表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/183

第004話、我「ほんとうによろしいのですね?」



 焼き鳥代を無事手に入れた我、素晴らしき魔猫イエスタデイは塔を降り。

 女盗賊メザイアと共に、ギルドへ直行。

 冒険者殺しの被害に遭ったと、彼女は開口一番で訴えたのだが。


 受付娘が申し訳なさそうな顔で。


「大変申し上げにくいのですが、上級冒険者メザイアさん、あなたの冒険者ライセンスは現在停止中となっておりまして……その……」


 おそらく、先手を打たれていたのだろう。


「どうしてよ!」


 バンと机を叩く彼女。その音に周囲がこちらに気が付き、ヒソヒソヒソ。

 なにやらきな臭くなってきたのである。

 例の五人の情報を提出するメザイアが唸っていた。


「あたし、あいつらに殺されかけたのよ! なんでこっちが悪いみたいになってるのよ!」

「あなたの活躍も、あなたへの信頼もわたしは知っています。けれど……先にあなたへの、冒険者殺しの記録が提出されておりまして……上からも、国からも――ログに残っているのなら真実であろう、と」

「そんな! みんなはあたしを信じてくれないっていうの!」

「違います――!」


 受付娘が業務を捨てた顔で叫んだあと。

 ハッと自らでも驚き、声を整え静かに告げる。


「失礼しました――わたし個人としては、あなたを信じています。けれど、実際にあなたが爆弾を彼らに投げつけ、魔物を大量に呼び殺そうとしたログが残っておりますので、庇いきれない……というのが現状です」


 受付娘はくっと唇を噛み、本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

 ここでいうログとは、冒険者の行動をまとめた魔道具。

 たとえば我が蘇生の儀式を行えば、”蘇生のネコダンス”と記載され記録に残される。冒険中の行動全てが記載されている記録装置だろう。

 

 我も冒険者殺しにあった時の状況を、メザイアから聞いていた。

 彼女は最後の意趣返しに、魔物を呼んだ。

 それは事実なのだ。


 冒険者殺しとやらはそこだけを切り取り、ログとして報告したという事か。


 ゲスという奴だろう。

 どの種族でもゲスというのは悪知恵だけは働くというもの。

 ざっざっざっざと響く足音を聞き、我の耳がぴょこんと跳ねる。


 扉が開かれ、やってきたのは五人組。

 聞かずともわかる、女盗賊メザイアをはめた冒険者殺しであろう。

 メザイアが瞬時に飛んでいた。


 短刀を首元に突きつけられた、目つきの悪いリーダーっぽい賊が言う。


「おっと、おれを殺し損ねたからってここで殺そうってのか、メザイア。有名な女盗賊もそこまで落ちたとは、お笑い草だな」

「貴様――よくもぬけぬけと!」


 短刀の切っ先が、男の肌を斬っていた。

 乾いた鉄の香りが広がる。

 ……。


 ふむ、これは――。

 血の香りに違和感を覚えた我の横で、慌てて飛んできたのは受付の娘だった。


「やめてください、メザイアさん。どんな理由があろうと、ギルド内での私闘は厳禁だって、あなたなら知っているでしょう!」

「だって、こいつが!」

「おれがなんだって? 冒険者殺しのメザイア」


 わざわざ称号のように言い放ち、男は酒場を見渡し告げる。


「ほれ見ろ! おれの言った通りだろう!? こいつ、おれを殺そうとしているよなあ!?」

「それはあんたたちが、あたしを殺そうとしたから!」

「はぁ!? 殺そうとしたのはどっちだ。このアマ!」


 メザイアが言葉をつなげるより先に、男が女に顔を近づけ。

 げへりと真っ黒な顔で、舌を蠢かす。


「おれらがやったっていう、証拠でもあるのか、証拠が!」

「あたし自身がその証拠じゃない!」

「ちゃーんと生きてるじゃねえか。そっちは一人で、こっちは五人。証人の数はこっちが上なんじゃねえか? こっちはログにだって残ってる、てめえの負けだよ。せいぜい処刑されないうちに、この街から逃げるんだな」


