6.あんま期待しないで
ここで、俺がどういう特性を持った人間かについて少し語っておこう。
自分で言うのも情けないが、全てにおいて少し、平均から劣っている。
勉強は中の下、容姿と身長は中の下、運動神経も中の下、足の速さも中の下、ゲームの腕も中の下……といったところだ。
何事においてもぱっとしない存在……。
それが俺という存在だ。
だがしかし、俺にはたったひとつだけ、誰にも負けない特技がある。
それが『逃げ足の速さ』だ。
速馬:足が速くないのに、逃げ足だけは速い
……矛盾しているように聞こえるだろうか。
ちなみに、自慢では無いが、『俺は子供時代に鬼ごっこで鬼に捕まった事が1度も無い』。
あ、自慢だった。
『ガバヘ』でも、『生き残る』ルールなら、常に上位の成績なのだ……。
……
俺は唯一知ってる、白イン――白百合のSNSに急ぎメッセージを送る。
速馬:『俺も逃げ遅れた そちらに逃げる』
そう。俺は逃げ遅れたのだ。
どうしてだろう。
こんな事、俺の人生で初めての事だ。
《スマホの通知音》ピロン♪
白イン(白百合):『はあ? 逃げるだけのアンタは足手まといだから、別のトコロに行って』
キッツい。
しかし、いつもよりはキツくない。
緊急事態だから、普段のようにキツく当たる余裕が無いのだろう。
俺は要点だけ打つ。
速馬:『俺はこれから音楽室の手前に隠れる』
速馬:『テロリストが俺を追いかけ始めたら』
速馬:『そっちの3名は逃げて』
送信、送信……と。
《スマホの通知音》ピロン♪
白イン:『なに? もしかして、アンタ助けに来るつもり?』
こういう時、女に説明するのって面倒臭いよね。
空気読んでくれないし、結構しつこい。
速馬:『いや逃げ遅れただけ あんま期待しないで』
送信、と……。