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流れる水の記憶  作者: 井中エルカ
第二章 再会

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第14話 王太子の馬車

 男は屈託のない声で続けた。

「落石の中を走り抜けるのは、滅多にない趣向であった。恵明(けいめい)、お前もそうだろう」


 馬車にはもう一人、恵明と呼ばれた女が乗っているようであった。その人物の袖だけが見えた。

 先に降りた男は女の手を引いて馬車から降ろそうとしているようだが、女は降りることを拒否し、袖は馬車の中に引っ込んだ。


「お前は下りないのか、まあいい。ところで、城壁の責任者は、誰だ」

「は、恐れながら……様であります」


 問われて兵長が、一人の名を口にした。董星(とうせい)の知らない名だ。


「そうか、それは気の毒に。恵明、お前もな」

 気の毒に、というのは、落石の責任を問われ、厳罰は免れない、ということを言っているらしい。しかし、それが恵明という女とどいういう関わりがあるのか、董星には分からなかった。


 董星は上目遣いに男を観察した。男の特徴的な衣装が目に付く。それに尊大な態度。

 もしかして彼は……。


 男はぐるりと、ひれ伏している者どもを見渡し、誰に向かうでもなく言い放った。

「ところで、壊れた馬車に乗っていたのは私の(きさき)だったかな、それとも義弟だったかな……まあどちらでもよい、生きていれば今宵、宮中神殿に来るよう申し付けよ。話がある」

 これに対して、兵長が頭を地面にこすり付けたままで答えた。

「御意にございます、壮宇(そうう)殿下」

 

 やはり。この男の名は壮宇、王太子で次の国王、董星の義理の兄、だ。


「話は以上だ。私は東宮に帰る」

 男は宣言すると、さっさと馬車に乗り込んだ。豪奢な馬車は赤影門をくぐって王宮内へ入った。行き先は東宮、王の住まいの東側にある王太子の宮殿。壮宇自身がそう命じたのだ。



 落石のあった道を通って、続いて一台の馬車と騎馬の列が赤影門(せきえいもん)に到着した。もともとの董星の馬車と騎馬隊だった。

 この馬車は女たちの馬車に車輪を譲ったが、首尾よく途中でその代わりを調達した。それで女たちと先行していた董星に追いついて目的地まで到着することができたというわけだ。


 董星は到着した馬車を見つめて、今日出会った三台の馬車がいずれもよく似ていることに気づいた。


 当然のことながら、王太子の乗り物として一番豪奢なのは壮宇の馬車。次は、落石で破壊された女の馬車。なかなかに美しい装飾だった。そして、質素に見えながらも品の良さを感じさせる自分の馬車。

 飾りだけを見れば全く異なるが、馬車の箱の形、基軸や車の部分はほぼ同じと見えた。同じ所有者が、同じ職人に作らせたと考えるのが自然だろう。


「董星様、我々の馬車も追いつきました」

 高人(こうじん)ははっきりと大きな声で董星に呼びかけた。その声で、少し離れたところにいた指揮官の女が振り返った。

「ああ、……思ったよりも早かったな」

 董星は小さな声でつぶやいた。彼の頭は必死に考えを巡らせていた。


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