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七色の魔女  作者: 夜鳴鳥
24/40

024_見捨てられない

 濁流となって森を飲み込み、迫りくる不定形の怪物。


 足もないというのに津波のような迫力で迫ってくるラプチャーを背にしながら、俺は死に物狂いで枯れ果てた『試しの浅林』を疾走する。


 何処へ向かっているかなど、考えている余裕はない。

 悍ましい追跡者から少しでも距離を取る為に、走りやすい川辺を下っていく。


 傷ついた全身が痛みを叫び、特に噛み傷のある左足はさっきから耐え難い激痛を訴えくる。長時間、森の中を彷徨い続けながら時々出会う危機に対して逃げたり、やり過ごしたり、極限状態でそんな事をやってきた俺の精神と体力は確かに消耗している。加えて今この瞬間の命を賭けた鬼ごっこ。

 もはや心も体も限界を迎えていた。


「はぁ、はぁ、く、はあ……ひぃ、はぁ……くっ!!」


 足が鉛のように重い。

 どれだけ激しく呼吸しても息苦しさが消えない。


 それでも必死に足だけは止めずに走り続ける。

 異世界に来てから何かと調子のいい俺の体は、限界を超えた酷使にも関わらず懸命に逃走を続けてくれている。


 人間一人背負っている状態だというのに、駆ける速度は高校で百メートル走をした時よりも速いと実感できるほど。

 過去一番でスピードは出ているのだ。


 ――なのに距離を離すどころか、背後の圧力が迫ってきている。


「はぁ、はぁ、――くそっ!!」


 追いつかれる。それを確信する。


 ラプチャーに捕まればヘルハウンドの時のようには済まない。

 木だろうが岩だろうが溶かして飲みこむ奴に捕まれば、肉片一つ残らない。触るだけで死が確定する。


 打開策を考えなくては。

 ――でも、頭が回らない。酸素が足りてない。


「は……く、はぁ! 一体、どうすれば!?」


「………………。……もう、いい。俺を……降ろせ」


 力ない弱々しい声が耳元で聞こえた。

 でも、その言葉には先ほどまでにはなかった意志の力が含まれていて、


「俺にはな……。家族が、何十人も……いんだ。親父が……とんだプレイボーイでな。お袋が四人、兄弟が……二十二人だぜ? へへ……、家の中が騒がしいのなんの……。…………だか、ら。一人くらい死んだって、跡取りには問題ねぇ……」


「……お前っ、何を言って!?」


「足手まといは……御免、だぜ。……死に場所くらい、え、選ばせろ……っ」


 赤毛の少年の様子を確認している余裕はない。

 しかし、見なくてもわかる。

 自分を降ろせばその分だけ軽くなって逃げやすくなる。そう理解してそして実際に提案する勇気。震える声音でありながらも気丈に振る舞う声からは、彼の決意が嫌というほど伝わってきた。


 俺は彼の事を何一つ知らない。ほぼ初対面だ。


 でもきっと良い奴なんだろうな。

 怖くてたまらないだろうに、土壇場でカッコつけやがる。そんな奴だ。


「――――無理だな」


 こんなところで死ねない。それはそうだ。

 俺が魔耶の呪いを解かなくちゃいけない。だから生きて彼女の元に帰る為に生き残る最善の選択をする必要がある。それもそうだ。


 ――でも。俺は弱くて、馬鹿で、どうしようもない未熟な奴だ。いつもいつも諦め続けて、頼り続けて、それが癖になっているしょうもない男。


 だからこそ、ここで彼を見捨るかどうかは分水嶺なんだ。

 俺が変われるかどうかは、ここの選択にかかっている。


 結局、ここで見捨ててしまえば俺は土壇場で諦める屑にしかなれない。今後、どんな重要な局面でも最後には諦めて楽な方に流れてしまう、そんなド屑だ。

 そんな奴が、どうやって魔耶を救ってやれるというのか?

