表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/183

第014話、冒険者殺しダイン【SIDE:魔女姫キジジ=ジキキ】


【SIDE:魔女姫キジジ=ジキキ ▽エリア:ヴェルザの街】


 剣聖と魔女姫の邂逅から、数日が過ぎていた。


 閑散とした街を歩く、どこか気品のある魔女帽子姿の冒険者。

 キジジ=ジキキ。

 もぬけの殻となっていた関所を抜け――。

 供の二人を連れた彼女がヴェルザの街へ到着したのは、一時間ほど前だった。


 疫病に苦しむ街を眺め終わった彼女は、供に宿屋の手配を任せているうちに別行動。

 一人で訪れたのは冒険者ギルド。

 依頼があったのである。

 彼女が真っ先に向かったのは、やはり人もまばらとなっている――受付カウンター。


 肘につやつやとした丸い頬を置き、はぁ……とため息をついている受付娘に向かい、魔女が言う。


「申し訳ありません、急ぎの依頼をお願いしたいのですが……よろしいですか?」

「はひ!? ご、ごめんなさい! すっかりぼうっとしていて、はい! いつでもどこでも、誰にでも! 当ギルド”ネコのあくび亭”では、お客様のご依頼が犯罪でない限りは、なんでもお受けいたしておりますよ!」


 空元気を浮かべる女性の胸のプレートに刻まれた名は、リリカ。

 肌に残る、寝そべっていた証拠の涎を見て。

 キジジ=ジキキは少しだけ困惑した顔をしてみせた。


「えーと、大丈夫ですか? なにやら、冒険者の方がほとんどいらっしゃいませんが……」

「なにぶん、疫病がはやっていますからねえ。詮索するつもりはありませんが、こんな時によくこの街に来ようと思いましたね。ちょっとびっくりです」

「あの、依頼を……構いませんか?」

「ご、ごめんなさい! ちゃんとしたお客様がくるのは久々で――はい、すぐに動ける冒険者を探す特急のお仕事ですと、料金が二割増しとなりますが……かまいませんか?」

「正規の料金でしたら、構いません」


 ギルド用亜空間から書類を取り出し、受付娘リリカが事務的な声で告げる。


「それではご依頼内容をお願いします」

「人を探す……というよりかは、会いたい方がいるのです。可能ならば、その方と謁見させていただきたいと存じておりますの。偉い方だとお聞きしているので、隣町から来たこちらとしては、直接お会いできるコネもなくて……あ、でも会えさえすれば、お話しをさせていただくアイテムを持っているので。接触のためのアポイントメントを取っていただくという依頼、になるのでしょうか」


 しまった。

 少し要領を得ない説明だったかと、キジジ=ジキキは失敗を実感していた。

 けれどだ。慣れない――説明下手な客の依頼も、整理して聞くことが可能な受付だったのだろう。


「大丈夫ですよ~、緊張なさらないでください。問題なく受理させていただきますので。それではお会いしたい方の名前や特徴をここに、それと可能ならばでいいのですが、そのアイテムも提示していただけると助かります。ログとして残し、アポを取る際の説明に使わせていただきますので」

「はい、えーと書くモノは……」

「あ、じゃあギルドの備品をお使いください。ちょびっと魔術発動に必要な詠唱をしますので、驚かないでくださいねえ……ちちんぷいぷい、秘密ぽこぽこ、中ぴっぴ。はい、こちらになりますねえ」


 秘密保持の結界を張りつつ言って、受付娘リリカは魔導ペンを召喚してみせる。

 こちらの大陸での技術。

 結界も魔導ペン召喚もギルドメイドの職業スキルなのだろう、キジジ=ジキキは少し関心を示していた。


「変わった詠唱ですね」

「ああ、これ、わたしのオリジナルなんですよ~♪」

「そ、そうなのですか。変わったなんて言ってごめんなさい」


 急ぎの用でなかったら、追及していたかもしれないが。


「幼女大司祭マギ……様、とこれで構いませんか?」

「あー……マギ様、ですか。これは……うーん、絶対に無理とは言いませんが……今はちょっと厳しいかもしれませんね」

「そうなのですか?」

「ええ、もうこの街の様子でお分かりだと思いますが、病がはやっておりまして。数少ないヒーラーのあの方は毎日各所を走り回っておいでなんですよ。なので、負担をあまりかけるわけにもいきませんし……なにより、お会いいただく時間を、物理的に取れないという可能性がありますので……」


