7.アンタ、使えなさすぎね
さて、黒の目出し帽を被ったテロリストが一人、窓ガラスから三人の隠れている音楽室をのぞき込んでいる。
武器は何を持ってるのかな、っと。
俺は、出来るだけ音を立てないようにしていたが、ある地点で、
《上履きの音》キュッ
っと音を立ててしまった。
……決してワザとではないぞ?
テロリストがこっちに顔を向けたと同時に、俺は隣の化学室に飛び込んだ。
テロリストも俺を追いかけて化学室に入ってくる。
《速馬の走る音》タタタッ
《テロリストが追ってくる音》ダダダッ バタンッ
黒板側の入り口にテロリスト。
対角線上の角、化学室の後ろの窓側の角に俺。
――敵は、武器は大ぶりなアーミーナイフだけを手にしている。
テロリストは一言も喋らずに、威圧感を発しながら俺の方に向かってくる。
――久々のリアルの鬼ごっこだ。
俺はいつまで逃げられるだろうか。
どうせ最後は捕まると思うが、出来るだけ時間を稼ぎたい……。
すぐ隣の教室に白イン――白百合が隠れている所為だろうか。
彼女とクラスの連中に『逃げるだけの男』『クラスメート失格』の烙印を押されてしまったあの日の事をつい思い出してしまった。
……
――あの日、『ガバヘ』のクラス対抗戦、俺はいつもの様にプレイした。
すなわち、『逃げ』のプレイに徹したのだ。
しかし、その日のルールは『最後まで生き残れぱ勝ち』ではなく、『敵を倒したポイント数』だった。
しかもリスポーン、つまり『生き返りルール』ありだ。
敵に倒されても時間が経てば何度でも生き返るルールの中、
敵を倒さずに逃げ回る俺は、
単純にクラスの皆の足を引っ張ってしまった。
俺も、頭では理解しているつもりだったのだが、実際には頭で理解しているようには行動出来なかった。
おそらく俺にとって『逃げる事』とは『生きる事』とイコールだったのだ。
普通だったら、クラス対抗戦で最下位になっても、それはそれでクラスの親睦になるはずだった。
だが、どうやら俺のゲームプレイの内容が、クラスメートにとって異質過ぎたらしく、クラスの雰囲気が最悪になってしまった……。
白イン(過去):アンタ、使えなさすぎね
速馬(過去):す、すま、ない……
あの時、白イン――白百合に言われたセリフは、今も俺の柔らかく傷付き易い心に刺さったままだ。
だが、彼女がそう言わなければ、クラスの中が1年間ずっとこの雰囲気のまま終わってしまっていたかもしれない。
そう考えると、きっと白百合の判断は間違っていなかったのだろう。
今回はどうする?
もちろん、俺に出来ることは逃げる事だけだ……。