 少し前にどんな困難でも諦めないと決めたばかりだろうに、舌の根の乾かぬ内に信念を曲げられない。


 そして何より俺の気持ちだ。


 彼は良い奴だ。絶対に見捨てたくない。


 俺はまだこいつの名前も知らない。趣味も、好きな食べ物も、どんな異性がタイプで、どんな夢を持っているのかも。何も――


「――お前はきっと良いクラスメイトになる。だから……」


 これからお前は、俺と魔耶の友達になる。

 なって欲しいんだ。


 だから――見捨てない。


 背後からの圧迫感が一層強くなる。粘性の汚塊が蠢く嫌な音がすぐ近くから聞こえ、ついにラプチャーが俺の元まで追いついた事を感覚で理解する。


 奴が形なき手を伸ばせば、もう捕まる。

 無慈悲な怪物は馬鹿な選択をした俺と赤毛の少年を飲み込み、骨の一欠けらまで溶かしつくして喰ってしまうだろう。

 ――打開策は最後まで思いつかなかった。

 逃れようのない未来は、もはや現実のものとしてこの身に降りかかる。


 俺の言葉足らずな発言に対して、赤毛の少年が何を思ったかはわからない。

 表情を伺う事はできず、返答も返しては来なかった。


 そんな彼の代わりに――



「――――虎太郎にして根性見せたじゃん」


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「魔耶っ!!??」


「『釣り人の捕糸よ、巻き取れ』!」


 走る俺に並走する形で箒を寄せた魔耶は、飛行しながら呪文を詠唱する。

 翳した魔耶の右手から紫紺の光で構成された縄が飛び出し、意志を持つような動きで瞬時に俺と少年を巻き取り、空中に持ち上げる。


「お、おお!?」


「この場で魔法は長く続かない! 掴まって!!」


 早くも消えかかる光の縄に瞠目し、赤毛の少年を手繰り寄せながら慌てて魔耶の右手に掴まる。

 視界の端に見えるラプチャーの威容。怪物がこちらに向かって覆い被さろうした紙一重のタイミングで、飛行速度が瞬時に加速して推進力に晒されながらもギリギリで汚泥の手を回避する。


