8.クイっ(アクションスターの真似)
テロリスト:《走り回る音と荒い呼吸音》こ、のヤロウ!
速馬:《走り回る音と息遣い》ふっ……ふっ……はっ
俺は目の前のテロリストから逃げるのに集中した。
奴は俺が化学室から出にくいようにドアを閉め、簡易の内鍵を閉めたが、こちらだって望むところだ。
俺の足の速さでは、大人相手、それもテロリストのような体力のある男性の成人相手では、廊下に出た時点でゲームオーバーだろう。
俺の利は体が普通サイズより若干小さ目な事。
それと逃げ足を支えている先読み能力だ。
それが生かせるココ、化学室にいる事が俺にとって最大の実力が発揮できる場所のハズ……。
迫ってくる、テロリストの男と俺は化学室の実験机を挟むように対峙する。
奴は持っていたアーミーナイフを何処かにしまい、俺を捕まえる体勢になった。
実験机の上には、化学室用の足がパイプ状の丸椅子が並んでいる。
テロリストはおもむろに丸椅子を一つ掴んで、俺に向かって投げつけてきた。
《椅子がぶつかる音》ガシャーーーン!
これは威嚇と同時に、俺の逃げる方向を塞ぐ目的があるのは見抜いた。
あえて避けずに、こっちも椅子を持つ。
投げられた椅子を防ぎながら教室の隅から脱出する。
テロリスト:《走り回る音と荒い呼吸音》す、ばしっこいな、テメー!
速馬:《走り回る音と息遣い》ふっ……はっ……ほっ
今度は、別の隅で実験机を挟むシチュエーション。
奴はパターンを変えてきた。
椅子を蹴散らしながら実験机の上に飛び乗る。
《実験机の上に飛び乗る音》ダンっ!
その瞬間を見計らって、俺は逃げようとするが、奴はそのまま机の上を移動してきた。
《実験机の上を走る音》ダッダッダッっ!!
まさに俺の首にやつの手が達しようとした時、
しかし、俺は机の下に潜り込み、
向こう側にすり抜ける事に成功した。
テロリスト:《かなり荒い呼吸音》ぶはーっ、ぶはーっ、て、てめぇ……!
速馬:《軽い呼吸音》ふっ……ほっ……ふぅ
テロリストの顔が相当悔しそうに歪む……その時だ。
奴の背後を音楽室の方から人影が3つ静かに移動していくのを確認できた。
――よし、もう少し頑張ろう。
俺はテロリストが後ろを振り返らないように、映画のアクションスターの真似で、クイっと手招きをしてみせた。
ニヤ、とした表情まで作れたら良かったのだが、羞恥心が勝って、そこまでは出来ない……
テロリスト:《かなり荒い呼吸音》……ぶはっ……ガキがっ……捕まえてぶっ殺す……!
それでも奴は俺に怒りの表情を見せてくれた。