 とりあえず、アポだけは取ってみますが期待はしないでください、と。

 受付娘リリカは、失敗した場合の規約を提示する。


「先に納めていただく依頼金は返却されます、ただし手数料として一割を引いた額となりますが。どうしますか?」

「はっきりと言っていただきたいのですが、アポが取れる可能性は」

「ほぼないですねえ。個人的な意見となって恐縮ですが、一割を無駄にされてしまうというパターンかと……いや、本当に、こちらの力不足で申し訳ないのですが……」


 キジジ=ジキキはしばし考え。


「分かりました。すみません、また別の機会にお願いすることにします」

「承知いたしました。それでは、また何かありましたら」


 魔女帽子の冒険者キジジ=ジキキがギルドの外にでる。

 供はまだ宿を取るのに苦労しているのだろう。

 どうしたものかと彼女は考え、ギルドから見える、唯一営業している露店に目をやっていた。


 焼き鳥である。


 人がまばらなので、まだ売れ残っているようだが……おいしそうだ。

 漂うのは塩と炭火の香りと、ほんのり焦げたタレの香り。

 魔女姫は多少心を動かされ、つい足を動かしそうになるが。

 それを呼び止めたのは、野太い、樽の中から響くような男の声だった。


「あんた、マギ様を探してるんだって?」


 振り返ると、目つきの悪い男がそこにいる。

 騎士になった山賊、といった様子の男だった。


「どうしてそれを?」

「リリカの野郎は秘密保持の結界と声で話してたのに、あんたはそのままだっただろ? ありゃあいけねえな。あんなに大声で話してりゃあ、いくらリリカが結界を張ってくれてても、外に聞こえるってもんだろうがよ」

「なるほど、すみません、この街の技術に疎いもので」


 酒の香りの息で、目つきの悪い男が言う。


「外の街の人間か」

「え、ええ……それでマギ様がどうかなされたのですか?」

「いや、なに。ちょっとコネがあるからな、会わせてやってもいいぜ?」

「でしたら、ギルドに向かいましょう。正式な依頼として……」

「おいおい、よせよせ。中抜きっていうのか? いや、意味は違うか、ともあれだ。仲介料とられちまったら損だろうが。それに、今ならいる場所を知ってるから会えるってだけだ。まあ、無理にとは言わねえが」


 キジジ=ジキキは考える。


「供がいるのです、合流してからでも構いませんか?」

「ああ、一緒に行ってやるよ。宿ならたぶんこっちだな、サービスで案内してやるよ」


 彼女は男についていくことにした。

 その視線が、焼き鳥の露店を振り向くが、ちょうど売り切れてしまったようで。

 吐いた息からは、少しだけ空腹の香りがした。


 また後で買いにくればいい。

 そう思いつつ、彼女は男の後を進んだ。


 ◇


 宿屋街がある場所へ案内すると男に言われ。

 キジジ=ジキキは路地裏の道を進む。


 足音が妙に気になる。

 どんどんと暗い場所へと進んでいる。

 ネズミさえも通らない暗い道に、女は訝しむように声を漏らした。


「あの、なんだか治安が悪そうな場所なのですが……」

「そりゃあ宿屋街は娼館が並ぶ場所でもあるからな、ちょっとはこうなるだろうさ」

「召喚? この街では召喚魔術も盛んなのですね」

「何にも知らねえんだな。どっかの箱入り娘なのか?」


 空気が、おかしくなっていた。

 なぜか足音が増えている。

 誰かが、待ち伏せしている?


「その、すみません――やっぱり、一度ギルドに戻っても」

「いいわけねえだろう?」


 ザン――っと。

 路地裏の冷たい壁に女を押し付け、男は女の白い頬の間近に、刃物をつきつけていた。

 刃から、銀の香りが漂う中。

 目つきの悪い男は、筋肉質な巨体で逃げ場を奪うように、顔を近づけ――。


 下卑た吐息が、女の肌を僅かに濡らす。


「このオレの顔を知らねえって事は、本当に隣町から来やがったんだな。やっぱ、関所の連中をぶっ殺しといて正解だったな。危うく、親父にバレるところだったじゃねえか」

「これは、どういうことです……っ」


 刃物の腹が、揶揄うようにキジジ=ジキキの頬を撫でる。


「はは、とぼけるんじゃねえよ。噂はもう聞いてるんだろう? オレの名はダイン。いまからてめえを弄ぶ、イケてる男の名前だ」


 ダイン。

 その名に、脳が揺れる。


 キジジ=ジキキは、息を呑んだ。

 男の正体に、その時ようやく気が付いたのだ。


 良き偶然の出会いがあるように。

 世の中には、悪しき偶然もまた、存在したのだろう。

 魔女姫キジジ=ジキキは今、悪意の中に晒されていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] たっけて〜イエスタえも〜ん!! ダインをブッころして〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