 計三人を乗せた箒はそれでも確かな安定感を維持して、怪物の進行速度よりも速く飛翔して距離を稼ぐ。


 俺は魔耶の右手から箒の方に縋りつく位置を移動して、魔耶を見上げた。


「ここで彼を見捨てて、主人の顔に泥を塗るクソダサい使い魔だったら、問答無用で手前も見捨ててやろうかと思ったけど、杞憂に終わって良かったね」


「魔耶! どうしてここに!?」


「使い魔のピンチに駆けつけるのも有能な魔女の証でしょう? 騒がしい再会になっちゃったけど無事で良かった。――虎太郎」


「……ああ。魔耶も」


 半分振り返りながら笑みを見せる魔耶に、俺も嬉しくて笑顔を零す。

 結局、今回も魔耶に助けられてしまって情けない限りだが、それでもピンチで彼女が現れてくれた事に感謝の温もりと安心感が胸に去来する。


 自動車以上の速度で地上数メートルを飛翔する箒は、器用に木々を避けながら風を突き破って進んでいく。

 強風に煽られて風景が物凄い速度で移り変わっていく中、俺は捕まる箒に視線を落とす。


「――箒で飛べるんだな。初めて見たよ」


「日本じゃ箒に乗って空を飛ぶなんて、目立ちすぎて練習すらできないしね。今まで虎太郎には見せた事なかったけど、実は私、空を飛ぶのも結構得意なんだから」


「そうか。今度俺にも教えてくれよ。夢なんだ」


「ふふ。不器用な虎太郎が相手じゃあ教える側も大変だ。最初はバランスを取れずに箒から落ちて派手に転がるでしょうから、全身捻挫とたん瘤は覚悟してよね」


 慣れた会話のやり取り。

 打てば響くこの感じに、目の前の少女は本当に魔耶なんだなと実感する。


「…………。おい、ご歓談してる、場合じゃ……ねぇ」


 脇に抱えた赤毛の少年が呻くように口を開く。彼の視線は俺たちではなく背後から追ってくるラプチャーに向けられていた。


「……だんだんと、距離を……詰められているぞ」


「……!」


 少年の言葉の通り、箒の加速で十分な距離を取ったと思った筈だが、距離が再び縮まってきている。

 森を喰らいながら追いかけるラプチャーの追跡速度が上がっているというのもありそうだが、――何より、明らかに箒の飛行速度も段々と落ちてきていた。


「魔耶!? 追いつかれそうなんだけど!」


「私も全力で飛んでいるっての! でも、箒に注いだ魔力が六、七割は持ってかれている……っ! 私自身も枯渇が厳しいし、ちょっと辛いなぁこれ」


 言われて魔耶の顔を覗くと、余裕な表情を取り繕いながらも額に汗を浮かべていて、本調子ではない事が見て取れる。彼女もラプチャーの枯渇特性に当てられて、生命力や魔力を吸収されているようだった。


「不味い。このままだとミイラ取りがミイラになって、三人まとめてお陀仏だ!」


 自分の不甲斐なさに歯噛みしつつ吐き捨てると、魔耶が「心配しないで」と振り返って言う。


「私は闇雲に飛んでいるわけじゃない。指定のポイントまでラプチャーを引き付けつつ辿り着けばこいつを倒せる算段になっている! ――あと、約十秒。それだけあれば辿り着ける場所だけど……」


「――十秒も持ちそうにないな」


 迫りくる汚濁がすぐ傍まで来ている。

 ラプチャーは再びその不定形の体を持ち上げて、その塊から粘液をまき散らす触手を複数伸ばしてこちらを捕まえようとアクションを仕掛けてきた。


「しっかり掴まって!!」


 魔耶が声を張り上げると同時に、直線的な軌道で飛んでいた箒が触手を避ける挙動で蛇行飛行に切り替わる。


 上下左右から不意に襲い掛かる推進力に対して、振り落とされないように必死に箒にしがみついて耐える。触手を上手く避けれているのか確認する余裕もなく、右半身で箒にしがみ付いて、左腕で赤毛の少年を抱える。その二つにのみ意識を集中させる。


 天地がひっくり返るような感覚を味わっていると、偶然にも視界の真正面に入ってきたラプチャーの全容が急に大きく膨れ上がるのを見た。


 直感的にそれが覆い被さりの事前動作だと察する。

 触手の間隙を縫って回避はできても、隙間一つない覆い被さりはどうする事もできない。


 迫る最悪の結末に思考が凍り付く。


 それと同時に、赤毛の少年がぶつぶつと呟いているのを意識の端で捉えた。


「頼む! お願いだ……! 苦しいのはわかっている。でも……今一度、どうか……俺の意思に、こ、答えてくれ……っ!! 一度でいい……どうか、どう、か!」


 祈るように、願うように、少年の声が大きくなる。


「精霊よ……。万物に宿り司る、理の化身よ……。俺の意思に……答えてくれ。お願いだ……どうか、――――『助けてくれ!!!』」


 慟哭にも似た魂からの叫び。


 それは呪文ではなかった。彼自身は魔力切れで一切動けず、その言葉に魔の術理があったわけでもない。単なる懇願で、本来ならば虚しいだけの命乞い。


 現に、彼の叫びの直後は何も起こらなかった。

 眼前のラプチャーが震えながら大きくなる中、やはり恐怖から来た単なる悪足掻きだったのかと思った次の瞬間。


 ラプチャーの放つ不浄の瘴気を押しのけて、――風が吹いた。


 清涼な疾風が意志を持つかのように箒周辺に渦巻く。


 気のせいなのか、ほんの微かに耳元で何者かの声援が聞こえる。自らも枯渇で苦しみながら、それでも寵愛者を守る為に飛び込んできた意志持つ清風たちは、箒の穂先に集まってそれを押し上げる。


