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流れる水の記憶  作者: 井中エルカ
第一章 出会い
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第1話 目覚め

「ねえねえ、あなたはなぜ、男の子の格好をしていたの?」

 そう呼びかけられて董星(とうせい)は目を開けた。

 天幕のついた寝台。傍らには小さな女の子。

 びっくりして飛び起きようとしたが、上半身を起こしたところまでしか身体が動かなかった。頭がくらくらとして目まいがする。

「昨日からずっと寝てたの。急に起きちゃだめよ。もう少し休んでないと」

 女の子が近づいて来て董星の頭をなでた。

 董星はぎゅっと目を閉じて、今度はおそるおそる目を開ける。夢ではない。

「えっと、俺……?」

 言いかけて董星は口をつぐんだ。自分の服の、ひらひらとした袖が目に入ったからだ。


 頭を下げて胸元の合わせを確認すると、やはり女物の服だった。

 自分の服はどこへ行ってしまったのか。男の自分がなぜ女の格好をしているのか。

 そして、ここはどこだ……?


 助けを求めるように女の子の方を見ると、女の子はにっこりと笑って言った。

「あなたの目が覚めたって、知らせてくるね」



 すぐに女の子は戻って来た。別の若い女と一緒だった。

 女の子は連れて来た女の後ろに隠れて、ちょこちょこと顔を出しながら董星の様子をうかがった。

 やって来た女は董星よりも少し年上くらいか。彼女を見たとき、天女のように美しい人だと、董星は思った。

 

 天女の瞳がぎらりと光った。彼女は美しい声で、しかし厳しく董星を追及した。

「自分の名前はわかりますか?」

「と、董星……」

「私は央華(おうか)よ」

 横から女の子が口を出し、言い終わるとまた女の後ろに隠れた。

「年は?」

「十二歳です」

 董星が答えると、また女の子が顔を出して言った。

「私は十歳。年の近いお姉さんが来てくれて、うれしいの」

「お姉さん……」

 董星は口の中で女の子が言った言葉を繰り返した。


 反応を迷って董星が天女の顔を見たとき、天女は董星の疑問を断ち切るように宣言した。

「董星、あなたが女の子でよかった。この神殿は男子を受け入れないのです。もしあなたが男ならば『物忘れのお茶』を飲ませて即刻追放するところでした」

「……」

「でも安心なさい、あなたは好きなだけここにいて、帰りたいときにはいつでも帰ることができます」

 天女の言葉に、央華はうれしそうに両手を合わせた。

 董星は思わず天を見上げた。


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