第004話、我「ほんとうによろしいのですね?」
焼き鳥代を無事手に入れた我、素晴らしき魔猫イエスタデイは塔を降り。
女盗賊メザイアと共に、ギルドへ直行。
冒険者殺しの被害に遭ったと、彼女は開口一番で訴えたのだが。
受付娘が申し訳なさそうな顔で。
「大変申し上げにくいのですが、上級冒険者メザイアさん、あなたの冒険者ライセンスは現在停止中となっておりまして……その……」
おそらく、先手を打たれていたのだろう。
「どうしてよ!」
バンと机を叩く彼女。その音に周囲がこちらに気が付き、ヒソヒソヒソ。
なにやらきな臭くなってきたのである。
例の五人の情報を提出するメザイアが唸っていた。
「あたし、あいつらに殺されかけたのよ! なんでこっちが悪いみたいになってるのよ!」
「あなたの活躍も、あなたへの信頼もわたしは知っています。けれど……先にあなたへの、冒険者殺しの記録が提出されておりまして……上からも、国からも――ログに残っているのなら真実であろう、と」
「そんな! みんなはあたしを信じてくれないっていうの!」
「違います――!」
受付娘が業務を捨てた顔で叫んだあと。
ハッと自らでも驚き、声を整え静かに告げる。
「失礼しました――わたし個人としては、あなたを信じています。けれど、実際にあなたが爆弾を彼らに投げつけ、魔物を大量に呼び殺そうとしたログが残っておりますので、庇いきれない……というのが現状です」
受付娘はくっと唇を噛み、本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
ここでいうログとは、冒険者の行動をまとめた魔道具。
たとえば我が蘇生の儀式を行えば、”蘇生のネコダンス”と記載され記録に残される。冒険中の行動全てが記載されている記録装置だろう。
我も冒険者殺しにあった時の状況を、メザイアから聞いていた。
彼女は最後の意趣返しに、魔物を呼んだ。
それは事実なのだ。
冒険者殺しとやらはそこだけを切り取り、ログとして報告したという事か。
ゲスという奴だろう。
どの種族でもゲスというのは悪知恵だけは働くというもの。
ざっざっざっざと響く足音を聞き、我の耳がぴょこんと跳ねる。
扉が開かれ、やってきたのは五人組。
聞かずともわかる、女盗賊メザイアをはめた冒険者殺しであろう。
メザイアが瞬時に飛んでいた。
短刀を首元に突きつけられた、目つきの悪いリーダーっぽい賊が言う。
「おっと、おれを殺し損ねたからってここで殺そうってのか、メザイア。有名な女盗賊もそこまで落ちたとは、お笑い草だな」
「貴様――よくもぬけぬけと!」
短刀の切っ先が、男の肌を斬っていた。
乾いた鉄の香りが広がる。
……。
ふむ、これは――。
血の香りに違和感を覚えた我の横で、慌てて飛んできたのは受付の娘だった。
「やめてください、メザイアさん。どんな理由があろうと、ギルド内での私闘は厳禁だって、あなたなら知っているでしょう!」
「だって、こいつが!」
「おれがなんだって? 冒険者殺しのメザイア」
わざわざ称号のように言い放ち、男は酒場を見渡し告げる。
「ほれ見ろ! おれの言った通りだろう!? こいつ、おれを殺そうとしているよなあ!?」
「それはあんたたちが、あたしを殺そうとしたから!」
「はぁ!? 殺そうとしたのはどっちだ。このアマ!」
メザイアが言葉をつなげるより先に、男が女に顔を近づけ。
げへりと真っ黒な顔で、舌を蠢かす。
「おれらがやったっていう、証拠でもあるのか、証拠が!」
「あたし自身がその証拠じゃない!」
「ちゃーんと生きてるじゃねえか。そっちは一人で、こっちは五人。証人の数はこっちが上なんじゃねえか? こっちはログにだって残ってる、てめえの負けだよ。せいぜい処刑されないうちに、この街から逃げるんだな」
あひゃあひゃあひゃと、男たちの嘲笑が続く。
ほぼ無関係な我ですらちょっとイラっとするのだから、当事者であるメザイアの心境は、おそらく穏やかなものではないだろう。
その中で気丈にも前に出たのは、ギルドの受付娘だった。
「メザイアさん、今日のところはお引き取り下さい」
「こいつらじゃなくて、あたしに出て行けっていうの!?」
「お願いです……っ。わたしは、ギルド内で暴れたとして……あなたを捕縛したくないです」
他の客はみな、見て見ぬふりである。
我は酒場を見渡し。
騒動に目が行っている間に、盗み食いが終わったので語り掛ける。
『で? 人間どもよ、誰もこのメザイアめを助けようとはせんのか?』
しーんという音が聞こえた気がする。
実に嘆かわしい。
「イエスタデイちゃん……無理よ。国やギルドに目をつけられると行動に制限がかかるもの」
『どっちが嘘を言っているかなど、ネコでなくともわかるであろうに』
「ログがあるから、無理よ……」
『確かに行動だけを切り取ればそうであろうが、その前の部分、おぬしが殺されそうになったログを提出すればよかろう』
そうすればすべて解決すると思うが。
受付娘が言う。
「冒険者殺しは奇襲する際、まず相手のログを記憶する記録クリスタルを破壊するんです。だからきっと、メザイアさんのは……」
『もうそこまで分かっているのなら、答え合わせなようなものであるのにのう』
我は皆からの助けとなる声を探すが、反応はなし。
唯一信じている、というかできる限りの味方をしているのは受付娘だけであるか。
『最後に問うぞ、人間達よ。ほんとうによいのか?』
見捨てていいのか。
そういう問いだ。
しかし答えは変わらず。
『ふむ、人間という種族は群れとなって強固と化す種族と聞いておったが。なんとも噂とは違っていたのだな。つまらん、実につまらん。もはや我の癒しの手を授ける価値もない。もはや今更、詮無き事か。もはや後から、申し訳なかったと言い出しても、我はそなたらと同じ対応をすることにしよう』
もはや、もはや、もはや。
ま、種族が違うのだ。
人間の文化について、我がとやかく言う筋合いもなし。
だが。
『受付娘よ、そなたの名は?』
「え? リリカですけど……」
聞いた我は、肉球で魔術ペンを握り。
アイテム収納空間から取り出した、魔法瓶にキュッキュッキュ♪
りりか、と美麗な文字で書く。
『そなたにこれを授けておこう。そなた自身にしか使用できぬ故、譲渡はできんと心得よ』
「え? いや、えーとこれ、なんなんですか?」
『唯一、そなただけがこの者に味方した、その餞別である。もしもの話である。もしも、この後、街中になんらかの困りごとが発生し、どうしようもなくなったら飲んでみると良い』
告げて我はくっちゃくっちゃと盗み食いしたグルメを飲み込み。
腹をなでなで♪
『さて行くぞ、メザイアよ』
「え、ええ……あんたはあたしを……」
『当たり前であろう。死亡状態で転がっていたそなたを治したのは我ぞ? 証拠となる傷まで癒してしまったのは我の失態。しばし傍にいてやる。一人よりは悪くない筈であろうて』
気遣いのできる我。
とっても紳士である。
『ああ、ちなみにであるが。その魔法瓶の在庫はまだたくさんある。せいぜい乾いた血に気を付けることだな』
ぶにゃーっはっはっは!
我は傷心な女盗賊を連れて、堂々とギルドを後にしたのだった。
坑道エリアに伝わる乾いた血。
魔物の血を浴びた男の豪遊。
並の司祭では治療できない感染病が発生し始めたのは、その二日後の事だった。