「――っ! 推進力が!」


 魔耶が驚いた様子で、速度を取り戻した箒を強く握る。


 精霊たちの献身によって箒は急加速を果たし、ラプチャーの覆い被さりを置き去りにしてあっと言う間に距離を離した。


 ラプチャーとの物理的な距離が離れたおかげで、魔力枯渇が少しマシになった箒は本来の性能に近づき、さらにぐんぐんと加速していく。

 箒の飛行能力と突風のブースト。その二つの組み合わせによってラプチャーの追跡をぶっちぎった俺たちは、次の瞬間、木々の開けた広い花畑に到達する。


 『朽ちぬ神代の森』にこんな場所があったのかと思考が一瞬逸れた瞬間。

 箒の急ブレーキに耐え切れず、そのまま空中に投げ出された。


「ごばふぅう――っっ!!」


 地面に激突しながらゴロゴロと転がって衝撃を逃がす。


 もちろん痛かったが、こんな事も三度目なので流石に慣れた俺は即座に立ち上がって周囲を見渡す。


 様々な花が咲き誇る森の奥地に隠された美しい花畑。その真ん中あたりで投げ出された俺は、すぐ近くに赤毛の少年が同じように地面に叩きつけられているのを見つけて、慌てて駆け寄る。


「無事か!? 生きてるか!!??」


「…………。俺は、このくらいじゃ……死なねぇ!」


 心強い事を言ってくれる少年に頷く。


 今来た方角に視線をやると、箒を停止させて飛び降りた魔耶が元々花畑の真ん中に立っていたローブ姿の女性に近づくところだった。


「……後はお任せしてよろしいですか?」


「ええ、ええ! ありがとう。とても助かったわぁ」


「いえ……。ではよろしくお願いいたします」


「はい、はい! 私にお任せなさいな。それにしても……ごめんなさいねぇ。我が校の生徒、それも新入生の貴女に私たちの不始末を手伝ってもらっちゃって」


 自身の身長より一回り大きい樹木の杖を持つ初老の女性は、人好きそうな笑顔を浮かべながら落ち着いた和む雰囲気で魔耶にお礼を言う。

 魔耶はそれに対して余計な口を挟む事なく、一礼して女性から距離を取る。


 粛々とした態度で接する魔耶を俺は意外な思いで見つめる。

 箒を携えてこっちに近づいた魔耶に疑問を向けた。


「あの人は?」


「――見てればわかる。それよりも……奴が来た」


 その言葉通り、大地が鳴くような轟音と共に地面が振動しながら、不定形の災害が追い付いてきた事を告げる。


 生気が抜けた木々の中から汚濁が勢いよく漏れ出て花畑を汚す。

 道中の自然をすべて枯れさせて平らげた粘液の濁流は、最初に目撃した時の何十倍もの体積となってその威容を示し、大洪水もかくやという有様ですべてを飲み込もうと迫り来る。


 伝染病が伝播するように枯れる花。その変化が波となって足元を伝わっていく中、相対する初老の女性は焦る様子もなくゆっくりと杖を向けて、


「『不浄に抗するは美の華壁。真に美しきものは穢れの中でも決して滅びない』」


 紡がれる呪文と共に、女性の足元に広がっていた枯れた花たちが蘇るように生気を取り戻すと、春風に巻き上げられるかのように花弁を放つ。


 無数の花弁が宙を舞い、色とりどりの花吹雪となってラプチャーを覆い囲う。


 不思議な事に、樹木も、岩も、地面すらも犯して飲み込んでいた汚泥が、なぜか花弁で構成された花吹雪を飲み込む事ができずに押し返される。


 浴槽にぶちまけたバケツの水のように、逃げ場をなくした大量の汚濁は円状に囲う花吹雪の中を激しく暴れまくる――が、花弁一つ犯せずに徐々に粘液が溢れ上がるように縦に伸びる。


