠された王子として、山中での離宮暮らしが長かった。それでこの答えは彼の本心でもあった。


 董星の答えに央華はふふふと笑った。

「今日から、と言うのは、嘘ね」

「でも俺が呼ばれたのは王宮の本殿ではなくて十王府(じゅうおうふ)だ、これは本当だよ」

「信じるわよ。ね、最後に会えてよかった」

「うん……」

「お元気で。十王府で、出世なさって」

「……」

 董星は央華にかける言葉が見つからなかった。単純に、君も、と言うわけにはいかなかった。

 壮宇は公然と恵明(けいめい)という女を連れていた。央華が王太子妃という立場で迎えられるとしても、この先、あの女が央華の行く手に立ちふさがることだろう。



 央華は董星の隣をすり抜けて蓉杏の隣に戻った。それから馬上の人となり、自分の隊列を指揮すると赤影門を超えた。

 董星も自分の馬車と隊列との先頭に立ち、門の内に入った。


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