 あひゃあひゃあひゃと、男たちの嘲笑が続く。

 ほぼ無関係な我ですらちょっとイラっとするのだから、当事者であるメザイアの心境は、おそらく穏やかなものではないだろう。

 その中で気丈にも前に出たのは、ギルドの受付娘だった。


「メザイアさん、今日のところはお引き取り下さい」

「こいつらじゃなくて、あたしに出て行けっていうの!?」

「お願いです……っ。わたしは、ギルド内で暴れたとして……あなたを捕縛したくないです」


 他の客はみな、見て見ぬふりである。

 我は酒場を見渡し。

 騒動に目が行っている間に、盗み食いが終わったので語り掛ける。


『で? 人間どもよ、誰もこのメザイアめを助けようとはせんのか?』


 しーんという音が聞こえた気がする。

 実に嘆かわしい。


「イエスタデイちゃん……無理よ。国やギルドに目をつけられると行動に制限がかかるもの」

『どっちが嘘を言っているかなど、ネコでなくともわかるであろうに』

「ログがあるから、無理よ……」

『確かに行動だけを切り取ればそうであろうが、その前の部分、おぬしが殺されそうになったログを提出すればよかろう』


 そうすればすべて解決すると思うが。

 受付娘が言う。


「冒険者殺しは奇襲する際、まず相手のログを記憶する記録クリスタルを破壊するんです。だからきっと、メザイアさんのは……」

『もうそこまで分かっているのなら、答え合わせなようなものであるのにのう』


 我は皆からの助けとなる声を探すが、反応はなし。

 唯一信じている、というかできる限りの味方をしているのは受付娘だけであるか。


『最後に問うぞ、人間達よ。ほんとうによいのか?』


 見捨てていいのか。

 そういう問いだ。

 しかし答えは変わらず。


『ふむ、人間という種族は群れとなって強固と化す種族と聞いておったが。なんとも噂とは違っていたのだな。つまらん、実につまらん。もはや我の癒しの手を授ける価値もない。もはや今更、詮無せんなき事か。もはや後から、申し訳なかったと言い出しても、我はそなたらと同じ対応をすることにしよう』


 もはや、もはや、もはや。


 ま、種族が違うのだ。

 人間の文化について、我がとやかく言う筋合いもなし。

 だが。


『受付娘よ、そなたの名は?』

「え? リリカですけど……」


 聞いた我は、肉球で魔術ペンを握り。

 アイテム収納空間から取り出した、魔法瓶にキュッキュッキュ♪

 りりか、と美麗な文字で書く。


『そなたにこれを授けておこう。そなた自身にしか使用できぬ故、譲渡はできんと心得よ』

「え? いや、えーとこれ、なんなんですか?」

『唯一、そなただけがこの者に味方した、その餞別である。もしもの話である。もしも、この後、街中になんらかの困りごとが発生し、どうしようもなくなったら飲んでみると良い』


 告げて我はくっちゃくっちゃと盗み食いしたグルメを飲み込み。

 腹をなでなで♪


『さて行くぞ、メザイアよ』

「え、ええ……あんたはあたしを……」

『当たり前であろう。死亡状態で転がっていたそなたを治したのは我ぞ? 証拠となる傷まで癒してしまったのは我の失態。しばし傍にいてやる。一人よりは悪くない筈であろうて』


 気遣いのできる我。

 とっても紳士である。


『ああ、ちなみにであるが。その魔法瓶の在庫はまだたくさんある。せいぜい乾いた血に気を付けることだな』


 ぶにゃーっはっはっは!

 我は傷心な女盗賊を連れて、堂々とギルドを後にしたのだった。


 坑道エリアに伝わる乾いた血。

 魔物の血を浴びた男の豪遊。

 並の司祭では治療できない感染病が発生し始めたのは、その二日後の事だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 悪役の5人、ギルドの受付嬢、その他大勢な冒険者達。役割が分かり易いですね。 更新が楽しみです。 [気になる点] 最終的には人間最強な終わり方は少し飽きて来ましたかね。 今作も楽しみにしてい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