「『万物流転は世の理。不滅のものはなく、有り得ぬ可能性もなし。塵は灰に、灰は土に、土は塵に。悉くは久しからず』」


 続く女性の詠唱にラプチャーの様子が変わる。


 声帯がないにも関わらず、如何なる方法か不快なサイレン音で絶叫する。

 不協和音が木霊して、見上げるほどの高さへとなった粘液の塊は、震え、藻掻き、懇願する。


 ラプチャーの様子を見ているのかいないのか。変わらぬ声音で呪文を唱え続ける女性は、掲げた杖が円を描くように回し、やがてピタリとある位置で停止する。


 杖から弱い光が一条に放たれ、怪物の中心を指し示す。


「『穢れは反転し、汝も三度に渡りて楽園に至る。歓喜の檻に囚われし者、見るがいい己の姿を――――――その美しき結晶を』」


 光の当たる粘液の箇所が、美しい色の結晶へと変化する。

 この世の全ての汚れをかき集めた如き不浄さを誇るラプチャーの体が、その中心点から光り輝く虹色の結晶へと変貌して広がっていく。

 ラプチャーが周囲を枯らしていたと同様の速度で、肉体を作り替えていく様は、荒れ狂う海が一瞬で凍りつくかのように圧倒的で抗いようのない神秘だった。


 自らが書き換えられていく中、怪物に成すすべはなかった。


 そうして、花吹雪に彩られた虹色の結晶オブジェがそこに誕生する。


 見る者の心に訴えかけてくる躍動的で美しいそれは、雲の隙間から差し込んだ夕日に照らされてキラキラと光り輝いてそこに在った。もはやラプチャーだった頃の面影は存在せず、この世で最も穢れた生物は最も美しいオブジェになるという皮肉をもって調伏された。


 それを成した魔女以外のその場にいた全ての者が呆然とする。


 一仕事終わったと言う風に、女性はこちらに振り返ってニコニコと笑いながら、


「うん、うん! 後は若い先生方に任せましょうかね。私はこれにて失礼しますよ。何かわからない事があったらレナード先生に聞いてちょうだいね」


 そう言って、空を飛ぶでも光となって消えるでもなく、トコトコと二つの足を使って帰っていく初老の女性。恐るべき怪物を調伏した偉業を誇るでもなく謙遜するでもなく、少々面倒な問題を一つ片づけた程度の反応で対応する姿から、女性が真に只者ではない事を理解する。


 あの速度で歩いていくと学校に着くまでに日が暮れるんじゃと心配していると、魔耶が感心した様子で手を叩く。


「流石はグラズヘイム魔法学校の現校長。やっぱり現状の私たちなんかとはレベルが違うね」


「――ええ!? 校長!!??」


 魔耶の発言に度肝を抜かれる。

 あの人の好さそうなおばちゃんが名門魔法学校の校長なのか!?


「そ! 『千人張りの魔女』ことリーベル・シェヘラロッテと言えば、グラズヘイム魔法学校の校長として誰でも名前くらいは知ってて当然。その異名は文字通り、一流の魔女千人分の実力を持つと評価されているところから来ている。――彼女は正真正銘、伝説級の大魔女なのよ」


 近くで伝説の魔女の戦いぶりを見る事ができた為か、上機嫌な様子の魔耶。

 駆け足でその場を離れたかと思うと、結晶となったラプチャーに近づいて眺めたり叩いたりして観察する魔耶。またいつもの学者気質の悪い癖がでているようだ。

 学術的な興味かは知らないけど、危険だからあんまり近づいてほしくないな。


 珍しくはしゃぐ魔耶を見ながら、その場に腰を下ろす。


 今日はもう疲れた。全身ボロボロでクタクタ。落ち着ける場所で夕飯を食べたらそのまま寝たい気分だった。


「…………悪いけど、起こしてくれねぇか? 疲れたからって寝ているだけじゃ時間を無駄にしちまう」


「そのまま寝とけばいいのに」


 地面に転がる赤毛の少年に手を貸して上半身をを起こしてやる。

 その後、体の調子を確かめる彼に対して、


「――俺は白瀬虎太郎。君は?」


「あ?」


「名前だよ名前。何て言うの?」


 試験がどうなったかは知らないが、合格結果の関係なしにこいつとは仲良くなりたいな、とそんな何気ない思いで俺は名を尋ねる。


 今聞く事かと、呆れたような表情をする赤毛の少年だったが、「ハッ」と野性味のある力強い笑い声を上げて、


「アベルだ。アベル・ボルトルト。これからよろしくな――親友」


 と、調子を取り戻した様子でそう言った。

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